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第2-1章 紅玉宮妃→????(新版)
「葬式終わった途端にこれですよ」
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皇太子の逝去で春華国は深い悲しみに包まれた。
皇太后がお亡くなりになってそう間もおかずだったのもあって、不吉だと騒がれた。
わたしは第五皇子の妃として葬儀に参列、上座寄りの席に座ることとなった。そのせいで主だった皇族方のお顔を拝むことになってしまった。
正直、今回に限っては末席の方が気が楽だったかもしれない。
一番取り乱していたのは他でもなく皇后だった。
皇太子は皇后の実子。母親がお腹を痛めて生んだ子に先立たれて悲しくないはずがない。何度も皇太子の名を叫び、皇太子の遺体が収められた棺桶に泣き縋る姿は悲痛なぐらい悲しさが伝わってきた。
さすがの皇帝もその不幸はこたえたようで、目に見えてやつれていた。それでも臣下達を心配させまいと堂々とした姿を見せていた。ただ、皇太子の最後の醜態には一切触れずにお言葉を述べていたのは臭い物に蓋をした感じがして複雑だったけれど。
義理の兄達も葬儀の場ではおとなしく皇太子を弔っていた。葬儀の後に開かれた会食の席では第二皇子も第三皇子も皇太子が次の皇帝に相応しかったと認めていたことを語ってくれた。それだけに晩節を汚した、と意見を一致させていた。
参列者達も概ねかけがえのない存在を失ったと悲しみに包まれていたけれど、次にはもうこの後について噂話を繰り広げていた。彼らは皇太子個人ではなく皇太子という身分の者が不在になったことの方が興味を持ったのね。
そう、次の皇太子には誰がなるか? と。
■■■
「それで陛下。次はお決めになったのですか?」
葬儀後の会食の席。単刀直入に切り出したのは第三皇子だった。
俯いたまま何の反応も示していなかった皇后もその不謹慎な発言には我慢できなかったらしく、せっかくの整ったお顔を台無しにするぐらい歪ませて立ち上がった。食卓を叩いたせいで汁物がこぼれたし、椅子が倒れて大きな音が鳴り響いた。
「翠玉宮……貴様、我が息子がいなくなった途端にそれか……!?」
「金剛の兄上が亡くなったからでしょうよ。いつまでも悲しんじゃいられないし、早々に次の皇太子を指名しないといけないんじゃないかな?」
「翠玉宮の言うとおりだ。いつまでも空席にしたままではいられんだろう。長引かせれば長引かせるほど事態がまずくなる一方だ」
「青玉宮まで……! 貴様ら、やはり裏では虎視眈々と我が息子を排して皇太子の座を狙っていたのだな――!」
「皆静まれ!」
言い争いに発展する直前、皇帝の一喝が室内に響き渡った。さすがの一言に皆口を閉ざした。
「葬儀後の会食は故人を偲ぶ場だ。そんな醜い争いを続けるでない」
「しかし陛下、小奴らは――!」
「黙れ、と申したのだ。逆らうと言うなら朕にも考えがあるが?」
「い、いえ。大変失礼致しました……」
なおも食い下がった皇后に対して皇帝が一睨み。皇后は深々と頭を下げて謝罪、おとなしく席についた。
不穏な空気が漂ったのもあってささやかに行われいた会話が途切れ、部屋の中は静寂に包まれた。
辟易しながら隣の暁明様を見つめると、彼もまたわたしが気になって視線を向けていて、思わず目が合った。どうやら彼もまたうんざりしていたらしく、思わず二人して笑ってしまった。「早く帰りたいね」「そうね」と呟き合ったのを覚えている。
「次の皇太子については一旦保留とする」
皇帝の一言で箸を皿の上に落としたのは誰だったか。前のめりだった第二皇子や第三皇子のみならず、一同が驚きをあらわにして皇帝へ視線を向けた。皆それどころではないとばかりに食事の手が止まっていた。
「何故だ陛下! 兄者がいなくなったなら次は俺だろう!」
「青玉の兄上に政治は無理じゃない? やっぱりぼくが務めるべきだよね」
「そう、青玉宮は武に優れ、翠玉宮は文に優れている。どちらが皇帝となっても春華国に更なる発展をもたらすことだろう」
「だったら何故――!」
「評価が拮抗しているのが問題なのだ。それは各々分かっていよう?」
皇帝の鋭い指摘に双方ぐうの音も出なかった。
そう、第二皇子は武官から支持され、第三皇子は文官から支持されている。どちらが皇帝になろうともう片方の陣営から不満が上がるのは必至。下手をすると春華国が真っ二つになり大混乱に陥る危険性すらあるんだ。
「お前達をあえて下に据え、黒曜宮や紅玉宮を皇帝に指名する案も検討している」
「「な……っ!」」
「追って方針は定める。以上だ」
第二皇子は歯ぎしりをし、第三皇子は唇を固く結んだ。二人共悔しそうに拳を固く握りしめて。皇帝の決定に二人は頭を下げたものの、暁明様や第四皇子を恨みを込めて睨んだ。怒り、妬み、様々な負の感情が淀んでいた。
しかし暁明様はこちらとて寝耳に水だし筋違いだ、と言いたげにわたしに苦笑いしてみせただで、全く気にしている素振りはなかった。それが頼もしくて、けれどおかしくて、思わず吹き出しそうになった。
「あ、あのぉ」
そんな険悪な空気が漂う中、恐る恐る手を上げて発言を求めてきたのは黒曜宮妃だった。これまでどんな会食やお茶会の場でも大人しくしていただけに、率先しての発言は珍しいにも程があった。
「何だ? 申してみよ」
「次の皇太子を選ぶよりもぉ、もっと大事なことがあると思うんですぅ」
まさかのその場では振られたくない話題が振られてきた。
案の定殆どの皇族、そしてその伴侶が反応を示した。ただし、憤慨する者もいれば恐怖する者もいて千差万別。皇太子の一件と同じく収拾がつきそうになかった。
「陛下! 兄者と義姉が死んだ原因はあの小娘だ!」
真っ先に怒鳴り声をあげたのはやはり第二皇子だった。隣では青玉宮妃が夫に賛同するように静かに頷いていた。
皇太子ご夫妻の終焉のきっかけになった魅音の話題は避けられない、か。
「奴は生かしておいても害にしかならん! 即刻処断すべきだろう!」
「それは金剛の兄上の心が弱かったせいじゃないの。それより外交の場に連れていけば相手を骨抜きに出来るよ。何なら色仕掛けさせてもいい」
「ほう。貴様なら制御出来る風な言い方だな、翠玉宮よ。裏では兄者と同じように心奪われてはいないだろうな?」
「はっ、青玉の兄上こそどうなんだよ? 危険だから殺すって言っちゃうの、これ以上自分が惑わされたくないからだったりしない?」
「お兄様方、いい加減になさってください!」
醜くもしょうもないいがみ合いに陥りそうだった状況を止めたのは第二皇女だった。毅然とした態度で第二皇子達に視線を送ったものだから、さしもの二人の皇子も黙らざるを得なかったようだ。
「そうやって反発し合うから皇太子の座も保留になったのではないですか? いつまでもその有様なようでしたら私が皇帝となります」
「女の猫目宮がだと? 笑わせるな!」
「笑止はこちらの台詞ですよ、青玉のお兄様は女にそこまで言わせる体たらくであることを自覚すべきかと」
「貴様、言わせておけば……!」
第二皇子は第二皇女があざ笑うと怒りをあらわにした。こんな沸点低くて権謀術数入り乱れる政治の世界で大丈夫なのかしら、と呆れてしまった。さぞ軽い神輿で操りやすいことでしょうね。
ちなみに皇位継承権順位としては、上の皇子から順に皇子の次が皇女。次に他の皇族となる。皇女が皇位を継ぐにも皇配が皇族でなければ駄目らしい。既に嫁いだ第一皇女はともかく、未婚の第二皇女ならやりようはいくらでもある。
「魅音については既に決定している通り、変更は無い」
「なっ……!?」
しかし、無情にも皇帝の意思は頑なだった。
第二皇子を始め、複数人が信じられないとばかりに驚愕の声をあげた。
「放っておくのか!? あ奴が翠玉宮を誑かして政治的混乱をもたらすとも限らんだろうが!」
「その言葉そっくりそのまま返すよ。青玉の兄上こそ鼻の下を伸ばして暴走するんじゃないの?」
「陛下、私も腑に落ちません。このままにしておけば国の崩壊も招きかねません。せめて山奥に幽閉するなりした方がよろしいかと」
「それはならぬ。あの者には宮廷にいてもらわねばならんのだ」
「どうしてですか?」
皇子皇女が問い詰めると皇帝は深い溜め息を漏らした。
その面持ちから見える感情は……恐怖? そう、春華国の君主であり絶対者、全ての采配を下す皇帝が何かに怯えていた。傍らの皇后も察したのか、青ざめて歯を鳴らしていた。
異常だった。国を脅かす輩は例え皇太后を一族もろとも容赦なく排除するのが春華国の常識。それほど皇帝の権力は強く、何でも叶う。外敵の蛮族共ならまだしも、一体何が皇帝を脅かすというのかしら?
「……魅音が我が祖母、すなわち今は亡き太上皇后の孫だからだ」
その一言は会食の場にいた一同は騒然となった。
皇太后がお亡くなりになってそう間もおかずだったのもあって、不吉だと騒がれた。
わたしは第五皇子の妃として葬儀に参列、上座寄りの席に座ることとなった。そのせいで主だった皇族方のお顔を拝むことになってしまった。
正直、今回に限っては末席の方が気が楽だったかもしれない。
一番取り乱していたのは他でもなく皇后だった。
皇太子は皇后の実子。母親がお腹を痛めて生んだ子に先立たれて悲しくないはずがない。何度も皇太子の名を叫び、皇太子の遺体が収められた棺桶に泣き縋る姿は悲痛なぐらい悲しさが伝わってきた。
さすがの皇帝もその不幸はこたえたようで、目に見えてやつれていた。それでも臣下達を心配させまいと堂々とした姿を見せていた。ただ、皇太子の最後の醜態には一切触れずにお言葉を述べていたのは臭い物に蓋をした感じがして複雑だったけれど。
義理の兄達も葬儀の場ではおとなしく皇太子を弔っていた。葬儀の後に開かれた会食の席では第二皇子も第三皇子も皇太子が次の皇帝に相応しかったと認めていたことを語ってくれた。それだけに晩節を汚した、と意見を一致させていた。
参列者達も概ねかけがえのない存在を失ったと悲しみに包まれていたけれど、次にはもうこの後について噂話を繰り広げていた。彼らは皇太子個人ではなく皇太子という身分の者が不在になったことの方が興味を持ったのね。
そう、次の皇太子には誰がなるか? と。
■■■
「それで陛下。次はお決めになったのですか?」
葬儀後の会食の席。単刀直入に切り出したのは第三皇子だった。
俯いたまま何の反応も示していなかった皇后もその不謹慎な発言には我慢できなかったらしく、せっかくの整ったお顔を台無しにするぐらい歪ませて立ち上がった。食卓を叩いたせいで汁物がこぼれたし、椅子が倒れて大きな音が鳴り響いた。
「翠玉宮……貴様、我が息子がいなくなった途端にそれか……!?」
「金剛の兄上が亡くなったからでしょうよ。いつまでも悲しんじゃいられないし、早々に次の皇太子を指名しないといけないんじゃないかな?」
「翠玉宮の言うとおりだ。いつまでも空席にしたままではいられんだろう。長引かせれば長引かせるほど事態がまずくなる一方だ」
「青玉宮まで……! 貴様ら、やはり裏では虎視眈々と我が息子を排して皇太子の座を狙っていたのだな――!」
「皆静まれ!」
言い争いに発展する直前、皇帝の一喝が室内に響き渡った。さすがの一言に皆口を閉ざした。
「葬儀後の会食は故人を偲ぶ場だ。そんな醜い争いを続けるでない」
「しかし陛下、小奴らは――!」
「黙れ、と申したのだ。逆らうと言うなら朕にも考えがあるが?」
「い、いえ。大変失礼致しました……」
なおも食い下がった皇后に対して皇帝が一睨み。皇后は深々と頭を下げて謝罪、おとなしく席についた。
不穏な空気が漂ったのもあってささやかに行われいた会話が途切れ、部屋の中は静寂に包まれた。
辟易しながら隣の暁明様を見つめると、彼もまたわたしが気になって視線を向けていて、思わず目が合った。どうやら彼もまたうんざりしていたらしく、思わず二人して笑ってしまった。「早く帰りたいね」「そうね」と呟き合ったのを覚えている。
「次の皇太子については一旦保留とする」
皇帝の一言で箸を皿の上に落としたのは誰だったか。前のめりだった第二皇子や第三皇子のみならず、一同が驚きをあらわにして皇帝へ視線を向けた。皆それどころではないとばかりに食事の手が止まっていた。
「何故だ陛下! 兄者がいなくなったなら次は俺だろう!」
「青玉の兄上に政治は無理じゃない? やっぱりぼくが務めるべきだよね」
「そう、青玉宮は武に優れ、翠玉宮は文に優れている。どちらが皇帝となっても春華国に更なる発展をもたらすことだろう」
「だったら何故――!」
「評価が拮抗しているのが問題なのだ。それは各々分かっていよう?」
皇帝の鋭い指摘に双方ぐうの音も出なかった。
そう、第二皇子は武官から支持され、第三皇子は文官から支持されている。どちらが皇帝になろうともう片方の陣営から不満が上がるのは必至。下手をすると春華国が真っ二つになり大混乱に陥る危険性すらあるんだ。
「お前達をあえて下に据え、黒曜宮や紅玉宮を皇帝に指名する案も検討している」
「「な……っ!」」
「追って方針は定める。以上だ」
第二皇子は歯ぎしりをし、第三皇子は唇を固く結んだ。二人共悔しそうに拳を固く握りしめて。皇帝の決定に二人は頭を下げたものの、暁明様や第四皇子を恨みを込めて睨んだ。怒り、妬み、様々な負の感情が淀んでいた。
しかし暁明様はこちらとて寝耳に水だし筋違いだ、と言いたげにわたしに苦笑いしてみせただで、全く気にしている素振りはなかった。それが頼もしくて、けれどおかしくて、思わず吹き出しそうになった。
「あ、あのぉ」
そんな険悪な空気が漂う中、恐る恐る手を上げて発言を求めてきたのは黒曜宮妃だった。これまでどんな会食やお茶会の場でも大人しくしていただけに、率先しての発言は珍しいにも程があった。
「何だ? 申してみよ」
「次の皇太子を選ぶよりもぉ、もっと大事なことがあると思うんですぅ」
まさかのその場では振られたくない話題が振られてきた。
案の定殆どの皇族、そしてその伴侶が反応を示した。ただし、憤慨する者もいれば恐怖する者もいて千差万別。皇太子の一件と同じく収拾がつきそうになかった。
「陛下! 兄者と義姉が死んだ原因はあの小娘だ!」
真っ先に怒鳴り声をあげたのはやはり第二皇子だった。隣では青玉宮妃が夫に賛同するように静かに頷いていた。
皇太子ご夫妻の終焉のきっかけになった魅音の話題は避けられない、か。
「奴は生かしておいても害にしかならん! 即刻処断すべきだろう!」
「それは金剛の兄上の心が弱かったせいじゃないの。それより外交の場に連れていけば相手を骨抜きに出来るよ。何なら色仕掛けさせてもいい」
「ほう。貴様なら制御出来る風な言い方だな、翠玉宮よ。裏では兄者と同じように心奪われてはいないだろうな?」
「はっ、青玉の兄上こそどうなんだよ? 危険だから殺すって言っちゃうの、これ以上自分が惑わされたくないからだったりしない?」
「お兄様方、いい加減になさってください!」
醜くもしょうもないいがみ合いに陥りそうだった状況を止めたのは第二皇女だった。毅然とした態度で第二皇子達に視線を送ったものだから、さしもの二人の皇子も黙らざるを得なかったようだ。
「そうやって反発し合うから皇太子の座も保留になったのではないですか? いつまでもその有様なようでしたら私が皇帝となります」
「女の猫目宮がだと? 笑わせるな!」
「笑止はこちらの台詞ですよ、青玉のお兄様は女にそこまで言わせる体たらくであることを自覚すべきかと」
「貴様、言わせておけば……!」
第二皇子は第二皇女があざ笑うと怒りをあらわにした。こんな沸点低くて権謀術数入り乱れる政治の世界で大丈夫なのかしら、と呆れてしまった。さぞ軽い神輿で操りやすいことでしょうね。
ちなみに皇位継承権順位としては、上の皇子から順に皇子の次が皇女。次に他の皇族となる。皇女が皇位を継ぐにも皇配が皇族でなければ駄目らしい。既に嫁いだ第一皇女はともかく、未婚の第二皇女ならやりようはいくらでもある。
「魅音については既に決定している通り、変更は無い」
「なっ……!?」
しかし、無情にも皇帝の意思は頑なだった。
第二皇子を始め、複数人が信じられないとばかりに驚愕の声をあげた。
「放っておくのか!? あ奴が翠玉宮を誑かして政治的混乱をもたらすとも限らんだろうが!」
「その言葉そっくりそのまま返すよ。青玉の兄上こそ鼻の下を伸ばして暴走するんじゃないの?」
「陛下、私も腑に落ちません。このままにしておけば国の崩壊も招きかねません。せめて山奥に幽閉するなりした方がよろしいかと」
「それはならぬ。あの者には宮廷にいてもらわねばならんのだ」
「どうしてですか?」
皇子皇女が問い詰めると皇帝は深い溜め息を漏らした。
その面持ちから見える感情は……恐怖? そう、春華国の君主であり絶対者、全ての采配を下す皇帝が何かに怯えていた。傍らの皇后も察したのか、青ざめて歯を鳴らしていた。
異常だった。国を脅かす輩は例え皇太后を一族もろとも容赦なく排除するのが春華国の常識。それほど皇帝の権力は強く、何でも叶う。外敵の蛮族共ならまだしも、一体何が皇帝を脅かすというのかしら?
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