元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる

福留しゅん

文字の大きさ
37 / 70

雪の中登校する元悪役令嬢

しおりを挟む
 冬がやってきた。

 貧民街でお母さんと一緒に過ごしていた頃は良質の薪なんて買えやしなかったから暖を取るのが大変だった。廃屋と化した家の壁や床を剥いで火にくべたりもしたか。ただ寒いからと家を締めきって火を燃やし続けると空気が悪くなるばかり。加減が大事だった。

 使用人寮に住むようになってからそんな心配もあまり無くなった。居間の大暖炉に火が付いていると寮全体が暖かくなるのだ。それでも寒い時は多く着込んで耐え凌ぐ。安物だろうと衣服や毛布に困らないのはとてもありがたいと感じる。

 けれど、今日はそんな工夫をあざ笑うように肌を刺すような寒さが襲った。

 朝目が覚めたら凍えるぐらい空気が冷たかった。寝具から抜け出たくない気持ちに駆られたけれど何とか自分に鞭打って抜け出す。それからカーテンを開けて外の様子を確認し……その異世界のような光景に圧倒された。

「雪……」

 山間部ならまだしも王都一帯はあまり雪が降らない。だから冬と言えばただ寒くて葉を失った寂しい木々が印象的しかない。個人的に冬の空はとても澄んでいて好きなのだけれど、他に褒める点が見当たらないと断言する。

 しかしそんな印象は雪が降ると覆る。一面の銀世界は見慣れた風景も様変わりさせてとても印象的だ。白化粧を施された貧民街は所々の汚さや寂れ、壊れを覆い隠れるため、暗い気持ちが飛んでいくような気がしたものだ。

(まあ、だからって毎日やることに変わりはないのだけれどね)

 圧倒されるのもそこそこに私は学園の制服に袖を通し、身支度を整えて寮を出発する。
 既に早朝番の使用人達が王宮に出勤しているのもあって道路上の雪はどかされていた。それでも雪に足を取られず、かつ滑らないよう慎重に確実に進んでいく。こんな時は藁で編んだ長靴が役に立つ。

 道を行き交う人達は慣れない雪に悪戦苦闘しているようだった。人通りの激しい街道は雪かきされているけれどすぐ入る脇道は通った人が道を作っていた。何人かが雪に埋もれた足を引っ張り出せずに転び、身体ごと顔が雪に埋もれていた。

「ごきげんよう、カレン」

 そんな新鮮な光景を眺めながら登校する私に並走するように馬車が速度を落とした。窓が開いて中から私を呼びかける凛とした、しかし甘くなでるような声が聞こえる。私は足元から脇へと視線を向け、声の主を捉えた。

「おはようございます、レオノール様」

 私は彼女、レオノールに恭しく一礼した。彼女は微笑をたたえてこちらを見下ろす。公爵家の馬車はその威厳を象徴するように豪華で精巧な作りをしていて、レオノールの美貌も合わさって実に周囲の視線を惹きつける。

「ここで会ったのも何かの縁。乗っていきなさい」
「いえ、折角のご提案ですが遠慮させて……」
「提案? 私は命じているの。お分かり?」
「……畏まりました」

 ここでレオノールに逆らうのは得策ではないし意固地になる事柄でもない。私はレオノールの誘いを受けて馬車に乗り込んだ。進行方向に背を向ける下座が空いていたので腰を落ち着ける。かつて従者だったイレーネの隣なのはかなり違和感を覚えた。

 扉を開けて冷たい空気が急に流れ込んだからか、レオノールは鼻をむずむずさせ、「は……は……くちゅん」と可愛らしいくしゃみをした。扇で口元を隠した辺りさすがだ。イレーネもすぐさまハンカチを取り出して主の鼻元をぬぐう。

「寒いわ。よくそんな恰好で登校しようと思ったわね」
「あいにくですがこれでも境遇は良くなりましたよ。昔は温かくなるならぼろきれを縫い合わせて服にしてでも着込んでいましたから」
「そう。私も何かを羽織れればいいのだけれど、周りの目を気にしなくてはいけなくて」
「あー。確かに防寒着完全装備だとみっともないですものね」

 毛糸のズボン、手袋、帽子、耳当て、マフラーを完全装備した公爵令嬢レオノールの姿を想像しただけで笑いがこみ上げてきた。今の私は見栄を張らずに済むから遠慮なくそう言った類を使っている。そこは貧民に生まれたことを感謝してもいい。

「レオノール様。差し出がましいですけど、王太子殿下とのご交流は上手くいっていますか? 芳しくないと殿下から聞いていますが」
「そんなの貴女には関係無い――」
「いいのよイレーネ。あの方との関係は良好よ。特に問題も無い……との回答は不満のようね」

 当たり前だ。その評価はジョアン様とはあくまで仕事仲間としたらの話だろう。
 レオノールは私が発した憤りを察したらしく、わずかに肩をすくめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド
恋愛
貴族の娘として生まれた公爵令嬢クラリッサ。 陰謀の濡れ衣を着せられ、華やかな社交界から追放――そして辿り着いたのは、ボロ小屋と畑だけの辺境村!? 「結構ですわ! 紅茶がなければハーブティーを淹れればいいじゃありませんの!」 貧乏生活でも持ち前の図太さで、村の改革に乗り出すクラリッサ。 貧乏でも優雅に、下剋上でも気高く! そんな彼女の前に現れたのは、前世(王都)で彼女を陥れた元婚約者……ではなく、なぜか彼の弟で村に潜伏していた元騎士で――? 「俺は見てた。貴女の“ざまぁ”は、きっとまだ終わっちゃいない。」 ざまぁとスローライフ、そしてちょっとの恋。 令嬢、辺境で図太く咲き誇ります!

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

処理中です...