最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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王太子敗れたり。ざぁこざぁこー

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「いや、でもあの時と全然違うじゃんか!」
「殿下。畏れながら申し上げますと、女とはいかようにも化ける生き物なのですよ」

 それは化粧で美しく装ったり、内心でほくそ笑みながら相手を褒めたり、不満を抑えながら優雅に振る舞う。女って存在はそうやって上辺と中身を使い分けるのさ。最低の屑だったあたしもしかり、胸糞悪い聖女だったマティルデしかりな。

「分かったぞ! イストバーンの奴が金を横領してお前の美容につぎ込んだんだろ!」
「馬鹿も休み休み仰ってくださいませ。美とは単に化粧を施して正装を身にまとえば得られるものでないでしょう」
「くそっ、イストバーンのくせにこんな目立つ女連れてくるなんて生意気な……!」

 とは言うもののあまりに上手く化けすぎたせいで王太子は衝撃を隠せないご様子で。更には隣のバルバラ様をチラ見した後に悪態をつく始末。

(おいおい、まさか伴侶とあたしを見比べてるんじゃねえだろうな?)

 不本意ながら素体は良いあたしと比較するのはちと酷って気もするけどな。バルバラ様だって見た目は綺麗な方なんだけど、まだ成熟してない子供と大人の中間ぐらいだし。
 むしろその不満をバルバラ様ご本人の目の前でぶちまけるバカ王子の無神経さに呆れる他無えわな。

 青ざめたバルバラ様を他所に王太子は勝手に納得したらしく、すぐに不敵な笑いを浮かべてきた。

「……はっ、まあいいさ。結局イストバーンが貴族の娘じゃなく部下の女官を引っ張り出してきた事実に変わり無いね。僕の予備とは言え王室の義務を果たさす素振りも見せないのは無責任じゃないか?」
「随分な言い草だな。そろそろ周りの迷惑だから口を慎んだ方がいい」
「何だと!?」

 周りの眼差しが視界に映らないまま口が止まらないバカ王子をさすがに見ていられなかったのか、イストバーン様が軽くたしなめた。なのに王太子は下に見ていた第一王子から指図されたと受け取ったのか、すぐ怒りをあらわにした。

「王室の義務云々言ってるが見当違いだ。俺は王位を継ぐつもりは無いんだから、別に由緒正しい家柄のご令嬢を妻に迎え入れる必要なんて無いだろ。なら誰を連れてこようが俺の勝手じゃないか」
「嘘だ! 知ってるんだぞ、お前が宮廷内の文官達の支持を集めてるってな。虎視眈々と王太子の座を狙ってるくせに!」
「そうやって王位継承権争いとかいう馬鹿馬鹿しい諍いで国を真っ二つにしたくないから、早々とヤーノシュが次の王にふさわしいって表明してるんだろ。それともヤーノシュは俺に簒奪者になって欲しいのか?」
「そ、そんなわけないだろ! 大人しくしてろよ!」

 なんかこのやり取り見てるだけでどっちが次の王者に相応しいか分かるようなものなんだけどな。このバカ王子ももっと賢かったらこんな評判ガタ落ちさせる感情むき出しな振る舞いを抑えただろうによ。

 こんな莫迦が次の王様とかこの国大丈夫か? と本気で心配し始めていたら、イストバーン様に急に肩を掴まれて引き寄せられた。不意打ちだったものだからイストバーン様に寄りかかる形になっちまう。

 ちょ、近い近い! クソ女だった前回を合わせてもこんな異性に密着したことなんざ無かったぞ。なのに、調子が狂うことに、強引さへの怒りは微塵も感じず、むしろまんざらでもない自分がいるんだよなあ。

「それに、貴族だとか平民だとか関係無いね。俺はギゼラを連れ添いたかったから頼み込んだ。見た目とか気品なんておまけみたいなものだぞ。なあ、ギゼラ」
「はい、私も嬉しゅうございます」

 優しく見つめてきたのであたしも喜びをあらわにした。バカ王子への当てつけも無くはなかったけど、正直な気持ちがそのまま口に出てきただけだ。
 ……ちょっとイストバーン様、どうして顔を紅色に染めてあたしから視線を逸らす?

「ぐっ……! もういい!」

 あたし達二人だけの世界を見せつけられたバカ王子はぷりぷりしながらその場を去っていった。相方のバルバラ様も慌ててこちらに一礼して後を追う。その姿は正に口喧嘩に負けたくせに言い訳を零しながら逃げてく負け犬そのものだ。

 ふっ、口ほどにもねえな。
 おととい来やがれってんだ。
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