最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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もうこうなりゃ最終手段だ

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「俺も、さすがに現状で神聖帝国に飛び込むのは不安があるな。ここぞとばかりにラインヒルデ皇女がほのめかしてる婿入りを進められかねないんだよな」

 そしてこんな懸念もある。ラインヒルデ本人はあたしを呼び戻す口実に仄めかしてる程度なんだが、神聖帝国の繁栄を盤石にするために本気でイストバーン様を取り込もうと考えてる連中だって少なくねえ。そして、打診されたら最後だ。

 てなわけで、一番現実的なのはあたしが実家の公爵家に頭下げて迎え入れてもらい、イストバーン様は適当な貴族令嬢と婚約する、か。ここまで準備を整えた上で神聖帝国に挑めばぐうの音も出ねえんだが……。

「はあ。なーんかお二人共、すっごく回り道してませんか?」
「本当だよねえ」

 もやもやが晴れねえあたし等に呆れ果てたようにマティルデが大きなため息を吐いてくる。あたしが文句言う前にマティルデは周囲を見渡して同意を促しやがって、ヨーゼフ様達が大きく頷いてくるものだから、もう何も言えねえ。

「なまじ優秀なものだから問題を自分だけで解決しようとするのは損だってわたし思うんですけれど」
「んだよ。だったらマティルデにはあっという間に片付く解決策でもあるとでも?」
「ありますよ」

 断言しやがった。しかもヨーゼフ様達まで同意を示す有様。
 分かってないのはあたしとイストバーン様だけみたいで、二人して顔を見合わせた。

「あー、信じてないようですね。でしたら今日仕事が終わったらわたしと付き合って下さい。心配を無くしてあげますから」
「殿下もですよ。僕が付き添いますから」

 マティルデとヨーゼフ様ににやにやされながら色々と考えて、一つの可能性が頭に浮かんだ。それはあたしには不相応だと早々に振り払ったとんでもない一手だ。やったら最後、もうあたしは後戻りが出来ねえ領域に足を突っ込む破目になる。

 イストバーン様も気付いた、と言うより観念したようで、気難しい顔をしながら頭をかいて、次には「よしっ」と口ずさみつつ意気込んで、決意を込めた強い眼差しをあたしに送ってきた。

「やっぱりこれしか無いな。ギゼラ、悪いんだが覚悟を決めてくれ」
「……はっ、今更さ。覚悟なんてイストバーン様の手を取った時にもう決めてる」

 それがとても心地よくて、つい顔がほころんでしまった。

 ラインヒルデの発破がけもマティルデの後押しも、現状に満足して更に踏み込めなかったあたしへの叱咤だ。言い訳ばっかで先延ばしにして、けれど掠め取られようとしたら焦って怒り出す体たらく。つくづくみっともねえ。

 だがもう目を逸らすのは無しだ。
 身分だの宿命だの義務だの関係無え。あたしはあたしの素直な気持ちに従うまでだ。
 立ち向かえってのはこういうのも含まれるんだろ、ラインヒルデ様。

「なら仕事終わりだなんてじれったい。今すぐ行こうじゃないか」
「は? 随分と急だな」
「嫌か?」
「その思い切りの良さ、イストバーン様らしいよ」

 今日やらなきゃいけない仕事の書類束をヨーゼフ様とマティルデに押し付けたあたし達はまだ空が明るい時間帯に早退した。文句言われるかと思いきやヨーゼフ様とマティルデは「やっとか」と言わんばかりに苦笑するだけだった。

 こうしてあたし達二人は王都にそびえ立つ大聖堂に駆け込んだ。
 んで、神様の前で永遠の愛を誓いあった。

 そんなわけであたし達は拍子抜けするぐらいあっさり夫婦になったわけだ。
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