62 / 82
受けて立つと決めたはいいが、どうしたもんか
しおりを挟む
イストバーン様は興奮冷めやらぬあたしを見つめ何やら考え込む。執務室内が静寂に包まれたことでようやくあたしも頭が冷えてきたので、自分を落ち着かせるために深呼吸を何回かした。それから腕を伸ばして伸びもしておく。
「そもそもだ、俺がこんな申し入れを受けるわけが無いだろ。父上が譲位する意向を示したことでヤーノシュの即位は確実。そうなったら弟に世継ぎが出来るまでの間は俺が王位継承権第一位だ。その立場を投げ捨てるわけにはいかない」
「それぐらい分かってるよ」
「逆もそうだ。ラインヒルデ皇女がそれを分からない筈がない。元からこの申し入れは破綻してるんよ。ならこの手紙の意図はギゼラを呼び戻すための挑発に過ぎないんだが……もっと深い意図があるように思える」
「深い意図だぁ? ……まあ、確かに?」
そもそもあたしを強制的に神聖帝国に呼び戻すんなら神聖帝国の名において命令を下せばいい。脱走者を引き渡せって迫ればいくらイストバーン様でも庇いきれないだろうから。それだけ神聖帝国と王国との間には明確な差があるしな。
しかしそれをやらずにわざわざあたしの逆鱗に触れる真似をしてくるんだから、もっと別のこともあたしにしてもらいたいんだろう。自分の意志で出戻る……だと理由付けに乏しいんだよな。
「んじゃあ何のために皇女殿下はこんな回りくどい真似してきやがったんだ?」
「それを踏まえてどうするって聞いたんだよ。抗議するだけは無しなんだろ?」
「あたしは一回神聖帝国に戻るってのはもう決めた。向こうもそう望んでるしな。問題はどの立場で何をしに戻るか、か」
「俺が一年間の留学に誘われたこととも繋がると思うんだよな」
イストバーン様が一年間留学しに行くのにあたしだけラインヒルデを叩きのめしてさようならするのは絶対違う。多分文章から読み取る感じだとあたしにも一年間帝国学園に通えって言ってきてるようなものだよな。
当然イストバーン様はパンノニア王国王子として、になるし、あたしはお付きの文官として向かうことに……いや、それが正しいわけねえよなあ。ラインヒルデが去り際にあたしに突きつけてきた言葉を思い出すなら。
「皇女殿下は今度はあたしが運命を克服する番だ、とか言ってたな。このままの立場で出戻ってそれを成し遂げられるか、ってーと……ぶっちゃけ自信無え」
帝国学園は魔窟だ。悪意を振りまく筆頭だったあたしが言うのも何だが、帝国市民は平等に学ぶ権利がある、だなんて上辺だけで実際は社交界の準備段階とばかりに自分達の家柄を誇示して威張り散らす。個人の能力なんざ二の次でな。
公爵令嬢、聖女候補、皇太子の婚約者、と三拍子揃った前回のあたしはもう無敵だった。更に成績も優秀で容姿端麗で、性根が腐りきってる以外は非の打ち所がなかったのもあって、あたしに逆らう奴なんざマティルデぐらいだったか。
が、今回はそんな後ろ盾は全部かなぐり捨てちまってる。個人的に絡まれる分には別に大した事ないんだが、社会的権力を振りかざされたらイストバーン様に迷惑をかけちまう。そんなしょうもねえ事に手を煩わせるわけにはいかねえ。
「そもそもだ、俺がこんな申し入れを受けるわけが無いだろ。父上が譲位する意向を示したことでヤーノシュの即位は確実。そうなったら弟に世継ぎが出来るまでの間は俺が王位継承権第一位だ。その立場を投げ捨てるわけにはいかない」
「それぐらい分かってるよ」
「逆もそうだ。ラインヒルデ皇女がそれを分からない筈がない。元からこの申し入れは破綻してるんよ。ならこの手紙の意図はギゼラを呼び戻すための挑発に過ぎないんだが……もっと深い意図があるように思える」
「深い意図だぁ? ……まあ、確かに?」
そもそもあたしを強制的に神聖帝国に呼び戻すんなら神聖帝国の名において命令を下せばいい。脱走者を引き渡せって迫ればいくらイストバーン様でも庇いきれないだろうから。それだけ神聖帝国と王国との間には明確な差があるしな。
しかしそれをやらずにわざわざあたしの逆鱗に触れる真似をしてくるんだから、もっと別のこともあたしにしてもらいたいんだろう。自分の意志で出戻る……だと理由付けに乏しいんだよな。
「んじゃあ何のために皇女殿下はこんな回りくどい真似してきやがったんだ?」
「それを踏まえてどうするって聞いたんだよ。抗議するだけは無しなんだろ?」
「あたしは一回神聖帝国に戻るってのはもう決めた。向こうもそう望んでるしな。問題はどの立場で何をしに戻るか、か」
「俺が一年間の留学に誘われたこととも繋がると思うんだよな」
イストバーン様が一年間留学しに行くのにあたしだけラインヒルデを叩きのめしてさようならするのは絶対違う。多分文章から読み取る感じだとあたしにも一年間帝国学園に通えって言ってきてるようなものだよな。
当然イストバーン様はパンノニア王国王子として、になるし、あたしはお付きの文官として向かうことに……いや、それが正しいわけねえよなあ。ラインヒルデが去り際にあたしに突きつけてきた言葉を思い出すなら。
「皇女殿下は今度はあたしが運命を克服する番だ、とか言ってたな。このままの立場で出戻ってそれを成し遂げられるか、ってーと……ぶっちゃけ自信無え」
帝国学園は魔窟だ。悪意を振りまく筆頭だったあたしが言うのも何だが、帝国市民は平等に学ぶ権利がある、だなんて上辺だけで実際は社交界の準備段階とばかりに自分達の家柄を誇示して威張り散らす。個人の能力なんざ二の次でな。
公爵令嬢、聖女候補、皇太子の婚約者、と三拍子揃った前回のあたしはもう無敵だった。更に成績も優秀で容姿端麗で、性根が腐りきってる以外は非の打ち所がなかったのもあって、あたしに逆らう奴なんざマティルデぐらいだったか。
が、今回はそんな後ろ盾は全部かなぐり捨てちまってる。個人的に絡まれる分には別に大した事ないんだが、社会的権力を振りかざされたらイストバーン様に迷惑をかけちまう。そんなしょうもねえ事に手を煩わせるわけにはいかねえ。
26
あなたにおすすめの小説
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
捨てられた聖女は穢れた大地に立つ
宵森 灯理
恋愛
かつて聖女を輩出したマルシーヌ聖公家のソフィーとギルレーヌ王家のセルジュ王子とは古くからの慣わしにより婚約していたが、突然王子から婚約者をソフィーから妹のポレットに交代したいと言われる。ソフィーの知らぬ間に、セルジュ王子とソフィーの妹のポレットは恋仲になっていたのだ。
両親も王族もポレットの方が相応しいと宣い、ソフィーは婚約者から外されてしまった。放逐された失意のソフィーはドラゴンに急襲され穢れた大地となった隣国へ救済に行くことに決める。
実際に行ってみると、苦しむ人々を前にソフィーは、己の無力さと浅はかさを痛感するのだった。それでも一人の神官として浄化による救助活動に勤しむソフィーの前に、かつての学友、ファウロスが現れた。
そして国と民を救う為、自分と契約結婚してこの国に留まって欲しいと懇願されるのだった。
ソフィーは苦しむ民の為に、その契約を受け入れ、浄化の活動を本格化させる。人々を救っていく中でファウロスに特別な感情を抱きようになっていったが、あくまで契約結婚なのでその気持ちを抑え続けていた。
そんな中で人々はソフィーを聖女、と呼ぶようになっていった。彼女の名声が高まると、急に故郷から帰ってくるように、と命令が来た。ソフィーの身柄を自国に戻し、名声を利用とする為に。ソフィーとファウロスは、それを阻止するべく動き出したのだった。
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
婚約者を処刑したら聖女になってました。けど何か文句ある?
春夜夢
恋愛
処刑台に立たされた公爵令嬢エリス・アルメリア。
無実の罪で婚約破棄され、王都中から「悪女」と罵られた彼女の最期――
……になるはずだった。
『この者、神に選ばれし者なり――新たなる聖女である』
処刑の瞬間、突如として神託が下り、国中が凍りついた。
死ぬはずだった“元・悪女”は一転、「聖女様」として崇められる立場に。
だが――
「誰が聖女? 好き勝手に人を貶めておいて、今さら許されるとでも?」
冷笑とともに立ち上がったエリスは、
“神の力”を使い、元婚約者である王太子を皮切りに、裏切った者すべてに裁きを下していく。
そして――
「……次は、お前の番よ。愛してるふりをして私を売った、親友さん?」
清く正しい聖女? いいえ、これは徹底的に「やり返す」聖女の物語。
ざまぁあり、無双あり、そして……本当の愛も、ここから始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる