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新悪女もあたしにかかりゃあちょろいもんよ
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「ところで、ドロテア様はどうして突然わたくしが神聖帝国を離れたかご存知ですか?」
「はっ、皇太子殿下をお救いするためとの噂も流れていますが、大方公爵家の娘としての自覚が足りずに逃げ出しただけでしょう」
「半分正解です。わたくしはですね、己の運命を受け入れられずに逃げ出したのです。そう、本来ならわたくしが貴女様の立ち位置でしたわね」
「はあ?」
あたしはおもむろに立ち上がり、ドロテアの胸元に指を突きつけてやった。
「予言しましょう。ドロテア様はその悪意の果てに身を滅ぼすことでしょう。それも、憎きイオナさんの手によってね」
あたしが笑みをこぼして死の宣告を投げ放ってやると、ドロテアは顔を青ざめさせてわずかに震えだす。けれどすぐさま恐怖を振り払うようにあたしを睨みつけると、あたしの手を振り払ってきた。
「で……デタラメを仰っしゃらないで! 何を根拠にそんな戯言を……!」
「イオナさんは真の聖女ですもの。周りを惑わし悪意をばらまく貴女様を排除すべき悪といずれは断定なさるでしょうね。ラースロー殿下も自分を見下すドロテア様を疎ましく思って縁を切りたがるのも自然の流れですわ」
「そ、そう簡単にわたくしが破滅させられる、とでも?」
精一杯虚勢を張るドロテアが何だか可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
「友人だと思っていた方は嘲笑ってくるでしょう。親兄弟は冷たく突き放すでしょう。教師も、使用人達も、見知らぬ市民すら、ドロテア様を罰せられて当然の悪女と罵ってくるでしょう。地下牢に叩き込まれた初日にどんな仕打ちを受けるか事細かく教えて差し上げましょうか? 身ぐるみを剥がされその男を知らぬ身体を汚らわしい手で――」
「止めてっ! 聞きたくない!」
ドロテアは叫び声を上げると両耳を塞いでしゃがみ込んだ。
思った以上の反応を見せてくれたため笑いがこみ上げると思ったんだが……まるで前回のあたし自身を見せつけられているようで心が傷んだ。
「ドロテア様。自己顕示欲が満たされないからラースロー殿下が思い通りにいかない事に苛立つ気持ちは理解しますが、彼はそこまでするほどの人間なのですか?」
「……は?」
「ラインヒルデ皇太子殿下がいる限り、彼は良くても臣下降格後に公爵拝命。あの程度の能力と人格なら伯爵程度に落ち着くかもしれませんわね。泥舟に乗るようだ、とでも比喩しましょうか。落ちぶれてまで彼の面倒を生涯見たい、と酔狂な未来を思い描いてらっしゃるのですか?」
「そ、それは……」
そんなわけねぇよな~。あんのバカ皇子の尻拭いなんざもう頼まれたって嫌だね。それは前回のあたしと同じように皇子妃候補者として接してきて散々思い知ってるだろ。皇太子でも何でもねえ今のラースローなんざと地獄に引きずり込まれるのは御免だ。
「今ならまだ間に合いますわ。損切りをなさるべきです」
「わたくしに殿下の婚約者を辞退しろ、と申すのですか……!?」
「公爵家の有責になると危惧なされているのでしたら、わたくしからラインヒルデ殿下に口添えしてもよろしくてよ。全ては貴女様のお心次第です」
「――……」
おー、ドロテアが視線を彷徨わせて迷ってる。あたしの口車に乗るか、これまでの自分を信じるか、を決めかねてるって辺りか。このまま眺めてるのも悪くねえんだが、時間が惜しいからダメ押ししてやるとするか。
「ドロテア様ほどの女性でしたらあんな不誠実な男より遥かに良い殿方との良縁にも恵まれるでしょう。何をためらう必要があるのですか?」
「わ、わたくしは……」
「何でしたら密かに婚約解消しておき、あの男が馬脚を現した際に返り討ちにすべく準備を進めても宜しいのでは? このまま馬鹿にされっぱなしなのは癪でしょう」
「……信じて、よろしいのですね?」
乗ってきたー!
盛り上がってまいりました!
駄目だ、まだ笑うな。堪えるんだ。しかし……、
「ラースロー皇子こそドロテア様を惑わす悪です。あの男への復讐を検討するのでしたらわたくしも手を差し伸べましょう。いかがかしら?」
「ええ……よろしくてよ」
これを笑わずして何をしろってんだよ!
あたしが親身になってドロテアに寄り添うと、不安だったのか彼女もあたしに身を預けてきた。丁度彼女の額が首下に乗っかる形になったので彼女からあたしの表情は見えないだろうけど、きっと悪い笑顔してるんだろうなぁ。
こうしてあたしは公爵令嬢ドロテアを手中に収めることに成功した。
これを聞いたマティルデ、呆れながら真の悪女になったと言ってきやがった。
だがラースローの奴は盛大に懲らしめてやりたいし、必要経費だろ。
「はっ、皇太子殿下をお救いするためとの噂も流れていますが、大方公爵家の娘としての自覚が足りずに逃げ出しただけでしょう」
「半分正解です。わたくしはですね、己の運命を受け入れられずに逃げ出したのです。そう、本来ならわたくしが貴女様の立ち位置でしたわね」
「はあ?」
あたしはおもむろに立ち上がり、ドロテアの胸元に指を突きつけてやった。
「予言しましょう。ドロテア様はその悪意の果てに身を滅ぼすことでしょう。それも、憎きイオナさんの手によってね」
あたしが笑みをこぼして死の宣告を投げ放ってやると、ドロテアは顔を青ざめさせてわずかに震えだす。けれどすぐさま恐怖を振り払うようにあたしを睨みつけると、あたしの手を振り払ってきた。
「で……デタラメを仰っしゃらないで! 何を根拠にそんな戯言を……!」
「イオナさんは真の聖女ですもの。周りを惑わし悪意をばらまく貴女様を排除すべき悪といずれは断定なさるでしょうね。ラースロー殿下も自分を見下すドロテア様を疎ましく思って縁を切りたがるのも自然の流れですわ」
「そ、そう簡単にわたくしが破滅させられる、とでも?」
精一杯虚勢を張るドロテアが何だか可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
「友人だと思っていた方は嘲笑ってくるでしょう。親兄弟は冷たく突き放すでしょう。教師も、使用人達も、見知らぬ市民すら、ドロテア様を罰せられて当然の悪女と罵ってくるでしょう。地下牢に叩き込まれた初日にどんな仕打ちを受けるか事細かく教えて差し上げましょうか? 身ぐるみを剥がされその男を知らぬ身体を汚らわしい手で――」
「止めてっ! 聞きたくない!」
ドロテアは叫び声を上げると両耳を塞いでしゃがみ込んだ。
思った以上の反応を見せてくれたため笑いがこみ上げると思ったんだが……まるで前回のあたし自身を見せつけられているようで心が傷んだ。
「ドロテア様。自己顕示欲が満たされないからラースロー殿下が思い通りにいかない事に苛立つ気持ちは理解しますが、彼はそこまでするほどの人間なのですか?」
「……は?」
「ラインヒルデ皇太子殿下がいる限り、彼は良くても臣下降格後に公爵拝命。あの程度の能力と人格なら伯爵程度に落ち着くかもしれませんわね。泥舟に乗るようだ、とでも比喩しましょうか。落ちぶれてまで彼の面倒を生涯見たい、と酔狂な未来を思い描いてらっしゃるのですか?」
「そ、それは……」
そんなわけねぇよな~。あんのバカ皇子の尻拭いなんざもう頼まれたって嫌だね。それは前回のあたしと同じように皇子妃候補者として接してきて散々思い知ってるだろ。皇太子でも何でもねえ今のラースローなんざと地獄に引きずり込まれるのは御免だ。
「今ならまだ間に合いますわ。損切りをなさるべきです」
「わたくしに殿下の婚約者を辞退しろ、と申すのですか……!?」
「公爵家の有責になると危惧なされているのでしたら、わたくしからラインヒルデ殿下に口添えしてもよろしくてよ。全ては貴女様のお心次第です」
「――……」
おー、ドロテアが視線を彷徨わせて迷ってる。あたしの口車に乗るか、これまでの自分を信じるか、を決めかねてるって辺りか。このまま眺めてるのも悪くねえんだが、時間が惜しいからダメ押ししてやるとするか。
「ドロテア様ほどの女性でしたらあんな不誠実な男より遥かに良い殿方との良縁にも恵まれるでしょう。何をためらう必要があるのですか?」
「わ、わたくしは……」
「何でしたら密かに婚約解消しておき、あの男が馬脚を現した際に返り討ちにすべく準備を進めても宜しいのでは? このまま馬鹿にされっぱなしなのは癪でしょう」
「……信じて、よろしいのですね?」
乗ってきたー!
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「ラースロー皇子こそドロテア様を惑わす悪です。あの男への復讐を検討するのでしたらわたくしも手を差し伸べましょう。いかがかしら?」
「ええ……よろしくてよ」
これを笑わずして何をしろってんだよ!
あたしが親身になってドロテアに寄り添うと、不安だったのか彼女もあたしに身を預けてきた。丁度彼女の額が首下に乗っかる形になったので彼女からあたしの表情は見えないだろうけど、きっと悪い笑顔してるんだろうなぁ。
こうしてあたしは公爵令嬢ドロテアを手中に収めることに成功した。
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