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14話 メイドと約束、家庭教師の香り
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屋敷に戻ると、廊下で沙耶香さんが出迎えてくれた。
俺の手元にあるスマホをちらりと見て、柔らかく微笑む。
「坊ちゃま。そのスマホ、とても大事そうにお持ちですね。……何か思い出でも作られましたか?」
「っ……!」
思わず固まる俺。透子との“秘密”の撮影会のことを思い出し、心臓が跳ねる。
「……い、いや、別に」
「そうですか? 私という人がいながら、浮気でも?」
「ふ、浮気って……そもそも俺たち付き合ってないだろ」
「ふふっ、そうでしょうか。ひとつ屋根の下で暮らして、朝も夜も共にして……。それはもう、恋人と大差ないように思えますが?」
冗談めかして言いながらも、瞳の奥にほんのわずか影がさしたのを俺は見逃さなかった。
――隠し事をされたことに、少し不満で、少し嫉妬しているのだ。
(……なんだこれ。俺、沙耶香さんの機嫌取りまで考えてるのか? 家族サービスかよ……)
心の中で苦笑しつつも、不思議と悪い気はしなかった。
むしろ――少しは時間を作ってやるべきなのかもしれない。
「……なあ、来週。ちょっと出かけてみないか?」
「まあ……それは、デートのお誘いと受け取ってよろしいのですね?」
「ち、違っ……! ただの気分転換だって!」
沙耶香さんは唇に指をあてて微笑んだ。
「……ふふ。そういうことにしておきましょう。楽しみにしていますね、坊ちゃま」
俺は耳まで真っ赤になりながら、内心「完全にデートの約束じゃねえか」と頭を抱えるのだった。
翌日の放課後
家庭教師の篠原美優さんが、俺の部屋に入ってきた。
「……やっぱり健斗くんのお部屋って、落ち着くわね。ちゃんと整頓してるじゃない」
「いや、まあ……それなりに」
机にノートと参考書を広げ、勉強会が始まった。
美優さんは真剣な顔でペンを走らせ、いつもの“先生モード”だ。
「……あれ? いつもと違う匂いがします」
「気づいちゃった? 今日はちょっと香水を変えてみたの」
「へえ……似合ってます」
思わず口にすると、美優さんは少し照れたように微笑む。
「ありがとう。これね、男の人に買ってもらったの」
「……っ」
胸がざわつく。
(男の人に……って、誰だよ。まさか恋人とか……?)
勝手にモヤモヤしている俺を見て、美優さんは小さく笑った。
「ふふ、健斗くんったら。そんな顔しなくても大丈夫よ。――弟からのプレゼントなの」
「え……弟?」
「そう。まだ中学生だけど、私に似合うと思って選んでくれたの」
からかわれたような気がして、思わず頬が熱くなる。
「な、なんだ……」
「ふふっ。かわいいわね、健斗くん」
その後は真剣に問題を解いた。
でも渡されたのは、見たことのない難しい問題集。
「これ……どこの問題ですか?」
「私のところの大学受験の過去問よ。少し難しいけれど、健斗くんなら挑戦できると思って」
「えっ、受験の……!?」
「そう。高校一年生でここまで解けたら、すごい自信になるわ」
必死に頭をひねり、時間をかけて答えを書き出す。
緊張で手に汗をかきながらも、なんとか解き終えた。
「……できました」
「見せて」
美優さんは丁寧に答案を見て、ふっと表情を和らげた。
「――すごいじゃない。正解よ。これなら難関大学の受験生にも引けを取らないわ」
そう言うと、彼女は思わず身を乗り出し、俺の頭に手を置いた。
「よく頑張ったわね、健斗くん」
軽く抱き寄せられるようにして、優しく髪を撫でられる。
香水の大人っぽい香りが近くに広がり、心臓が爆発しそうになる。
(……やばい……勉強どころじゃない……!)
美優さんの笑顔と香りに包まれながら、俺はただ必死に平静を装うしかなかった。
ひと区切りついたところで、美優さんがぱんと手を合わせた。
「はい、休憩にしましょう。今日は差し入れを持ってきたの」
バッグから出したのは、小さなタッパーに入った焼き菓子。
「私が焼いたクッキーよ。健斗くん、甘いの好きでしょ?」
「えっ、手作りですか!? すごいですね!」
目を輝かせる俺に、美優さんはちょっと照れたように笑った。
「大げさね。でも、そう言ってもらえると嬉しいわ」
そこへノックの音。
「失礼いたします、坊ちゃま。紅茶をお持ちしました」
入ってきたのは沙耶香さんだった。銀のトレイにカップを並べ、優雅な所作でテーブルに置いていく。
「おや、篠原様。今日は手作りのお菓子まで……健斗坊ちゃまは幸せ者ですね」
「ふふ……そうかしら」
美優さんは頬をほんのり赤くしながら返した。
「さあ、坊ちゃま。どうぞごゆっくり」
沙耶香さんは意味ありげに微笑んで部屋を後にした。
(……なんか今、妙なプレッシャーを感じたような……?)
とにかく、二人で紅茶とお菓子をいただく。
ところが、カラン、とスプーンが俺の膝に落ちた。
「きゃっ、ご、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫です!」
慌てて拾おうとした美優さんと肩がぶつかり、さらに顔を上げた拍子に額がコツン。
「いった……!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
至近距離で見つめ合い、二人同時に赤面する。
紅茶で誤魔化すように一口飲んだ美優さんは、苦笑いしながら呟いた。
「ふふ……私、やっぱりドジね。家庭教師なのに」
「い、いや……むしろ楽しいです!」
その言葉に、美優さんはほっとしたように笑った。
「……健斗くんにそう言ってもらえると、なんだか安心するわ」
紅茶の湯気と甘い焼き菓子の香り。
大人っぽさとドジっ子らしさのギャップに、胸が妙に落ち着かなくなる俺だった。
俺の手元にあるスマホをちらりと見て、柔らかく微笑む。
「坊ちゃま。そのスマホ、とても大事そうにお持ちですね。……何か思い出でも作られましたか?」
「っ……!」
思わず固まる俺。透子との“秘密”の撮影会のことを思い出し、心臓が跳ねる。
「……い、いや、別に」
「そうですか? 私という人がいながら、浮気でも?」
「ふ、浮気って……そもそも俺たち付き合ってないだろ」
「ふふっ、そうでしょうか。ひとつ屋根の下で暮らして、朝も夜も共にして……。それはもう、恋人と大差ないように思えますが?」
冗談めかして言いながらも、瞳の奥にほんのわずか影がさしたのを俺は見逃さなかった。
――隠し事をされたことに、少し不満で、少し嫉妬しているのだ。
(……なんだこれ。俺、沙耶香さんの機嫌取りまで考えてるのか? 家族サービスかよ……)
心の中で苦笑しつつも、不思議と悪い気はしなかった。
むしろ――少しは時間を作ってやるべきなのかもしれない。
「……なあ、来週。ちょっと出かけてみないか?」
「まあ……それは、デートのお誘いと受け取ってよろしいのですね?」
「ち、違っ……! ただの気分転換だって!」
沙耶香さんは唇に指をあてて微笑んだ。
「……ふふ。そういうことにしておきましょう。楽しみにしていますね、坊ちゃま」
俺は耳まで真っ赤になりながら、内心「完全にデートの約束じゃねえか」と頭を抱えるのだった。
翌日の放課後
家庭教師の篠原美優さんが、俺の部屋に入ってきた。
「……やっぱり健斗くんのお部屋って、落ち着くわね。ちゃんと整頓してるじゃない」
「いや、まあ……それなりに」
机にノートと参考書を広げ、勉強会が始まった。
美優さんは真剣な顔でペンを走らせ、いつもの“先生モード”だ。
「……あれ? いつもと違う匂いがします」
「気づいちゃった? 今日はちょっと香水を変えてみたの」
「へえ……似合ってます」
思わず口にすると、美優さんは少し照れたように微笑む。
「ありがとう。これね、男の人に買ってもらったの」
「……っ」
胸がざわつく。
(男の人に……って、誰だよ。まさか恋人とか……?)
勝手にモヤモヤしている俺を見て、美優さんは小さく笑った。
「ふふ、健斗くんったら。そんな顔しなくても大丈夫よ。――弟からのプレゼントなの」
「え……弟?」
「そう。まだ中学生だけど、私に似合うと思って選んでくれたの」
からかわれたような気がして、思わず頬が熱くなる。
「な、なんだ……」
「ふふっ。かわいいわね、健斗くん」
その後は真剣に問題を解いた。
でも渡されたのは、見たことのない難しい問題集。
「これ……どこの問題ですか?」
「私のところの大学受験の過去問よ。少し難しいけれど、健斗くんなら挑戦できると思って」
「えっ、受験の……!?」
「そう。高校一年生でここまで解けたら、すごい自信になるわ」
必死に頭をひねり、時間をかけて答えを書き出す。
緊張で手に汗をかきながらも、なんとか解き終えた。
「……できました」
「見せて」
美優さんは丁寧に答案を見て、ふっと表情を和らげた。
「――すごいじゃない。正解よ。これなら難関大学の受験生にも引けを取らないわ」
そう言うと、彼女は思わず身を乗り出し、俺の頭に手を置いた。
「よく頑張ったわね、健斗くん」
軽く抱き寄せられるようにして、優しく髪を撫でられる。
香水の大人っぽい香りが近くに広がり、心臓が爆発しそうになる。
(……やばい……勉強どころじゃない……!)
美優さんの笑顔と香りに包まれながら、俺はただ必死に平静を装うしかなかった。
ひと区切りついたところで、美優さんがぱんと手を合わせた。
「はい、休憩にしましょう。今日は差し入れを持ってきたの」
バッグから出したのは、小さなタッパーに入った焼き菓子。
「私が焼いたクッキーよ。健斗くん、甘いの好きでしょ?」
「えっ、手作りですか!? すごいですね!」
目を輝かせる俺に、美優さんはちょっと照れたように笑った。
「大げさね。でも、そう言ってもらえると嬉しいわ」
そこへノックの音。
「失礼いたします、坊ちゃま。紅茶をお持ちしました」
入ってきたのは沙耶香さんだった。銀のトレイにカップを並べ、優雅な所作でテーブルに置いていく。
「おや、篠原様。今日は手作りのお菓子まで……健斗坊ちゃまは幸せ者ですね」
「ふふ……そうかしら」
美優さんは頬をほんのり赤くしながら返した。
「さあ、坊ちゃま。どうぞごゆっくり」
沙耶香さんは意味ありげに微笑んで部屋を後にした。
(……なんか今、妙なプレッシャーを感じたような……?)
とにかく、二人で紅茶とお菓子をいただく。
ところが、カラン、とスプーンが俺の膝に落ちた。
「きゃっ、ご、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫です!」
慌てて拾おうとした美優さんと肩がぶつかり、さらに顔を上げた拍子に額がコツン。
「いった……!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
至近距離で見つめ合い、二人同時に赤面する。
紅茶で誤魔化すように一口飲んだ美優さんは、苦笑いしながら呟いた。
「ふふ……私、やっぱりドジね。家庭教師なのに」
「い、いや……むしろ楽しいです!」
その言葉に、美優さんはほっとしたように笑った。
「……健斗くんにそう言ってもらえると、なんだか安心するわ」
紅茶の湯気と甘い焼き菓子の香り。
大人っぽさとドジっ子らしさのギャップに、胸が妙に落ち着かなくなる俺だった。
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