32 / 195
レイニーside①
しおりを挟む
「わあ、すごいですね。虹がきれい」
ローラが目の前の光景を眺めて感嘆の声をあげる。
岩のてっぺんから勇壮に流れ落ちる滝。水のしぶきが散ったあたりに、太陽の光が反射し描き出された虹が架かっている。池にたまった水は、水路を伝って下流へと流れていく。そこから林の中を巡り、また池へと戻ってくる。
湧水を利用した清流は避暑で訪れる別荘近くのお気に入りの渓谷を模したものである。
たまの気晴らしになればと思い、一念発起して造ったものだった。
自分のこだわりを詰め込んで職人たちと試行錯誤を重ねた会心の秀作だから、興味を持ってくれて嬉しい。
気晴らしどころか、けっこうな癒しにもなっている。時間があれば散策して自然を満喫するのがストレス解消にもなっているし、使用人たちも憩いの場として利用しているようだから、一石二鳥といったところ。
珍しそうに瞳を輝かせて滝を見つめるローラ。
「これって、この先はどうなっているんですか?」
流れ落ちる水を辿って先の景色に視線を巡らせたローラは、興味津々な顔で俺に聞いてくる。
「行ってみるかい?」
「はい」
二もなく返事をしたローラと二人で川下へと歩いていく。
川の中から水草が顔を出していてほとりにはセリやクレソンも自生している。
「すごいですね。本物みたい」
時折、感激ひとしおといった感で川の流れに目を止めるローラ。
「あら、お魚がいるんですね」
「気づいた? ミニチュア版だけど、せっかく本物そっくりに作ったからね。魚も泳がせているんだ」
「これは何ですか?」
腰を折って覗き込んでいたローラが指をさした。俺は隣に立って同じように覗き込む。小さな魚が群れを成して泳いでいる。
「これはメダカだね。ほら、もうちょっと先にいる赤色と黒いのが鯉だよ」
「メダカ、それと、鯉」
魚を指さしながら確認している仕草がかわいくて笑みを誘う。
「フナとか、あとザリガニやエビもいるよ。ほかにもいろいろ、カエルも。この前まではおたまじゃくしもいたんだけどね」
「おたまじゃくしも?」
「うん。みんな成長しちゃったからね」
「そうですよね。大きくなりますもんね」
何気にがっかりしてるなあ。
「見たかった?」
「はい。図鑑でしか見たことなかったので、本物を見たかったです」
「だったら、来年だね。あー、そうだ。これからなら、蛍が見れるよ」
「蛍? ほんとですか?」
すごい食いついてきたんだけど。ものすごく興味があるんだね。これも図鑑で見たのだろうか。
自然が豊かなきれいな水辺に生息する昆虫だから、王都ではあまり見ることができないからね。
「去年も見たから、今年も大丈夫だと思うよ。よかったら見においで。蛍の鑑賞会をしよう」
「いいんですか? 私が来ても大丈夫ですか?」
「いいよ、もちろん。おいで。歓迎するよ」
「ありがとうございます。待ち遠しいです」
まじか。すんなりと俺の招待を受けてくれるとは……
こんなに喜んでくれるなら、幼虫から採取してきて育てた甲斐があったというもの。庭園もローラと過ごすために造ったとしか思えない。きっと、そうだ。
「もう少し先に行ってみないか? 他の魚たちが見れるかも」
「はい」
俺はローラの手を取り先へと促した。手を繋がれたというのに川の生物に夢中なのか全然気づかない。
二人でゆっくりと歩きながら、時には足を止めて魚たちに見入る。
群れで行動するもの、単独で泳いでいるもの、時には寝ているのか草陰に隠れて動かないもの。
様々な川の魚たちをつぶさに観察しながら、熱心に俺の説明に耳を傾けている。
好奇心いっぱいに瞳をキラキラさせて俺を見るローラが眩しい。
「そういえば、マロンはここの魚を捕まえたりしないんですか?」
唐突な質問にちょっと虚を突かれてビックリしたけど、ローラが心配するのも無理はないか。マロンは猫だもんな。
「マロンは子猫だし狩猟本能が働くかなあ。一度試してみてもいいけどね。マロンは完全室内飼いなんだよ。だから外に出ることはないんだ」
「えっ? でもこの前は……」
「外にいたね。木登りしていたしね」
俺はマロンのことを言ったつもりだったけど、ローラの頬がうっすらと赤くなった。あの日のことを思い出したのか、恥ずかしそうに俯いてしまった。そんな彼女もかわいい。
離れた手をもう一度繋ぐ。このまま離したくないなあと思いながら、ローラと出会ったあの日に思いを馳せた。
ローラが目の前の光景を眺めて感嘆の声をあげる。
岩のてっぺんから勇壮に流れ落ちる滝。水のしぶきが散ったあたりに、太陽の光が反射し描き出された虹が架かっている。池にたまった水は、水路を伝って下流へと流れていく。そこから林の中を巡り、また池へと戻ってくる。
湧水を利用した清流は避暑で訪れる別荘近くのお気に入りの渓谷を模したものである。
たまの気晴らしになればと思い、一念発起して造ったものだった。
自分のこだわりを詰め込んで職人たちと試行錯誤を重ねた会心の秀作だから、興味を持ってくれて嬉しい。
気晴らしどころか、けっこうな癒しにもなっている。時間があれば散策して自然を満喫するのがストレス解消にもなっているし、使用人たちも憩いの場として利用しているようだから、一石二鳥といったところ。
珍しそうに瞳を輝かせて滝を見つめるローラ。
「これって、この先はどうなっているんですか?」
流れ落ちる水を辿って先の景色に視線を巡らせたローラは、興味津々な顔で俺に聞いてくる。
「行ってみるかい?」
「はい」
二もなく返事をしたローラと二人で川下へと歩いていく。
川の中から水草が顔を出していてほとりにはセリやクレソンも自生している。
「すごいですね。本物みたい」
時折、感激ひとしおといった感で川の流れに目を止めるローラ。
「あら、お魚がいるんですね」
「気づいた? ミニチュア版だけど、せっかく本物そっくりに作ったからね。魚も泳がせているんだ」
「これは何ですか?」
腰を折って覗き込んでいたローラが指をさした。俺は隣に立って同じように覗き込む。小さな魚が群れを成して泳いでいる。
「これはメダカだね。ほら、もうちょっと先にいる赤色と黒いのが鯉だよ」
「メダカ、それと、鯉」
魚を指さしながら確認している仕草がかわいくて笑みを誘う。
「フナとか、あとザリガニやエビもいるよ。ほかにもいろいろ、カエルも。この前まではおたまじゃくしもいたんだけどね」
「おたまじゃくしも?」
「うん。みんな成長しちゃったからね」
「そうですよね。大きくなりますもんね」
何気にがっかりしてるなあ。
「見たかった?」
「はい。図鑑でしか見たことなかったので、本物を見たかったです」
「だったら、来年だね。あー、そうだ。これからなら、蛍が見れるよ」
「蛍? ほんとですか?」
すごい食いついてきたんだけど。ものすごく興味があるんだね。これも図鑑で見たのだろうか。
自然が豊かなきれいな水辺に生息する昆虫だから、王都ではあまり見ることができないからね。
「去年も見たから、今年も大丈夫だと思うよ。よかったら見においで。蛍の鑑賞会をしよう」
「いいんですか? 私が来ても大丈夫ですか?」
「いいよ、もちろん。おいで。歓迎するよ」
「ありがとうございます。待ち遠しいです」
まじか。すんなりと俺の招待を受けてくれるとは……
こんなに喜んでくれるなら、幼虫から採取してきて育てた甲斐があったというもの。庭園もローラと過ごすために造ったとしか思えない。きっと、そうだ。
「もう少し先に行ってみないか? 他の魚たちが見れるかも」
「はい」
俺はローラの手を取り先へと促した。手を繋がれたというのに川の生物に夢中なのか全然気づかない。
二人でゆっくりと歩きながら、時には足を止めて魚たちに見入る。
群れで行動するもの、単独で泳いでいるもの、時には寝ているのか草陰に隠れて動かないもの。
様々な川の魚たちをつぶさに観察しながら、熱心に俺の説明に耳を傾けている。
好奇心いっぱいに瞳をキラキラさせて俺を見るローラが眩しい。
「そういえば、マロンはここの魚を捕まえたりしないんですか?」
唐突な質問にちょっと虚を突かれてビックリしたけど、ローラが心配するのも無理はないか。マロンは猫だもんな。
「マロンは子猫だし狩猟本能が働くかなあ。一度試してみてもいいけどね。マロンは完全室内飼いなんだよ。だから外に出ることはないんだ」
「えっ? でもこの前は……」
「外にいたね。木登りしていたしね」
俺はマロンのことを言ったつもりだったけど、ローラの頬がうっすらと赤くなった。あの日のことを思い出したのか、恥ずかしそうに俯いてしまった。そんな彼女もかわいい。
離れた手をもう一度繋ぐ。このまま離したくないなあと思いながら、ローラと出会ったあの日に思いを馳せた。
4
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。
そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。
──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。
恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。
ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。
この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。
まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、
そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。
お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。
ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。
妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。
ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。
ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。
「だいすきって気持ちは、
きっと一番すてきなまほうなの──!」
風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。
これは、リリアナの庭で育つ、
小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています
鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。
伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。
愛のない契約、形式だけの夫婦生活。
それで十分だと、彼女は思っていた。
しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。
襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、
ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。
「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」
財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、
やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。
契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。
白い結婚の裏で繰り広げられる、
“ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。
異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。
ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。
前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。
婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。
国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。
無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。
元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。
無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。
目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。
マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。
婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。
その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる