婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
31 / 195

お茶会

しおりを挟む
 馬車から降りて侍女長に先導されながら、どこまでも続く緋色の絨毯の上を私はディアナと歩いています。
 案内されたのは本宮のプライベートルーム。
 ドーム型の部屋は天井が高くて開放的で、見事な細工のシャンデリアと色鮮やかなステンドグラスの窓が目を引きます。

 真っ白なテーブルクロスがかけられた大きめの四角のテーブルが二つと囲むように椅子とソファが置かれていました。ここがお茶会の部屋なのでしょう。

 馬車の中で今日の招待客は私だけだと聞いた時には、サーと血の気が引き青ざめてしまいましたが、わたしがいるでしょうとディアナが励ましてくれたので少しは落ち着いたのですが。

 隣に座っているディアナも口を閉ざしています。
 シンと静まり返った部屋の中にいると時計の音がやけに大きく聞こえました。


 
 コンコン。

 そわそわとした気持ちを抱えて緊張しているとドアの音がして扉が開きました。
 入場されたのは、王妃陛下と王太子妃殿下に手を引かれたリッキー様にマロンとレイ様。
 レイ様の姿を見て少し緊張がほぐれたような気がしました。


「フローラちゃん、ディアナ。こんにちわ。よく来てくれたわね」

 部屋に入った王妃陛下よりにこやかな笑顔であいさつを受けました。
 
「王妃陛下、本日はお招きいただきありがとうございます。とても、光栄に存じます」

 カーテシーをして礼を取ると

「そんな堅苦しい挨拶はよいのよ。さあ、座って」

 王妃陛下がさっそく座るようにと促してくださいました。

「それから、王妃陛下なんて畏まらなくていいから、この前言ったように呼んでちょうだい」

 すかさず要望が入ってしまいました。あまりにも馴れ馴れしすぎでお呼びするのもおこがましいのですが。

「はい。ローズ様」

 消え入るような控え目な声で名前を呼ぶとローズ様は満足そうに微笑みました。

「じゃあ、次はわたくしね。フローラちゃん、呼んでみて?」

 今度は王太子妃殿下から催促されました。これは王族の試験なんでしょうか? 合格しないとお茶会に参加できないとか? 

「アンジェラ様」

「ふふっ。よいわね。いい響きだわ、これからもよろしくね」

 アンジェラ様もなんとも喜びに溢れた表情で笑ってらっしゃいます。
 合格ということなのでしょうか。

 前回、夕食をご一緒した時、緊張でガチガチだった私に、ローズ様とアンジェラ様の親しみやすさ、気さくな振る舞いに心が解されて、いつの間にやら自然と会話の中に入っていました。

 名前で呼ぶのもその一つかと思っていたのですが、今も有効なのですね。
 王妃陛下と王太子妃殿下を名前で呼べるのは限られた人でしょうから、その中に加えて頂けるのはとても名誉なこと。もったいなくもありがたいことです。

「ローラ、久しぶりだね。元気だった?」

 アンジェラ様の隣にいたレイ様と目が合うと眩しい笑顔で挨拶してくださいました。

「はい。おかげさまで元気です。レイ様はいかがでしたか?」

「元気だったよ」

 私を見つめる瞳が優し気で憂いを帯びているような姿に、どきんと胸が高鳴りました。初めての感情にドギマギして、まともに顔を見れなくて俯いてしまいました。なんとも気恥ずかしくてむずがゆい気持ちになります。何なのでしょうか? この気持ちは…… 

 この時、私たち二人を見守るローズ様方三人の視線など気づきませんでした。
 レイ様と二人だけの世界になったように感じるくらい、シーンとしてしまった空気感に戸惑っていると

「僕、ローラおねえちゃんの隣がいい」

 リッキー様の無邪気でかわいらしい声にハッと現実へと引き戻されました。

 アンジェラ様の手を離れてコトコトと歩いてきたかと思ったら、私の横にちょこんと座りました。
 あまりの素早さにアンジェラ様も苦笑いを浮かべていらっしゃいます。

「ほんとに相変わらずフローラちゃんが好きなのね」

「うん。ローラおねえちゃん、大好き」

「ニャーン。ニャーン」

 リッキー様の膝の上でマロンも賛成なのか私を見上げます。

「リッキー様もマロンも大好きですわ」

 慕われるのは、こそばゆくもとても嬉しいもの。
 マロンのあごを撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうにしています。

 それぞれの席に落ち着くと香りのよい紅茶やおいしそうなお菓子類がテーブルに並び、準備が終わるとお茶会が始まりました。

 たわいもない話から外国や経済に関する話題も飛び出します。はじめは黙って聞いていたレイ様もやがて話に加わってにぎやかで和やかな雰囲気になりました。

 コテン。

 突然、膝の上に重みを感じて、何事かと見てみるとリッキー様が頭を預けていました。たった今までお菓子を食べていたと思っていたのですが、急に睡魔が襲ったのでしょう。
 すやすやと寝息を立てて眠っています。

「リチャードったら、寝てしまったのね。部屋で寝かしつけた方がいいわね」

 アンジェラ様の言葉にリッキー様付きの侍従が

「失礼いたします」

 私に一礼してリッキー様を抱き上げました。
 すでに深い眠りに落ちているのでしょう。身じろぎ一つせず目を覚ます気配もありません。

「部屋の方がゆっくりお昼寝ができるわね」

 ローズ様がリッキー様の寝顔を見て愛おしそうに目を細めました。

「皆様、すみません。お先に失礼しますわ」

 アンジェラ様は立ち上がるとマロンの名前を呼びました。マロンも状況がわかっているのか、ソファから飛び降りてアンジェラ様のところへと走っていきます。

 腕の中におさまったマロンとともにアンジェラ様方が退室されると一気に寂しくなりました。リッキー様がいた隣の温もりがなくなって、ちょっとだけ肌寒さを感じてしまいます。

「レイニー、フローラちゃんを庭園に案内してあげたら?」

 会話が途切れてシーンとなった部屋にローズ様の声が響きました。
 庭園?
 思いがけない提案に私はローズ様の方を向いた後、レイ様の顔を見つめました。

「そうね。それはいいんじゃないかしら。レイニー、お願いするわ」

 ディアナが名案とばかりに軽く手を合わせます。

「ディアナは?」

「わたしはローズ様とお茶をして待っているから、二人で行ってらっしゃい」

 ディアナは動く気はなさそうです。ひらひらと手を振られてしまいました。
 私もこのままでいいのですけれど、ローズ様も何気ににっこりと微笑んでディアナに同意していらっしゃるよう。

「ローラ、よかったら案内するよ」

「そうよ、レイニーの庭園はとても見ごたえがあるから、楽しんでくるといいわ」

 ローズ様の後押しを受けてレイ様が手を差し出しました。雰囲気的に断る選択肢はなさそうです。
 促されるように立ち上がるとレイ様の笑顔が目の前にあって、ちょっとドキッとしました。

「レイ様、お願いします」

「それじゃあ、行こうか」

 手を引かれて扉の前まで来るとローズ様から声がかかります。

「レイニー、フローラちゃんのことは責任をもって大切に対処してちょうだいね。あとは任せたわよ」

「わかりました。お任せください」

 真面目な顔で大きく頷いたレイ様。


 部屋を出て長い廊下を二人で歩いて行きます。
 お腹もいっぱいですし、運動がてら散歩をするのにはちょうどいいのかもしれません。

 それにローズ様がおっしゃった見ごたえのある庭とはどんなものなのでしょう。
 興味が湧いてきた私はワクワクしながら本宮を後にしました。
 

 





 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...