67 / 195
第二部
公爵家のお茶会にてⅠ
しおりを挟むよく晴れたのどかな昼下がり。
お母様と二人、馬車を走らせて着いた先は立派な門構えと高い塀に囲まれた大きなお邸。ここはローシャス公爵邸。
今日はフェリシア・ローシャス公爵夫人主催のお茶会にお母様と共に招待されています。
「よく来てくださいましたわね。お会いできてうれしいですわ」
麗しい微笑みと涼やかな声が私たちを迎えてくださいました。
金糸を紡いだような柔らかそうな金髪に澄んだ青い瞳。
顔がどことなくアンジェラ様に似ているわ。
母娘だから当たり前なのだけど。そう、ここはアンジェラ様のご実家なのです。
年に数回、伯爵家以上の選ばれたご婦人方を招いてお茶会を開いていらっしゃるそう。
王太子妃の実家であるとともに四大公爵家の筆頭で歴史も古く、代々国政を担う宰相や大臣などを務める重鎮の家柄。現公爵は宰相の任につき国王陛下の右腕として、活躍なさっていると聞いています。
ですから、国家の中枢で権勢を誇るローシャス公爵家のお茶会に招待されることは、ステイタスであり名誉であるとも言われているそうです。
そんな家柄であっても権力を笠に着ることもなく、ニコニコと気さくに声をかけてくださる公爵夫人に、アンジェラ様の姿が思い出されて心が和みます。
「娘共々、ご招待いただきありがとうございます。とても光栄なことと楽しみにしておりました」
お母様が膝を折り礼をします。私もそれに倣い同じように礼を取りました。
「まあ、ありがとう。シャロン、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」
「フェリシア様、そんなわけにはまいりませんわ。ここは公の場ですもの」
「ふふっ。それもそうね」
なにやら、暗黙の了解でもあるのか、お母さまと公爵夫人は含み笑いをしながらお互いに顔を見合わせました。私には何を意味するのかわかりませんけれど。
「そうだわ。オーダーメイドのサムシューズ、とても履き心地が良かったわ。またあとでゆっくりお話を聞かせてくれるかしら?」
「ええ、喜んで」
サムシューズとはサマンサ先生が開発した室内履きのこと。
ネーミングには色々と頭を悩ませましたが、最終的には、開発者である先生のサマンサの愛称を使うことで意見が一致し『サムシューズ』と名付けることになったのです。
公爵夫人はお母様の経営するドレスアトリエの常連のお客様。
デザインや素材、アクセサリーなど相談に乗っていることが幸いしているのか、アトリエでは名前をお互いに呼び捨てにするくらいにお母さまととても仲がいいのです。
サムシューズもすぐに気に入って下さって、宣伝役を引き受けてくださいました。その尽力のおかげで思ったよりも早くご婦人方に普及していきました。
今ではオーダーメイドも順調に予約が入っていますし、準オーダーメイドといって、既成のサイズものに布地や靴底の硬さを自分好みにしたりと、自由に選べる仕様もとても人気があります。
売り上げも順調に伸びているので、隣に工房を建てる計画も早々に実現しそうです。
「フローラ様、お元気だったかしら?」
話が一段落したのか、公爵夫人が優し気なまなざしで私に微笑みかけて下さいました。
公爵夫人には、サムシューズの打ち合わせでお母様のアトリエにお邪魔した時に、お会いしたことがあります。覚えていてくださったのですね。
「はい。おかげさまで、元気にしておりました」
「そう、よかったわ。そういえば、リチャードがお世話になっているそうね。わがままを言って困らせていないかしら?」
サンフレア語の教師をしていることをご存じなのですね。アンジェラ様からお聞きになったのでしょうか?
「いいえ。大丈夫ですわ。とても模範的で熱心に語学に取り組んでいらっしゃいますし、私もとても勉強になります」
「まあ、そうなのね。ちょっとやんちゃな所があるから、少し心配していたのよ」
王子殿下といっても公爵夫人にとってはかわいい孫ですものね。身内として迷惑をかけていないか、心配していらっしゃったのかしら。
「リチャード殿下は明るく素直で聡明な優しい方ですわ。資格をもっていませんから、教師などとおこがましくて言えませんが、私も一から学ぶつもりで日々勉強しています。お役に立てるように精一杯頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします」
私は頭を下げました。
臨時とはいえ、リッキー様のサンフレア語の教師を引き受けたあと、レイ様との文通も良いきっかけとなって改めて真剣に学ぶようになりました。そのおかげでさらに理解が深まったように思います。
レイ様もサンフレア語が堪能ですから、疑問点を訪ねるとすぐに答えが返ってくるのでとても勉強になっています。レイ様って博識なので感心することもしばしばなのですが、それよりも、からかわれることの方が多くて。
私って、そんなにからかいやすいのかしら?
6
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。
そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。
──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。
恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。
ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。
この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。
まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、
そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。
お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。
ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。
妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。
ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。
ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。
「だいすきって気持ちは、
きっと一番すてきなまほうなの──!」
風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。
これは、リリアナの庭で育つ、
小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています
鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。
伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。
愛のない契約、形式だけの夫婦生活。
それで十分だと、彼女は思っていた。
しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。
襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、
ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。
「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」
財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、
やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。
契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。
白い結婚の裏で繰り広げられる、
“ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。
異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。
ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。
前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。
婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。
国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。
無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。
元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。
無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。
目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。
マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。
婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。
その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる