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第二部
公爵家のお茶会にてⅡ
しおりを挟む「フローラ様、あなたが教師でよかったとアンジェラとも話をしているのよ。これからもリチャードの相手をしてくれるとありがたいわ」
公爵夫人の言葉にハッと顔を上げました。
いけない。
話の最中だったのに、何故かレイ様のことを思い出していたわ。目の前のことに集中しなくては失礼になるわね。
「もったいないお言葉。ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
アンジェラ様だけではなく、祖母にあたる公爵夫人にまでお声をかけて頂くなんて、ちょっと緊張してきたわ。再度、身が引き締まる思いがしました。
資格がないとか臨時とか……そんな安易な気持ちに甘えてはいけないわね。期待に添えるように頑張らなくては。
「気を張りすぎないで、気楽に構えていればよろしいのよ。お互いに楽しくやるのが一番ですもの」
私の気持ちを察して下さったのか、張り詰めた糸が少し緩んだような気がしました。責任感でガチガチに凝り固まらないように、緊張感も持ちつつ、楽しく。それが一番なのかもしれません。
「はい。ありがとうございます」
「今日はお天気も良いし、ゆっくりと楽しんでいって下さいね」
公爵夫人の言葉に促されるように一礼して、私はお母様と会場である庭園へと足を踏み入れました。
そして、最初に目に飛び込んできたのは広々とした鮮やかな緑の芝生の絨毯。点々と植栽された低木や高木。枝を伸ばした木の下にはテーブルと椅子が設置されています。
庭を囲むフェンスには、今が盛りなのでしょう。黄色と白色の淡い色合いの小さなつるバラが咲き誇り、目を楽しませてくれます。
二階建ての大きな邸に目をやれば広いホールが見えました。室内と庭園が一体化したような造りのようです。奥の方に人の姿があるので、室内も会場なのでしょう。
「すごいでしょう?」
無言であたりを見回す好奇心いっぱいの私の姿に同調するように、お母様の声が聞こえました。
「はい」
「ここはね、別邸なのよ。パーティーを開くためだけのお邸なの。本邸はまだ奥の方にあるのよ」
「えっ?」
外から眺めたばかりでも大きなお邸だとは思いましたが、まさか、ここがほんの入り口の別邸だったとは思いませんでした。すごいわ。
うちのお邸だってそこそこ広いとは思っていたけれど、上には上があるんですね。
さすが筆頭公爵家。その歴史は建国時まで遡るという由緒正しき家柄。その伝統ゆえに王妃を何人も輩出しているので、ディアナの伯爵家と同じように王家とのつながりの深い貴族家でもあるのです。
「さあ、フェリシア様がおっしゃったように、今日は楽しみましょう。こんな大掛かりなお茶会に来るのは初めてでしょう?」
「はい」
私は大きく頷きました。
まだ学生の身であり、お茶会も友人が中心でしたし、パーティーもほとんど顔を出すことがありませんでした。研究が中心で家に籠ることの方が多かったので、正式なお茶会に出席するのは初めてです。
お母さまと一緒にウエルカムドリンクを受け取っていると、ざわざわと人のざわめきが大きくなってきたような気がします。
時間に合わせてお客様が増えてきたよう。あちらこちらで挨拶や談笑している姿が目に映りました。
「あら」
お母様が誰かを見つけたのか、一点を凝視しています。そちらに目を向けると、よく見知った顔に動きが止まりました。
「ちょうどよかったわ。フローラ、挨拶に行きましょう」
姿勢を正して颯爽とお母様がその人の元へと歩き出します。私も後ろをついて行きました。
「こんにちは。お久しぶりね。テンネル侯爵夫人」
ウエルカムドリンクを手にしたタイミングで声をかけたお母様は、エリザベス様ににっこりと微笑みかけました。
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