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第二部
公爵家のお茶会にてⅠ
しおりを挟むよく晴れたのどかな昼下がり。
お母様と二人、馬車を走らせて着いた先は立派な門構えと高い塀に囲まれた大きなお邸。ここはローシャス公爵邸。
今日はフェリシア・ローシャス公爵夫人主催のお茶会にお母様と共に招待されています。
「よく来てくださいましたわね。お会いできてうれしいですわ」
麗しい微笑みと涼やかな声が私たちを迎えてくださいました。
金糸を紡いだような柔らかそうな金髪に澄んだ青い瞳。
顔がどことなくアンジェラ様に似ているわ。
母娘だから当たり前なのだけど。そう、ここはアンジェラ様のご実家なのです。
年に数回、伯爵家以上の選ばれたご婦人方を招いてお茶会を開いていらっしゃるそう。
王太子妃の実家であるとともに四大公爵家の筆頭で歴史も古く、代々国政を担う宰相や大臣などを務める重鎮の家柄。現公爵は宰相の任につき国王陛下の右腕として、活躍なさっていると聞いています。
ですから、国家の中枢で権勢を誇るローシャス公爵家のお茶会に招待されることは、ステイタスであり名誉であるとも言われているそうです。
そんな家柄であっても権力を笠に着ることもなく、ニコニコと気さくに声をかけてくださる公爵夫人に、アンジェラ様の姿が思い出されて心が和みます。
「娘共々、ご招待いただきありがとうございます。とても光栄なことと楽しみにしておりました」
お母様が膝を折り礼をします。私もそれに倣い同じように礼を取りました。
「まあ、ありがとう。シャロン、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」
「フェリシア様、そんなわけにはまいりませんわ。ここは公の場ですもの」
「ふふっ。それもそうね」
なにやら、暗黙の了解でもあるのか、お母さまと公爵夫人は含み笑いをしながらお互いに顔を見合わせました。私には何を意味するのかわかりませんけれど。
「そうだわ。オーダーメイドのサムシューズ、とても履き心地が良かったわ。またあとでゆっくりお話を聞かせてくれるかしら?」
「ええ、喜んで」
サムシューズとはサマンサ先生が開発した室内履きのこと。
ネーミングには色々と頭を悩ませましたが、最終的には、開発者である先生のサマンサの愛称を使うことで意見が一致し『サムシューズ』と名付けることになったのです。
公爵夫人はお母様の経営するドレスアトリエの常連のお客様。
デザインや素材、アクセサリーなど相談に乗っていることが幸いしているのか、アトリエでは名前をお互いに呼び捨てにするくらいにお母さまととても仲がいいのです。
サムシューズもすぐに気に入って下さって、宣伝役を引き受けてくださいました。その尽力のおかげで思ったよりも早くご婦人方に普及していきました。
今ではオーダーメイドも順調に予約が入っていますし、準オーダーメイドといって、既成のサイズものに布地や靴底の硬さを自分好みにしたりと、自由に選べる仕様もとても人気があります。
売り上げも順調に伸びているので、隣に工房を建てる計画も早々に実現しそうです。
「フローラ様、お元気だったかしら?」
話が一段落したのか、公爵夫人が優し気なまなざしで私に微笑みかけて下さいました。
公爵夫人には、サムシューズの打ち合わせでお母様のアトリエにお邪魔した時に、お会いしたことがあります。覚えていてくださったのですね。
「はい。おかげさまで、元気にしておりました」
「そう、よかったわ。そういえば、リチャードがお世話になっているそうね。わがままを言って困らせていないかしら?」
サンフレア語の教師をしていることをご存じなのですね。アンジェラ様からお聞きになったのでしょうか?
「いいえ。大丈夫ですわ。とても模範的で熱心に語学に取り組んでいらっしゃいますし、私もとても勉強になります」
「まあ、そうなのね。ちょっとやんちゃな所があるから、少し心配していたのよ」
王子殿下といっても公爵夫人にとってはかわいい孫ですものね。身内として迷惑をかけていないか、心配していらっしゃったのかしら。
「リチャード殿下は明るく素直で聡明な優しい方ですわ。資格をもっていませんから、教師などとおこがましくて言えませんが、私も一から学ぶつもりで日々勉強しています。お役に立てるように精一杯頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします」
私は頭を下げました。
臨時とはいえ、リッキー様のサンフレア語の教師を引き受けたあと、レイ様との文通も良いきっかけとなって改めて真剣に学ぶようになりました。そのおかげでさらに理解が深まったように思います。
レイ様もサンフレア語が堪能ですから、疑問点を訪ねるとすぐに答えが返ってくるのでとても勉強になっています。レイ様って博識なので感心することもしばしばなのですが、それよりも、からかわれることの方が多くて。
私って、そんなにからかいやすいのかしら?
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