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第二部
ビビアンside①
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面白かったわ。
わたくしを見る時のあの怯えようったらありませんでしたわ。
ふふっ、よっぽど堪えたのね。
フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢。
最年少の金紫珠褒賞授与者……国中が栄誉を讃えて湧きかえったとか。十年に一人もしくは百年に一人の天才だと謳われているとか。国の薬学史に名を残すとか。
なにやら大層な噂が流れてくるものだから、異彩を放つ威風堂々とした令嬢かと期待していましたのに。
なんともまあ、髪の色も容貌も地味な平凡な令嬢。探さないとわからないくらい、存在感もありませんでしたわ。
冴えない地味令嬢なのに、人気があるのよねぇ。
あんな地味女のどこがいいのかと思うけれど、挨拶してくれた、親切にしてもらった、勉強を教えてもらった、優しいって。天才だとちやほやされたわがままで傲慢な令嬢かと思っていたら、全然違う。控えめで気さくな令嬢だって、あっちこっちで耳にしたわ。
「ビビアン様、先程のお二人とどちらかへ行かれましたの?」
苦々しく考え事をしている時に勝手に話しかけないでとは思ったけれど、怒ってはダメよ。わたくしは公爵令嬢ですもの。淑女の仮面をかぶり、問いかけた取り巻きの令嬢に飛び切りの笑顔で答えたわ。
「ええ。先日、ローシャス公爵家のお茶会に招かれた折に、フローラ様と知り合いましたの」
「まあ。そうでしたのね」
あのお茶会は限られた者しか招待されていないと聞いていたから、羨ましそうにしているこの侯爵令嬢は残念なことに呼ばれていないのですわ。
「それで、お近づきの印にルナ・テラスに招待しましたの」
「「ルナ・テラスですか」」
他の令嬢達もルナ・テラスと聞いて色めき立った。
それはそうでしょう。貴族でも入店が許されているのは一握り。その貴族の招待がなければ入れないのですもの。令嬢達の、いえ貴族の憧れのお店なんですもの。
「そうですの。別のお店に案内しようにも、わたくし、カフェと言えばそこしか思いつかなかったのですもの。仕方ありませんわ」
「やはり、違いますわね。わたくしたちが行っても門前払いでまず入れませんもの。さすがに格が違い過ぎますわ」
そうなのよ。わたくしがいなければ彼女達は門をくぐることさえできないの。
令嬢達の羨望の眼差しが心地よいですわ。
そう、わたくしは特別なのよ。
「それにディアナ様とは幼馴染でいらっしゃるなんて、羨ましいですわ」
もう一人の令嬢がウルウルとした瞳で見つめてくる。
そうね。ディアナは公爵家と引けを取らないくらいの高貴な家柄。王家の血を引く彼女にはみんな敬意を払う。
「そういえば、ディアナはルナ・テラスへは初めて来たと言っていましたわね。ですからびっくりしましたのよ。ディアナのような名家の令嬢でも入れないお店があるのかと。憧れのお店に連れてきてくれて感謝しているとも言っていましたわね」
「まあ。そうなんですの? ディアナ様でも入れないお店があるなんて」
目を丸くして驚きを隠せない表情で口にする令嬢達。
そうよ。そうなのよ。
どんなに高貴な血筋でも名家でも、わたくしが紹介しないとあのお店には入れないのですわ。
ふふっ。また連れて行ってあげようかしら。ケーキのお代わりをするくらいですものね。とても気に入ったのだと思うわ。そうしたら、また感激して感謝するでしょう? 楽しみだわ。
「やはり、ビビアン様は尊いお方ですわね。今までもそうでしたけど、ますますその気持ちが強くなりましたわ」
みんな一斉に、女神を崇めるがごとく指を組み首を垂れてしまいましたわ。
困ったわ。わたくしは人間であって女神ではないというのに。崇拝の対象ではございませんわよ。
でも、皆さん、よく分かっていらっしゃいますわね。
「さあ、参りましょう。授業が始まってよ」
「そうでしたわ。ビビアン様の神々しさに平伏してしまって、忘れておりました。申し訳ございません」
「よろしいのよ。皆さんのお気持ちはしかと受け止めましたわ」
女神のごとく崇拝したくなる気持ちはわかりますわ。
輝くようなオレンジがかった金の髪。金色にも見える琥珀の瞳。整った美貌。メリハリのあるスレンダーな体。すべてが完璧ですもの。皆さんが女神のようだと賛美したくなるのもわかりますわ。
そう。わたくしが一番なのよ。ディアナよりもフローラよりも、わたくしは尊いの。
それなのに……
あのお茶会で聞こえてきた話。
最初、信じられなくて耳を疑いましたもの。
このわたくしを差し置いて、フローラがリチャード殿下の語学教師だなんて。
おかしいのではないかしら?
わたくしの方が、話し相手も教師も彼女よりもうまくできますわ。
それに爵位はわたくしの方が上よ。公爵令嬢のわたくしがより相応しいのではなくて。何かの間違いではないのかしら?
いつの間に、そんな尊いお役目をもらったのかしら?
本当に忌々しい。
公爵令嬢のわたくしより尊重されるなんて許せませんわ。
わたくしを見る時のあの怯えようったらありませんでしたわ。
ふふっ、よっぽど堪えたのね。
フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢。
最年少の金紫珠褒賞授与者……国中が栄誉を讃えて湧きかえったとか。十年に一人もしくは百年に一人の天才だと謳われているとか。国の薬学史に名を残すとか。
なにやら大層な噂が流れてくるものだから、異彩を放つ威風堂々とした令嬢かと期待していましたのに。
なんともまあ、髪の色も容貌も地味な平凡な令嬢。探さないとわからないくらい、存在感もありませんでしたわ。
冴えない地味令嬢なのに、人気があるのよねぇ。
あんな地味女のどこがいいのかと思うけれど、挨拶してくれた、親切にしてもらった、勉強を教えてもらった、優しいって。天才だとちやほやされたわがままで傲慢な令嬢かと思っていたら、全然違う。控えめで気さくな令嬢だって、あっちこっちで耳にしたわ。
「ビビアン様、先程のお二人とどちらかへ行かれましたの?」
苦々しく考え事をしている時に勝手に話しかけないでとは思ったけれど、怒ってはダメよ。わたくしは公爵令嬢ですもの。淑女の仮面をかぶり、問いかけた取り巻きの令嬢に飛び切りの笑顔で答えたわ。
「ええ。先日、ローシャス公爵家のお茶会に招かれた折に、フローラ様と知り合いましたの」
「まあ。そうでしたのね」
あのお茶会は限られた者しか招待されていないと聞いていたから、羨ましそうにしているこの侯爵令嬢は残念なことに呼ばれていないのですわ。
「それで、お近づきの印にルナ・テラスに招待しましたの」
「「ルナ・テラスですか」」
他の令嬢達もルナ・テラスと聞いて色めき立った。
それはそうでしょう。貴族でも入店が許されているのは一握り。その貴族の招待がなければ入れないのですもの。令嬢達の、いえ貴族の憧れのお店なんですもの。
「そうですの。別のお店に案内しようにも、わたくし、カフェと言えばそこしか思いつかなかったのですもの。仕方ありませんわ」
「やはり、違いますわね。わたくしたちが行っても門前払いでまず入れませんもの。さすがに格が違い過ぎますわ」
そうなのよ。わたくしがいなければ彼女達は門をくぐることさえできないの。
令嬢達の羨望の眼差しが心地よいですわ。
そう、わたくしは特別なのよ。
「それにディアナ様とは幼馴染でいらっしゃるなんて、羨ましいですわ」
もう一人の令嬢がウルウルとした瞳で見つめてくる。
そうね。ディアナは公爵家と引けを取らないくらいの高貴な家柄。王家の血を引く彼女にはみんな敬意を払う。
「そういえば、ディアナはルナ・テラスへは初めて来たと言っていましたわね。ですからびっくりしましたのよ。ディアナのような名家の令嬢でも入れないお店があるのかと。憧れのお店に連れてきてくれて感謝しているとも言っていましたわね」
「まあ。そうなんですの? ディアナ様でも入れないお店があるなんて」
目を丸くして驚きを隠せない表情で口にする令嬢達。
そうよ。そうなのよ。
どんなに高貴な血筋でも名家でも、わたくしが紹介しないとあのお店には入れないのですわ。
ふふっ。また連れて行ってあげようかしら。ケーキのお代わりをするくらいですものね。とても気に入ったのだと思うわ。そうしたら、また感激して感謝するでしょう? 楽しみだわ。
「やはり、ビビアン様は尊いお方ですわね。今までもそうでしたけど、ますますその気持ちが強くなりましたわ」
みんな一斉に、女神を崇めるがごとく指を組み首を垂れてしまいましたわ。
困ったわ。わたくしは人間であって女神ではないというのに。崇拝の対象ではございませんわよ。
でも、皆さん、よく分かっていらっしゃいますわね。
「さあ、参りましょう。授業が始まってよ」
「そうでしたわ。ビビアン様の神々しさに平伏してしまって、忘れておりました。申し訳ございません」
「よろしいのよ。皆さんのお気持ちはしかと受け止めましたわ」
女神のごとく崇拝したくなる気持ちはわかりますわ。
輝くようなオレンジがかった金の髪。金色にも見える琥珀の瞳。整った美貌。メリハリのあるスレンダーな体。すべてが完璧ですもの。皆さんが女神のようだと賛美したくなるのもわかりますわ。
そう。わたくしが一番なのよ。ディアナよりもフローラよりも、わたくしは尊いの。
それなのに……
あのお茶会で聞こえてきた話。
最初、信じられなくて耳を疑いましたもの。
このわたくしを差し置いて、フローラがリチャード殿下の語学教師だなんて。
おかしいのではないかしら?
わたくしの方が、話し相手も教師も彼女よりもうまくできますわ。
それに爵位はわたくしの方が上よ。公爵令嬢のわたくしがより相応しいのではなくて。何かの間違いではないのかしら?
いつの間に、そんな尊いお役目をもらったのかしら?
本当に忌々しい。
公爵令嬢のわたくしより尊重されるなんて許せませんわ。
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