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第二部
気づいた思いⅠ
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いつもなら、レイ様にご挨拶してから別室へと移るのですが、今日は部屋の前に待ち構えていたエルザ達にあれよあれよという間に連れられ、レイ様とは合わずじまい。
よかったのかしら?
お仕事が忙しくて顔を合わせる時間がないとか……いつぞやの出来事を思い出して申し訳ない気持ちが湧いてきます。
私も仕事が大詰めで長居が出来ないことは、お手紙でお知らせしているので、ご承知の上だとは思うのだけれども。
レイ様の顔が見れないのは寂しいのですが、無理して時間を作っていただいているのならば、お断りした方がよかったのかもしれないわ。
西の宮の主人であるレイ様にご挨拶することから始まる訪問はルーティーンとなっていたので、会えないと落ち着かなくてそわそわした気分になってしまう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、侍女達はあらかじめ用意していたドレスと装飾品を持ち出して、着替えの準備に余念がない。なんとなくうきうきしているように見えるのは私の気のせいかしら?
「フローラ様、少し御痩せになりましたか?」
気遣う声にハッと顔を上げました。
心配そうな声で話しかけたのはエルザ。
日常になってしまったリッキー様の学習後の西の宮でのお茶会。ディアナからもらったドレスに着替えるのもお馴染みの習慣になりました。
ディアナのスタイルとほとんど変わらないのでお直しはほとんどないのですが、ウエスト辺りが少しだけ余っているようです。ウエストだけではなく全体的に余裕がありました。
痩せた。
あの一件から、食欲がなくなって食べる量が減ったのは自覚としてありました。その上に新店舗の立ち上げが本格化して忙しくなったのも一因です。時間を捻出するために削ったのが食事の時間でした。
なんとなく気づいてはいたのですが、邸では誰もこのことについて触れる者はいなかったので、気にしていませんでした。
そういえば、やたらとお茶の時間が増えていたような気がするわ。仕事をしながらでもよいからと軽食を用意してくれていたことを思い出しました。口には出さなくてもみんな気にかけてくれていたのね。
「最近忙しくて動き回っていたから、そのせいかも……大丈夫よ」
私の身を案じてか、エルザの顔が曇っています。
痩せたのは忙しさのせい。
「エルザ。心配のし過ぎだわ。大丈夫よ。食事はとっているわ」
「余計なことを申しました。お許しください」
「そんな……私のことを心配してくれたのでしょう。気にかけてくれてありがたいわ」
毎日、顔を合わせるわけではなく、仕える主人でもないのに気を配ってくれるのは嬉しいものです。
着付けが終わると鏡台の前へ。お化粧を落として新たにお化粧を施してもらいます。衣装を変えたらそれに合う化粧が必要と言われて、今に至っています。帰るときはドレスを着替えるので再度のお化粧直しは必然となっています。
お化粧を落とすと白さを通り越して青白い肌に見えます。
さっきよりも曇ったエルザの顔が鏡越しに映りヒヤッとしましたが、彼女の表情が柔らかくなり
「このドレスには明るめのお化粧が合いそうだわ。それと髪も緩やかな巻き毛にするとよさそうね。フローラ様、いかがでしょうか?」
気づかないふりをしてくれたようです。気まずい思いをしないような心遣いがありがたいわ。
「お任せします」
コーディネートはよくわからなので、エルザ達の言う通りにした方がよさそうです。我が邸でもメイドにお任せ状態なので異論はありません。
「畏まりました。お任せください」
二人は気合の入った返事をするとさっそく準備に取り掛かりました。
すべてが終わると大きな鏡の前で全身をチェックします。ドレスの裾を整えたり髪飾りの位置を調整したり360度くまなく確認していると
「これはどうでしょうか」
ケイトが手にしていたのは真っ白なシルクのリボン。
「あら、いいわね」
少しぶかぶかだったウエストにリボンを巻いて、後ろでふんわりと蝶々結びをして着付けの出来上がりです。結んだリボンがアクセントになって体型をうまく隠してくれました。それに、顔色の悪さを暖色系のドレスとお化粧でカバーしてくれたので、見栄えもよくなったような気がします。
「フローラ様、おきれいです」
侍女達のため息交じりの感嘆の声にお世辞だとわかってはいますが、ちょっと照れてしまいました。
「皆さんのおかげよ。ありがとう」
エルザが涙ぐんでいます。ルーシーにケイトも。
私、泣かせるようなことを言ったかしら? お礼を言っただけなのに……
「あの……エルザ。ルーシーもケイトもどうしたの?」
「なんでもございません。いろいろと想像してしまい、私情が出てしまいました。フローラ様はお気になさらずに」
私情? よくわかりませんが、あまり追及しない方がよいのでしょうね。
「フローラ様、参りましょう」
エルザに先導されてレイ様の待つ部屋へと歩いて行きました。
よかったのかしら?
お仕事が忙しくて顔を合わせる時間がないとか……いつぞやの出来事を思い出して申し訳ない気持ちが湧いてきます。
私も仕事が大詰めで長居が出来ないことは、お手紙でお知らせしているので、ご承知の上だとは思うのだけれども。
レイ様の顔が見れないのは寂しいのですが、無理して時間を作っていただいているのならば、お断りした方がよかったのかもしれないわ。
西の宮の主人であるレイ様にご挨拶することから始まる訪問はルーティーンとなっていたので、会えないと落ち着かなくてそわそわした気分になってしまう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、侍女達はあらかじめ用意していたドレスと装飾品を持ち出して、着替えの準備に余念がない。なんとなくうきうきしているように見えるのは私の気のせいかしら?
「フローラ様、少し御痩せになりましたか?」
気遣う声にハッと顔を上げました。
心配そうな声で話しかけたのはエルザ。
日常になってしまったリッキー様の学習後の西の宮でのお茶会。ディアナからもらったドレスに着替えるのもお馴染みの習慣になりました。
ディアナのスタイルとほとんど変わらないのでお直しはほとんどないのですが、ウエスト辺りが少しだけ余っているようです。ウエストだけではなく全体的に余裕がありました。
痩せた。
あの一件から、食欲がなくなって食べる量が減ったのは自覚としてありました。その上に新店舗の立ち上げが本格化して忙しくなったのも一因です。時間を捻出するために削ったのが食事の時間でした。
なんとなく気づいてはいたのですが、邸では誰もこのことについて触れる者はいなかったので、気にしていませんでした。
そういえば、やたらとお茶の時間が増えていたような気がするわ。仕事をしながらでもよいからと軽食を用意してくれていたことを思い出しました。口には出さなくてもみんな気にかけてくれていたのね。
「最近忙しくて動き回っていたから、そのせいかも……大丈夫よ」
私の身を案じてか、エルザの顔が曇っています。
痩せたのは忙しさのせい。
「エルザ。心配のし過ぎだわ。大丈夫よ。食事はとっているわ」
「余計なことを申しました。お許しください」
「そんな……私のことを心配してくれたのでしょう。気にかけてくれてありがたいわ」
毎日、顔を合わせるわけではなく、仕える主人でもないのに気を配ってくれるのは嬉しいものです。
着付けが終わると鏡台の前へ。お化粧を落として新たにお化粧を施してもらいます。衣装を変えたらそれに合う化粧が必要と言われて、今に至っています。帰るときはドレスを着替えるので再度のお化粧直しは必然となっています。
お化粧を落とすと白さを通り越して青白い肌に見えます。
さっきよりも曇ったエルザの顔が鏡越しに映りヒヤッとしましたが、彼女の表情が柔らかくなり
「このドレスには明るめのお化粧が合いそうだわ。それと髪も緩やかな巻き毛にするとよさそうね。フローラ様、いかがでしょうか?」
気づかないふりをしてくれたようです。気まずい思いをしないような心遣いがありがたいわ。
「お任せします」
コーディネートはよくわからなので、エルザ達の言う通りにした方がよさそうです。我が邸でもメイドにお任せ状態なので異論はありません。
「畏まりました。お任せください」
二人は気合の入った返事をするとさっそく準備に取り掛かりました。
すべてが終わると大きな鏡の前で全身をチェックします。ドレスの裾を整えたり髪飾りの位置を調整したり360度くまなく確認していると
「これはどうでしょうか」
ケイトが手にしていたのは真っ白なシルクのリボン。
「あら、いいわね」
少しぶかぶかだったウエストにリボンを巻いて、後ろでふんわりと蝶々結びをして着付けの出来上がりです。結んだリボンがアクセントになって体型をうまく隠してくれました。それに、顔色の悪さを暖色系のドレスとお化粧でカバーしてくれたので、見栄えもよくなったような気がします。
「フローラ様、おきれいです」
侍女達のため息交じりの感嘆の声にお世辞だとわかってはいますが、ちょっと照れてしまいました。
「皆さんのおかげよ。ありがとう」
エルザが涙ぐんでいます。ルーシーにケイトも。
私、泣かせるようなことを言ったかしら? お礼を言っただけなのに……
「あの……エルザ。ルーシーもケイトもどうしたの?」
「なんでもございません。いろいろと想像してしまい、私情が出てしまいました。フローラ様はお気になさらずに」
私情? よくわかりませんが、あまり追及しない方がよいのでしょうね。
「フローラ様、参りましょう」
エルザに先導されてレイ様の待つ部屋へと歩いて行きました。
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