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第二部
気づいた思いⅡ
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「レイ様、お待たせいたしました。本日は御招待を頂き光栄でございます」
レイ様の待つ部屋へ入るとカーテシーをして挨拶をしました。
「……」
返事がありません。いつもなら、堅苦しい挨拶はよいからと苦笑交じりの声が聞こえてくるのですが。
しばらく待ってみましたが、それでも何の返答もなかったので不敬とは思いましたが、顔をおそるおそる上げてみました。
大きく目を見開いて驚いているレイ様の姿が目に入りました。身動きできず固まっていらっしゃるよう。
「レイ様?」
呼び声にハッとしたレイ様はやっと気づいてくださったみたい。レイ様と目が合うとはにかんだ笑顔で頭を掻く仕草。頬がほんのり紅く感じるのは気のせい?
それにつられて私も面映ゆい気持ちになっていきます。
「ごめん。あまりにもきれいだったから見惚れてしまった」
さらりと放たれた誉め言葉に、今度は私が驚いて声を失いました。
「……」
たぶん、今のは聞き間違いかリップサービスかどちらかなのでしょう。それかドレスを褒められたのかもしれません。ローズピンクのドレスとお化粧が華やかさを演出してくれていますから。
「ありがとうございます」
せっかく褒めてくださったのですから、そのお気持ちは受け取らなくてはいけませんものね。けれど、自意識過剰になってはいけないわ。
気を引き締めてみるものの、私を見つめる穏やかな眼差しに引き寄せられるように目が離せなくなりました。なんだか、顔が熱くなってきたわ。
「ローラ。いらっしゃい。待ってたよ」
部屋の端に控える側近達が醸し出す生暖かい空気の中、やっと、いつもの挨拶を受けました。
「お待たせいたしました。レイ様」
返事を返すと相好を崩したレイ様がいました。
それにしても、レイ様ってイケボですよね。高すぎず低すぎず、うっとりと聞きやすい丁度よい声質。私の好きな声かもしれません。
「うん。今日は外を散歩しないかい? 天気も良いし色々と話もしたいしね」
レイ様から緊張した雰囲気が感じられるのですが、ほんのちょっとだけ。
侍女達のテンションもいつもより高かったような気がしますし、ソワソワとした浮足立った空気感に疑問を抱くものの、それを問いかけて答えが出るとは思えないので、気のせいということで自分を納得させました。
「はい」
返事をして差し出された手を取り庭園へと向かいました。
外へ出ると木々の緑が視界いっぱいに広がっていました。初夏の爽やかな風が頬を撫でていきます。
「気持ちがいいですね」
からりと乾いたそよ風が心地よいわ。
「うん。そうだね」
「レイ様?」
上の空な声を不思議に思いながらレイ様の横顔を見上げました。私の視線に気づいたのか咄嗟に笑みを作ったレイ様。
「ああ、ごめんね。考え事してた」
「もしかしたら、執務がお忙しいのでは? 私はお暇致しますので、お気遣いなさらずともよろしいですよ」
リッキー様の後の流れでレイ様の元へ訪問するのが半ば習慣となっていましたが、必ずそうしなければならないというわけではありませんものね。お忙しいでしょうに私なんかのために、レイ様の貴重な時間を使って頂くのも気が引けてしまいます。
「ごめん。そうじゃないんだ。仕事はすませているから何の心配もしなくていい。何でもないから、帰らないで」
懇願するように切ない瞳で見つめられて、手をぎゅうと握りしめられて、ドクンと心臓が跳ねました。色香を纏った表情にドキドキしてしまいます。レイ様ってこんなに艶麗な方だったかしら?
「そうなのですね。勘違いをしてしまって申し訳ございません」
「いや、いいんだ。この前が悪かった。仕事が入ったばっかりに途中で帰らせてしまって、どれだけ後悔したことか……」
悔しさに滲んだ声で謝るレイ様にちょっと大袈裟ではと思いつつも、自分との時間を大切にしてくれている気持ちも窺えて、心の中に蠟燭の火が灯ったような温かい気持ちになりました。
「レイ様……」
「歩きながら話をしようか」
気持ちが多少落ち着いたところで、庭園を見て回ることにしました。
今日はゆっくりと時間が取れないことは手紙で事前に伝えているので、ご承知だとは思うのですが、今確認するのも野暮なことかもしれません。
時間は気になってはいても、レイ様のそばは居心地が良くて離れがたく思ってしまいます。
新緑の若葉が濃い緑に変わって季節の移ろいを感じさせてくれます。小鳥が小枝に止まって囀っていたり羽繕いをしていたり。レイ様と音を立てないように息をひそめて自然の営みを観察していると、ここ最近の嫌なことも忘れて幸福感で満たされていきました。
忙しくてお断りしようと思ったけれど、お会いしてよかったわ。レイ様の笑顔を見てるだけで癒されるもの。
「そういえば、池の件はどうなった? あれから一向に話が進まない気がするけど?」
池のほとりで魚たちを眺めているとうやむやになっていた我が邸の話。覚えていらっしゃったのね。頭の片隅にはあったけれど、次々と新事業を立ち上げたので、両親にはまだ話していませんでした。
「気にはなっていたのですけれど、そこまで行きつかなくて。申し訳ありません」
「別に謝らなくていいからね。池の造作には時間もお金もかかるし、万が一、気に入らなかった時の改装だって大変だからね。ゆっくりと考えたらいいんだよ。作ると決心した時には全面的に協力するから、それだけは覚えておいて」
「はい。ありがとうございます」
強引に話を進められるかもと冷や冷やしていましたが、そんなことはなくて反対に気遣って頂きました。気がかりだったことが一つ解決して肩の荷が下りました。
優しいレイ様。
レイ様の待つ部屋へ入るとカーテシーをして挨拶をしました。
「……」
返事がありません。いつもなら、堅苦しい挨拶はよいからと苦笑交じりの声が聞こえてくるのですが。
しばらく待ってみましたが、それでも何の返答もなかったので不敬とは思いましたが、顔をおそるおそる上げてみました。
大きく目を見開いて驚いているレイ様の姿が目に入りました。身動きできず固まっていらっしゃるよう。
「レイ様?」
呼び声にハッとしたレイ様はやっと気づいてくださったみたい。レイ様と目が合うとはにかんだ笑顔で頭を掻く仕草。頬がほんのり紅く感じるのは気のせい?
それにつられて私も面映ゆい気持ちになっていきます。
「ごめん。あまりにもきれいだったから見惚れてしまった」
さらりと放たれた誉め言葉に、今度は私が驚いて声を失いました。
「……」
たぶん、今のは聞き間違いかリップサービスかどちらかなのでしょう。それかドレスを褒められたのかもしれません。ローズピンクのドレスとお化粧が華やかさを演出してくれていますから。
「ありがとうございます」
せっかく褒めてくださったのですから、そのお気持ちは受け取らなくてはいけませんものね。けれど、自意識過剰になってはいけないわ。
気を引き締めてみるものの、私を見つめる穏やかな眼差しに引き寄せられるように目が離せなくなりました。なんだか、顔が熱くなってきたわ。
「ローラ。いらっしゃい。待ってたよ」
部屋の端に控える側近達が醸し出す生暖かい空気の中、やっと、いつもの挨拶を受けました。
「お待たせいたしました。レイ様」
返事を返すと相好を崩したレイ様がいました。
それにしても、レイ様ってイケボですよね。高すぎず低すぎず、うっとりと聞きやすい丁度よい声質。私の好きな声かもしれません。
「うん。今日は外を散歩しないかい? 天気も良いし色々と話もしたいしね」
レイ様から緊張した雰囲気が感じられるのですが、ほんのちょっとだけ。
侍女達のテンションもいつもより高かったような気がしますし、ソワソワとした浮足立った空気感に疑問を抱くものの、それを問いかけて答えが出るとは思えないので、気のせいということで自分を納得させました。
「はい」
返事をして差し出された手を取り庭園へと向かいました。
外へ出ると木々の緑が視界いっぱいに広がっていました。初夏の爽やかな風が頬を撫でていきます。
「気持ちがいいですね」
からりと乾いたそよ風が心地よいわ。
「うん。そうだね」
「レイ様?」
上の空な声を不思議に思いながらレイ様の横顔を見上げました。私の視線に気づいたのか咄嗟に笑みを作ったレイ様。
「ああ、ごめんね。考え事してた」
「もしかしたら、執務がお忙しいのでは? 私はお暇致しますので、お気遣いなさらずともよろしいですよ」
リッキー様の後の流れでレイ様の元へ訪問するのが半ば習慣となっていましたが、必ずそうしなければならないというわけではありませんものね。お忙しいでしょうに私なんかのために、レイ様の貴重な時間を使って頂くのも気が引けてしまいます。
「ごめん。そうじゃないんだ。仕事はすませているから何の心配もしなくていい。何でもないから、帰らないで」
懇願するように切ない瞳で見つめられて、手をぎゅうと握りしめられて、ドクンと心臓が跳ねました。色香を纏った表情にドキドキしてしまいます。レイ様ってこんなに艶麗な方だったかしら?
「そうなのですね。勘違いをしてしまって申し訳ございません」
「いや、いいんだ。この前が悪かった。仕事が入ったばっかりに途中で帰らせてしまって、どれだけ後悔したことか……」
悔しさに滲んだ声で謝るレイ様にちょっと大袈裟ではと思いつつも、自分との時間を大切にしてくれている気持ちも窺えて、心の中に蠟燭の火が灯ったような温かい気持ちになりました。
「レイ様……」
「歩きながら話をしようか」
気持ちが多少落ち着いたところで、庭園を見て回ることにしました。
今日はゆっくりと時間が取れないことは手紙で事前に伝えているので、ご承知だとは思うのですが、今確認するのも野暮なことかもしれません。
時間は気になってはいても、レイ様のそばは居心地が良くて離れがたく思ってしまいます。
新緑の若葉が濃い緑に変わって季節の移ろいを感じさせてくれます。小鳥が小枝に止まって囀っていたり羽繕いをしていたり。レイ様と音を立てないように息をひそめて自然の営みを観察していると、ここ最近の嫌なことも忘れて幸福感で満たされていきました。
忙しくてお断りしようと思ったけれど、お会いしてよかったわ。レイ様の笑顔を見てるだけで癒されるもの。
「そういえば、池の件はどうなった? あれから一向に話が進まない気がするけど?」
池のほとりで魚たちを眺めているとうやむやになっていた我が邸の話。覚えていらっしゃったのね。頭の片隅にはあったけれど、次々と新事業を立ち上げたので、両親にはまだ話していませんでした。
「気にはなっていたのですけれど、そこまで行きつかなくて。申し訳ありません」
「別に謝らなくていいからね。池の造作には時間もお金もかかるし、万が一、気に入らなかった時の改装だって大変だからね。ゆっくりと考えたらいいんだよ。作ると決心した時には全面的に協力するから、それだけは覚えておいて」
「はい。ありがとうございます」
強引に話を進められるかもと冷や冷やしていましたが、そんなことはなくて反対に気遣って頂きました。気がかりだったことが一つ解決して肩の荷が下りました。
優しいレイ様。
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