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第二部
遠い告白Ⅰ
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「「きゃあ」」
突然、悲鳴にも似た令嬢達の黄色い声が大ホールに響き渡りました。何事かと声のした方を振り向くと、目に飛び込んできたのは正装を着こなしたレイ様の姿。髪型も後ろに撫でつけてきっちりとしたスタイル。
自然に任せた髪型とトラウザーズにシャツにタイとラフな服装しか見たことのなかった私は、普段とは違う装いに見惚れてしまい、レイ様から目が離せなくなりました。
普段着の飾らないレイ様も素敵でしたが、正装姿はさらに美貌を引き立てています。髪を上げたらこんなに美しさが際立つとは思ってもいませんでした。
それはみんな同じのようでレイ様の姿を追っています。
頬を染めて見惚れている令嬢達や眼福とばかりに、キャッキャウフフと手を取り合って喜ぶ令嬢達。一気に華やいだムードに会場が騒がしくなりました。
「今夜は出席したのね」
騒めく令嬢達を横目に隣にいたディアナの声が耳に届きました。
今夜は第二王子であるユージン殿下とポラリス・デルパール公爵令嬢の婚約祝賀会。
王城の大ホールでは招待された貴族達で賑わっています。
レイ様は国王両陛下はじめ王族の方々に挨拶をすると用意されていた椅子へ座りました。
令嬢達の熱い視線はレイ様に向けられたままですが、それを知ってか知らずか、それとも当然のことなのか平然としていらっしゃいます。
いつもの人懐っこい笑顔はなく、冷めたような無表情さに少し寂しさを感じましたが、壇上に座るレイ様は堂々としていて気品もあって王族の風格を纏った王子様。
手の届かない遠い人のようです。
「ほら、音楽が始まったわ。フローラ、レイニーと踊ってきたらどう?」
ディアナがそっと耳打ちしてきましたが、
「無理よ」
手を振って断るようなサインを送ります。
レイ様に会ったら冷静でいられる自信がありません。
つい先日レセプションパーティーが無事に終わりました。
数週間のお休みを頂いている間は、気持ちを整理するのに最適な期間で、なんとか落ち着きを取り戻したところだったのです。それでも、実物のレイ様の姿を見ると心臓がドキドキして顔が熱くなってきました。
こんな状態なのに、ダンスなんて踊ったら心臓が壊れてしまうかもしれないわ。
「遠慮しなくてもいいのよ。あなたは侯爵令嬢なのだから踊る権利は十分にあるわよ。残念ながら、ファーストダンスはビビアン様だけれど。さっ、行きましょう」
ビビアン様。
条件反射なのかびくっと体が震えたけれど、ディアナはお構いなしに私の腕を引っ張ると壇上の近くまで連れ出しました。そこでは令嬢達が鈴なりのように集まっています。もしかして、ダンス待ちの令嬢なのかしら?
「あれだけ容姿が良ければ、モテるわよね」
やっぱり、ディアナもそう思うわよね。皆を虜にするような美貌の持ち主ですもの。令嬢達がほっとかないわ。今までなんで気づかなかったのかしら。
レイ様がビビアン様の手を取りダンスが始まりました。鮮やかな深紅のドレスがビビアン様の美貌を輝かせ、レイ様の瞳と同じ菫色のイヤリングが耳元で揺れています。
パートナーのいない王族の場合、爵位の高い独身の令嬢とファーストダンスを踊る決まりがあります。ですので公爵令嬢のビビアン様がファーストダンスのパートナーを務めることになります。そのあとはフリーでどなたと踊ってもよいことになっています。
レイ様の濃藍を基調とした正装とビビアン様のドレスの色が引き立て合って、一対のお人形のように目に映りました。美男美女、お似合いだわ。
微笑むレイ様にビビアン様もにこやかに答えて、優雅で堂々としたダンスを踊る姿にズキッと胸が痛みます。
「ほ、ほう。お似合いですな。あの令嬢はどなたですかな?」
「シュミット公爵家のご令嬢のようですね。名前はビビアン嬢だったかと」
「なんと、シュミット公爵はこんな美しい令嬢を隠しておったのか」
「婚約者はいないと聞いておりますが、才色兼備と評判のご令嬢のようです。レイニー殿下とお似合いではないですか」
「ほんに、よいですな」
はははっ。笑い声とともに後ろから壮年らしい貴族達の声が聞こえました。下世話と言えばそうなのでしょうが、お二人を目にすればそんな会話が飛び出すのも無理はないのかもしれません。
本当にお似合いだもの。
「あんなの気にしたらダメよ」
ディアナの声に俯いていた私は顔をあげて微笑みました。
「大丈夫よ。なんとも思っていないわ」
うそ。思いっきり気にしているくせに。虚勢を張って答えたけれど、眩しいくらいに輝く二人の前に私の存在なんてチリのようなもの。足元にも及ばない。
「その意気よ。ほら、ダンスが終わったわよ」
見ると、最後のお辞儀をしているところでした。ダンスが終わったレイ様がこちらに近づいてきます。
心臓の鼓動が早鐘を打ちます。
「フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢。私とダンスを踊っていただけませんか」
レイ様が手を差し出しました。
私の所に来てくださったけれど、嬉しさと同時に不安な気持ちにもなります。ビビアン様の後では私なんかきっと霞んでしまう。卑屈になりそうな自分にいつもの優しい眼差しで微笑みかけるレイ様が勇気を与えてくれます。
綻ぶ笑顔に胸が高鳴って手が震えてきました。
「ローラ」
レイ様が呼ぶいつもの私の愛称に、たったそれだけなのに、なんだか泣きそうになりながら「はい」と小さく返事をしました。
突然、悲鳴にも似た令嬢達の黄色い声が大ホールに響き渡りました。何事かと声のした方を振り向くと、目に飛び込んできたのは正装を着こなしたレイ様の姿。髪型も後ろに撫でつけてきっちりとしたスタイル。
自然に任せた髪型とトラウザーズにシャツにタイとラフな服装しか見たことのなかった私は、普段とは違う装いに見惚れてしまい、レイ様から目が離せなくなりました。
普段着の飾らないレイ様も素敵でしたが、正装姿はさらに美貌を引き立てています。髪を上げたらこんなに美しさが際立つとは思ってもいませんでした。
それはみんな同じのようでレイ様の姿を追っています。
頬を染めて見惚れている令嬢達や眼福とばかりに、キャッキャウフフと手を取り合って喜ぶ令嬢達。一気に華やいだムードに会場が騒がしくなりました。
「今夜は出席したのね」
騒めく令嬢達を横目に隣にいたディアナの声が耳に届きました。
今夜は第二王子であるユージン殿下とポラリス・デルパール公爵令嬢の婚約祝賀会。
王城の大ホールでは招待された貴族達で賑わっています。
レイ様は国王両陛下はじめ王族の方々に挨拶をすると用意されていた椅子へ座りました。
令嬢達の熱い視線はレイ様に向けられたままですが、それを知ってか知らずか、それとも当然のことなのか平然としていらっしゃいます。
いつもの人懐っこい笑顔はなく、冷めたような無表情さに少し寂しさを感じましたが、壇上に座るレイ様は堂々としていて気品もあって王族の風格を纏った王子様。
手の届かない遠い人のようです。
「ほら、音楽が始まったわ。フローラ、レイニーと踊ってきたらどう?」
ディアナがそっと耳打ちしてきましたが、
「無理よ」
手を振って断るようなサインを送ります。
レイ様に会ったら冷静でいられる自信がありません。
つい先日レセプションパーティーが無事に終わりました。
数週間のお休みを頂いている間は、気持ちを整理するのに最適な期間で、なんとか落ち着きを取り戻したところだったのです。それでも、実物のレイ様の姿を見ると心臓がドキドキして顔が熱くなってきました。
こんな状態なのに、ダンスなんて踊ったら心臓が壊れてしまうかもしれないわ。
「遠慮しなくてもいいのよ。あなたは侯爵令嬢なのだから踊る権利は十分にあるわよ。残念ながら、ファーストダンスはビビアン様だけれど。さっ、行きましょう」
ビビアン様。
条件反射なのかびくっと体が震えたけれど、ディアナはお構いなしに私の腕を引っ張ると壇上の近くまで連れ出しました。そこでは令嬢達が鈴なりのように集まっています。もしかして、ダンス待ちの令嬢なのかしら?
「あれだけ容姿が良ければ、モテるわよね」
やっぱり、ディアナもそう思うわよね。皆を虜にするような美貌の持ち主ですもの。令嬢達がほっとかないわ。今までなんで気づかなかったのかしら。
レイ様がビビアン様の手を取りダンスが始まりました。鮮やかな深紅のドレスがビビアン様の美貌を輝かせ、レイ様の瞳と同じ菫色のイヤリングが耳元で揺れています。
パートナーのいない王族の場合、爵位の高い独身の令嬢とファーストダンスを踊る決まりがあります。ですので公爵令嬢のビビアン様がファーストダンスのパートナーを務めることになります。そのあとはフリーでどなたと踊ってもよいことになっています。
レイ様の濃藍を基調とした正装とビビアン様のドレスの色が引き立て合って、一対のお人形のように目に映りました。美男美女、お似合いだわ。
微笑むレイ様にビビアン様もにこやかに答えて、優雅で堂々としたダンスを踊る姿にズキッと胸が痛みます。
「ほ、ほう。お似合いですな。あの令嬢はどなたですかな?」
「シュミット公爵家のご令嬢のようですね。名前はビビアン嬢だったかと」
「なんと、シュミット公爵はこんな美しい令嬢を隠しておったのか」
「婚約者はいないと聞いておりますが、才色兼備と評判のご令嬢のようです。レイニー殿下とお似合いではないですか」
「ほんに、よいですな」
はははっ。笑い声とともに後ろから壮年らしい貴族達の声が聞こえました。下世話と言えばそうなのでしょうが、お二人を目にすればそんな会話が飛び出すのも無理はないのかもしれません。
本当にお似合いだもの。
「あんなの気にしたらダメよ」
ディアナの声に俯いていた私は顔をあげて微笑みました。
「大丈夫よ。なんとも思っていないわ」
うそ。思いっきり気にしているくせに。虚勢を張って答えたけれど、眩しいくらいに輝く二人の前に私の存在なんてチリのようなもの。足元にも及ばない。
「その意気よ。ほら、ダンスが終わったわよ」
見ると、最後のお辞儀をしているところでした。ダンスが終わったレイ様がこちらに近づいてきます。
心臓の鼓動が早鐘を打ちます。
「フローラ・ブルーバーグ侯爵令嬢。私とダンスを踊っていただけませんか」
レイ様が手を差し出しました。
私の所に来てくださったけれど、嬉しさと同時に不安な気持ちにもなります。ビビアン様の後では私なんかきっと霞んでしまう。卑屈になりそうな自分にいつもの優しい眼差しで微笑みかけるレイ様が勇気を与えてくれます。
綻ぶ笑顔に胸が高鳴って手が震えてきました。
「ローラ」
レイ様が呼ぶいつもの私の愛称に、たったそれだけなのに、なんだか泣きそうになりながら「はい」と小さく返事をしました。
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