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第二部
揺れ動く気持ちⅡ
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レースのカーテンが揺らめき、からりと乾いた風が部屋の中を吹き抜けていきます。リッキー様の語学学習が終わった後のアンジェラ様とのお茶の時間。たわいもない世間話をして一息つきます。
学習が終われば、迎えが来てレイ様の宮へと場所を移していた日々でしたが、それもなくなりました。手紙のやり取りもお断りしたので、レイ様との接点はありません。
ただ、これを機会に自分の時間の使い方を見直してみることにしました。これまで詰め込み過ぎたスケジュールをある程度緩めることにして、時間に余裕をもたせることして、融通が利くようにしたのです。
風邪が長引いて家族や周りの人達にも心配をかけましたし、その原因の一つには体力や免疫の低下もありました。
忙しくすれば余計なことを考えずにすむけれど、がむしゃらにやったとて成果がでるわけでもなく、結果、さらに自分を追い詰めることになる。無理をしないこと。両親とも色々話していてそんな結論に至りました。
人生は長いので、もう少しゆとりをもって過ごそうと思ったのです。
アンジェラ様とのお茶の時間もその一環。せっかく、王太子妃殿下と親しくさせて頂いているのにお話をする機会をなくすなんてもったいないことです。誘ってくださるうちは、私もアンジェラ様のお気持ちに沿いたいと思っています。
それに、気さくで気取りがなくて、目線を合わせて下さるので、とても話しやすくて、時間を忘れて会話をするのもしばしば。聞き上手で話し上手。妃殿下として申し分のない方だといつも感心してしまいます。こんな人になりたいわ。アンジェラ様は私の理想の人物像です。
「ローラおねえちゃん。遊ぼう」
すぐそばでリッキー様の声がしました。
おやつを食べて終えて、おもちゃで遊んでいたリッキー様は退屈したのか、ドレスの裾を引っ張って私を見上げていました。期待に満ちたキラキラした瞳で見つめる小さな王子様。
「フローラちゃん。もう少し時間が取れるなら、リチャードの相手をしてくれないかしら? お昼寝がまだだから、そんなに時間は取らせないと思うのよ」
「はい。私でお役に立てるのであれば、リッキー様におつき合いいたします」
「よかったわね。リチャード」
「うん」
喜色満面のリッキー様。早速私の手を引くと立つように促します。立ち上がると手を引かれて部屋の外へと連れていかれました。
「リッキー様? どちらへ? お部屋で遊ぶのではありませんか?」
「お散歩しよ。ダメ?」
後ろからはマロンを抱いたエイブに護衛騎士が二人。
「ダメではありませんが……」
部屋の中ばかりではマンネリ化しちゃいますものね。同い年くらいの遊び相手がいらっしゃるとまた違うのでしょうけれど、そのようなお相手はまだいないと聞いているので、散歩が気晴らしなのでしょう。
手をつなぎリッキー様の思いのままついて行くと、やがて見覚えのある景色が目の前に広がっていきます。通いなれた廊下。広い廊下に置かれた調度品。壁に飾ってある絵画が以前とは変わっていました。変化したものがわかるほど通っていた場所。
「リッキー様。ちょっとお待ちください。これより先は……」
立ち止まりかけて躊躇する私に
「だって、一緒に遊びたいもん」
拗ねたような顔を向けるリッキー様。私達の事情は知らないでしょうから、無碍に断ることもできません。元々、仲の良い叔父と甥ですもの。遊びに行くのは自然な事。こちらの事情に幼いリッキー様を巻き込むわけにはいきませんものね。大人の対応をすればよいだけ。私がいなくても困らないでしょうし、宮まで同行して、すぐに引き返せばいいわ。顔は見ずに退散すれば何も問題はないでしょう。
両手で腕を取られてずんずんと進んでいくリッキー様の表情からはうきうきと高揚した気持ちが見て取れます。ここで引き返せば……そんな思いが何度もよぎります。
その都度、リッキー様を悲しませるのも申し訳ないからと思い直して、ためらいがちにドキドキした気持ちを抱えながら、長い廊下を歩いていきました。
近づくにつれて、胸の鼓動が早くなり足が止まりそうになります。リッキー様は早く行きたいのでしょう。次第に歩く速度があがっていきます。
「リッキー様。もう少し、ゆっくり歩きましょう」
はやる気持ちはわかるのですが、しまいには走り出してしまうのではと思うくらいに速足です。私の体力が持ちません。エイブ達の苦労がちょっとわかったような気がしました。後ろを振り返るとエイブが苦笑いを浮かべていました。
「うん。そうする」
分かってくれたようです。それからは普通の歩行速度になったので、ホッとしました。もしかしたら、以前、レイ様に注意されたことを思い出したのかもしれません。ちょっとした出来事もレイ様とつながっていて思い出してしまう。
恋しい気持ちと忘れなければと思う気持ちが綯い交ぜになってどうしたらいいのかわからなくて……切なくて、苦しくて。
小さな手に引かれて、導かれるように廊下を進んでいきました。
「どうぞ」
いきなり扉が開きました。考え事をしているうちに、西の宮に着いたようです。
開け放たれた扉から
「レイお兄ちゃーん」
嬉しそうに駆け出していくリッキー様。微笑ましい姿を目で追うとその先にはレイ様がいました。
学習が終われば、迎えが来てレイ様の宮へと場所を移していた日々でしたが、それもなくなりました。手紙のやり取りもお断りしたので、レイ様との接点はありません。
ただ、これを機会に自分の時間の使い方を見直してみることにしました。これまで詰め込み過ぎたスケジュールをある程度緩めることにして、時間に余裕をもたせることして、融通が利くようにしたのです。
風邪が長引いて家族や周りの人達にも心配をかけましたし、その原因の一つには体力や免疫の低下もありました。
忙しくすれば余計なことを考えずにすむけれど、がむしゃらにやったとて成果がでるわけでもなく、結果、さらに自分を追い詰めることになる。無理をしないこと。両親とも色々話していてそんな結論に至りました。
人生は長いので、もう少しゆとりをもって過ごそうと思ったのです。
アンジェラ様とのお茶の時間もその一環。せっかく、王太子妃殿下と親しくさせて頂いているのにお話をする機会をなくすなんてもったいないことです。誘ってくださるうちは、私もアンジェラ様のお気持ちに沿いたいと思っています。
それに、気さくで気取りがなくて、目線を合わせて下さるので、とても話しやすくて、時間を忘れて会話をするのもしばしば。聞き上手で話し上手。妃殿下として申し分のない方だといつも感心してしまいます。こんな人になりたいわ。アンジェラ様は私の理想の人物像です。
「ローラおねえちゃん。遊ぼう」
すぐそばでリッキー様の声がしました。
おやつを食べて終えて、おもちゃで遊んでいたリッキー様は退屈したのか、ドレスの裾を引っ張って私を見上げていました。期待に満ちたキラキラした瞳で見つめる小さな王子様。
「フローラちゃん。もう少し時間が取れるなら、リチャードの相手をしてくれないかしら? お昼寝がまだだから、そんなに時間は取らせないと思うのよ」
「はい。私でお役に立てるのであれば、リッキー様におつき合いいたします」
「よかったわね。リチャード」
「うん」
喜色満面のリッキー様。早速私の手を引くと立つように促します。立ち上がると手を引かれて部屋の外へと連れていかれました。
「リッキー様? どちらへ? お部屋で遊ぶのではありませんか?」
「お散歩しよ。ダメ?」
後ろからはマロンを抱いたエイブに護衛騎士が二人。
「ダメではありませんが……」
部屋の中ばかりではマンネリ化しちゃいますものね。同い年くらいの遊び相手がいらっしゃるとまた違うのでしょうけれど、そのようなお相手はまだいないと聞いているので、散歩が気晴らしなのでしょう。
手をつなぎリッキー様の思いのままついて行くと、やがて見覚えのある景色が目の前に広がっていきます。通いなれた廊下。広い廊下に置かれた調度品。壁に飾ってある絵画が以前とは変わっていました。変化したものがわかるほど通っていた場所。
「リッキー様。ちょっとお待ちください。これより先は……」
立ち止まりかけて躊躇する私に
「だって、一緒に遊びたいもん」
拗ねたような顔を向けるリッキー様。私達の事情は知らないでしょうから、無碍に断ることもできません。元々、仲の良い叔父と甥ですもの。遊びに行くのは自然な事。こちらの事情に幼いリッキー様を巻き込むわけにはいきませんものね。大人の対応をすればよいだけ。私がいなくても困らないでしょうし、宮まで同行して、すぐに引き返せばいいわ。顔は見ずに退散すれば何も問題はないでしょう。
両手で腕を取られてずんずんと進んでいくリッキー様の表情からはうきうきと高揚した気持ちが見て取れます。ここで引き返せば……そんな思いが何度もよぎります。
その都度、リッキー様を悲しませるのも申し訳ないからと思い直して、ためらいがちにドキドキした気持ちを抱えながら、長い廊下を歩いていきました。
近づくにつれて、胸の鼓動が早くなり足が止まりそうになります。リッキー様は早く行きたいのでしょう。次第に歩く速度があがっていきます。
「リッキー様。もう少し、ゆっくり歩きましょう」
はやる気持ちはわかるのですが、しまいには走り出してしまうのではと思うくらいに速足です。私の体力が持ちません。エイブ達の苦労がちょっとわかったような気がしました。後ろを振り返るとエイブが苦笑いを浮かべていました。
「うん。そうする」
分かってくれたようです。それからは普通の歩行速度になったので、ホッとしました。もしかしたら、以前、レイ様に注意されたことを思い出したのかもしれません。ちょっとした出来事もレイ様とつながっていて思い出してしまう。
恋しい気持ちと忘れなければと思う気持ちが綯い交ぜになってどうしたらいいのかわからなくて……切なくて、苦しくて。
小さな手に引かれて、導かれるように廊下を進んでいきました。
「どうぞ」
いきなり扉が開きました。考え事をしているうちに、西の宮に着いたようです。
開け放たれた扉から
「レイお兄ちゃーん」
嬉しそうに駆け出していくリッキー様。微笑ましい姿を目で追うとその先にはレイ様がいました。
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