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第二部
ビビアンside⑦
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放課後の学園。
生徒達の数もまばらになり静けさが辺りを包んでいる。邸に帰りづらいわたくしは友人達と別れてまだ学園にいた。婚約話が出てからというもの、気分は最悪で友人達との会話が少し億劫になっていた。
帰ったら帰ったで待ち構えたようにお母様にお茶に誘われて、三男の話が出てくる。お茶会や夜会で仕入れてくるらしい武勇伝などを延々と聞かされる。よくもまあ、話題が尽きないものだと感心するわ。
そして、いつの間にかサンルームの片隅に三男の絵姿が飾ってある。大きいものではないから、目に入れなければよいのだけれど、椅子に座る位置がちょうど絵の真正面になるのよ。狙ってやっているとしか思えないけれど、両親との諍いは本意ではないから、黙認している。
興味を持ってもらいたいと頑張っているのはわかるけれど、少し放っておいてほしいと思うわ。そんな毎日だから帰りづらくて学園で時間を潰すことにした。
幸い、サロンは遅くまで開いているのでそこに行くことにした。
飲食可能なサロンでは友人同士やカップルも何組か座っている。勉強をしたりおしゃべりを楽しんだり、利用する理由は様々ね。見た限り、お一人様はいないわね。でもいいわ。一人で物思いに耽る者がいてもいいでしょう?
どの席がいいかしら。やはり、窓際がいいかしらね。
空いている席を探していると
「あら、ビビアン様。お久しぶりですわね」
声のした方を向くとディアナがいた。緑が見える窓際。一番眺めが良さそうな特等席を陣取っている。
「ディアナ。元気だったかしら?」
こんなところで会うなんて、一人静かに時間を過ごすはずだったのに、心の中で舌打ちをしながら、にこやかに応対する。フローラも一緒だったわ。テーブルの上には飲み物と教科書とノートに筆記用具。課題でもしていたのかもしれないわ。真面目なこと。それとも一人では難しい過ぎてディアナとやっているのかしら。
フローラの顔を見たら悪意しか浮かんでこない。
「ええ。おかげさまで」
「フローラ様はお元気だったかしら?」
「はい」
身を縮こませてビクビク、おどおどと返事をするフローラには気品も威厳もない。ただ、殿下に甘えて守ってもらうだけが妻の仕事ではないわ。レイニー殿下と戯れていた姿が頭をよぎる。
勉強が取り柄の地味令嬢と思っていたけれど、案外殿方に取り入るのがうまいのかしら。
清純そうな顔をしてどんな手管を使ったの。知らぬ間に殿下の懐に入り込んだフローラに、嫉妬が煮えたぎるようにふつふつと湧いてきて、フローラをねめつけた。こうでもしないとわたくしの気持ちがおさまらない。これくらいでは足りないくらいだけれど、他に手段は見つからない。
でも、威力は充分よね。わたくしに威嚇されたフローラは見る間に血の気を失ってカタカタと震えだしたわ。ディアナがいない隙に呼び出して、脅してみようかしら。いいえ、そうじゃないわ。自らレイニー殿下から手を引いてもらうようにお願いしてみればいいのよ。二度と会わないようにね、お願いするの。
そうだわ。その代わりロジアム侯爵家の三男を紹介してあげるというのはどうかしら。わたくしよりもお似合いだと思うわ。
色々と策を思いついて悦に入っていると、
「今日はお一人で?」
いつも友人達と一緒だから、不思議に思ったのかディアナが聞いてくる。
「ええ、たまには一人でゆっくりとしたいと思って、サロンに足を運びましたの」
これからのことを考えるにしても、どこか席を見つけて腰を落ちつけるか、帰るか、どうしようかしら。今帰っても、お母様に捕まるだけよね。それは避けたいわ。そうするとサロンの方がいいわよね。
「ビビアン様。ちょっと、小耳にはさんだのですけれど、良い縁談が来ているそうですわね」
キョロキョロと席を探しているとディアナの口から飛び出した言葉に、大きく目を見開いた。
「良い縁談? 何のことかしら?」
「あら、わたしの聞き違いだったのかしら? ある侯爵家の令息との縁談ですわ。相手の侯爵家も名門で令息も将来有望な騎士だとか。両家ともとても乗り気だそうですわね? よかったですわね。結婚は祝福されてこそですもの」
「どこからそんなことを聞きましたの?」
いやに具体的。家名を言わなくても特定できるわ。もうみんなに知れ渡っているの? 婚約を結んでもいないのに、噂が先行するなんて。
「さあ、どこでだったかしら? 先ほども言ったように小耳にはさんだだけですわ。でも、噂は本当だったようですわね」
ディアナは扇子で口元を隠すと目を細めた。
しまったわ。少し、ムキになってしまった。ここは濁しておかなければいけないところだったのに。自分が乗り気ならよいけれど、意に染まぬ結婚を強いられている身では伏せておきたい案件。これがレイニー殿下の耳に入れば、ますます結婚は遠のいてしまう。
「噂は噂ですわ。あまり鵜呑みにしない方がよろしいわ。縁談なんて降るようにありますの。その一つですわね、きっと。わたくしには誰なのか皆目見当がつきませんけれど」
あくまでもわたくしは関与していない。このことを強調しておかなくては。
「そうでしたの? わたしもお似合いだと思いますわよ。令息は美丈夫な方で人気も高いですし、腕も立つと評判ですわ。ビビアン様にぴったりだと思います。わたしも応援しますわよ」
三男との縁談を応援だなんて何を考えているのかしら? まさか、レイニー殿下とフローラとの縁談を後押しするために?
「ディアナの応援は有難いけれど、それは勇み足だというものですわ。わたくしの縁談よりもフローラ様の縁談を心配して差し上げたらいかがかしらね」
「フローラのことは心配なさらなくても大丈夫ですわ。彼女は才能の塊ですからね。いろんな生きる道がありますわ」
「そうでしたわね。フローラ様、余計な事でしたわね。傷物令嬢ともなると結婚を諦めて、別の生きる道も考えなくてはならないなんて、大変ですわね」
皮肉を投げつけると悲愴感を漂わせて俯いてしまったわ。だって、本当のことだもの。いい気味よ。
傷物は傷物らしく、おとなしくしておけばよいのよ。レイニー殿下の周りをちょろちょろとうろついて目障りなのよ。
生徒達の数もまばらになり静けさが辺りを包んでいる。邸に帰りづらいわたくしは友人達と別れてまだ学園にいた。婚約話が出てからというもの、気分は最悪で友人達との会話が少し億劫になっていた。
帰ったら帰ったで待ち構えたようにお母様にお茶に誘われて、三男の話が出てくる。お茶会や夜会で仕入れてくるらしい武勇伝などを延々と聞かされる。よくもまあ、話題が尽きないものだと感心するわ。
そして、いつの間にかサンルームの片隅に三男の絵姿が飾ってある。大きいものではないから、目に入れなければよいのだけれど、椅子に座る位置がちょうど絵の真正面になるのよ。狙ってやっているとしか思えないけれど、両親との諍いは本意ではないから、黙認している。
興味を持ってもらいたいと頑張っているのはわかるけれど、少し放っておいてほしいと思うわ。そんな毎日だから帰りづらくて学園で時間を潰すことにした。
幸い、サロンは遅くまで開いているのでそこに行くことにした。
飲食可能なサロンでは友人同士やカップルも何組か座っている。勉強をしたりおしゃべりを楽しんだり、利用する理由は様々ね。見た限り、お一人様はいないわね。でもいいわ。一人で物思いに耽る者がいてもいいでしょう?
どの席がいいかしら。やはり、窓際がいいかしらね。
空いている席を探していると
「あら、ビビアン様。お久しぶりですわね」
声のした方を向くとディアナがいた。緑が見える窓際。一番眺めが良さそうな特等席を陣取っている。
「ディアナ。元気だったかしら?」
こんなところで会うなんて、一人静かに時間を過ごすはずだったのに、心の中で舌打ちをしながら、にこやかに応対する。フローラも一緒だったわ。テーブルの上には飲み物と教科書とノートに筆記用具。課題でもしていたのかもしれないわ。真面目なこと。それとも一人では難しい過ぎてディアナとやっているのかしら。
フローラの顔を見たら悪意しか浮かんでこない。
「ええ。おかげさまで」
「フローラ様はお元気だったかしら?」
「はい」
身を縮こませてビクビク、おどおどと返事をするフローラには気品も威厳もない。ただ、殿下に甘えて守ってもらうだけが妻の仕事ではないわ。レイニー殿下と戯れていた姿が頭をよぎる。
勉強が取り柄の地味令嬢と思っていたけれど、案外殿方に取り入るのがうまいのかしら。
清純そうな顔をしてどんな手管を使ったの。知らぬ間に殿下の懐に入り込んだフローラに、嫉妬が煮えたぎるようにふつふつと湧いてきて、フローラをねめつけた。こうでもしないとわたくしの気持ちがおさまらない。これくらいでは足りないくらいだけれど、他に手段は見つからない。
でも、威力は充分よね。わたくしに威嚇されたフローラは見る間に血の気を失ってカタカタと震えだしたわ。ディアナがいない隙に呼び出して、脅してみようかしら。いいえ、そうじゃないわ。自らレイニー殿下から手を引いてもらうようにお願いしてみればいいのよ。二度と会わないようにね、お願いするの。
そうだわ。その代わりロジアム侯爵家の三男を紹介してあげるというのはどうかしら。わたくしよりもお似合いだと思うわ。
色々と策を思いついて悦に入っていると、
「今日はお一人で?」
いつも友人達と一緒だから、不思議に思ったのかディアナが聞いてくる。
「ええ、たまには一人でゆっくりとしたいと思って、サロンに足を運びましたの」
これからのことを考えるにしても、どこか席を見つけて腰を落ちつけるか、帰るか、どうしようかしら。今帰っても、お母様に捕まるだけよね。それは避けたいわ。そうするとサロンの方がいいわよね。
「ビビアン様。ちょっと、小耳にはさんだのですけれど、良い縁談が来ているそうですわね」
キョロキョロと席を探しているとディアナの口から飛び出した言葉に、大きく目を見開いた。
「良い縁談? 何のことかしら?」
「あら、わたしの聞き違いだったのかしら? ある侯爵家の令息との縁談ですわ。相手の侯爵家も名門で令息も将来有望な騎士だとか。両家ともとても乗り気だそうですわね? よかったですわね。結婚は祝福されてこそですもの」
「どこからそんなことを聞きましたの?」
いやに具体的。家名を言わなくても特定できるわ。もうみんなに知れ渡っているの? 婚約を結んでもいないのに、噂が先行するなんて。
「さあ、どこでだったかしら? 先ほども言ったように小耳にはさんだだけですわ。でも、噂は本当だったようですわね」
ディアナは扇子で口元を隠すと目を細めた。
しまったわ。少し、ムキになってしまった。ここは濁しておかなければいけないところだったのに。自分が乗り気ならよいけれど、意に染まぬ結婚を強いられている身では伏せておきたい案件。これがレイニー殿下の耳に入れば、ますます結婚は遠のいてしまう。
「噂は噂ですわ。あまり鵜呑みにしない方がよろしいわ。縁談なんて降るようにありますの。その一つですわね、きっと。わたくしには誰なのか皆目見当がつきませんけれど」
あくまでもわたくしは関与していない。このことを強調しておかなくては。
「そうでしたの? わたしもお似合いだと思いますわよ。令息は美丈夫な方で人気も高いですし、腕も立つと評判ですわ。ビビアン様にぴったりだと思います。わたしも応援しますわよ」
三男との縁談を応援だなんて何を考えているのかしら? まさか、レイニー殿下とフローラとの縁談を後押しするために?
「ディアナの応援は有難いけれど、それは勇み足だというものですわ。わたくしの縁談よりもフローラ様の縁談を心配して差し上げたらいかがかしらね」
「フローラのことは心配なさらなくても大丈夫ですわ。彼女は才能の塊ですからね。いろんな生きる道がありますわ」
「そうでしたわね。フローラ様、余計な事でしたわね。傷物令嬢ともなると結婚を諦めて、別の生きる道も考えなくてはならないなんて、大変ですわね」
皮肉を投げつけると悲愴感を漂わせて俯いてしまったわ。だって、本当のことだもの。いい気味よ。
傷物は傷物らしく、おとなしくしておけばよいのよ。レイニー殿下の周りをちょろちょろとうろついて目障りなのよ。
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