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第二部
ビビアンside⑫
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憂鬱な朝。毎日が憂鬱だわ。三男との婚約の日が迫っている。逃れられない運命を呪いながら毎日を過ごすわたくし。無理やり笑顔を作り幸せそうな顔で学園での日々を過ごすのにも疲れてしまった。
馬車から降りると学園の建物が見える。重い足取りで歩いていくと生徒達のざわめきが耳に入ってきた。
「あれは、もしや……」
「すごい。あの馬車って、もしかして」
口々に上がる驚愕の声に振り向くと一台の馬車が止まったところだった。
護衛騎士が六人ほど周りに配置されている。どんな要人が乗っているのかわからないけれど、警戒心の塊で物々しい雰囲気が漂っていた。
二頭立ての黒塗りに金の装飾がふんだんに施された上品で豪奢な馬車。何よりも目を引いたのは王家の紋章。
王族の馬車だと認めたとたんにざわざわとざわめく群衆達。
その馬車から誰が降りてくるのだろうと興味津々に見つめる中、御者が恭しく扉を開けた。
シンと静かになった空間。扉から姿を現したのは、レイニー殿下だった。
「キャー」
悲鳴にも似た黄色い声が辺りに響き渡る。彼の美貌に女子生徒達が浮足立ち彼の姿にうっとりと見惚れている。
久しぶりに見るレイニー殿下の姿。
その麗しき容姿や立ち姿に釘付けになりながら、もしかしたら、わたくしを迎えに来てくださったのかしらと一縷の望みに縋る。
ありえないと頭の片隅ではわかっていても、まだ諦めきれていない自分がいる。だって、わたくしの方がフローラよりも数倍相応しいと思うもの。このまま、あんな三男との縁談なんて蹴散らして、わたくしを連れ去って下さらないかしら。話を聞きつけて、そのために来てくださったのかもしれないわ。
次から次へと差し込む希望の光。
けれど、そんな望みも一瞬にして打ち砕かれた。
レイニー殿下が馬車の方を向き直って手を差し伸べる。誰かが中にいる。一人ではないと悟った時に殿下の手を取り中から出てきたのは、フローラだった。
「きゃあ」
今度は黄色い歓声が上がる。
レイニー殿下のエスコートで地に降り立つフローラは堂々としていた。殿下と向き合うと恥じらうような仕草を見せる様は二人の親密な関係を物語るようで、群衆達には微笑ましく映るかもしれない。
居合わせた生徒達は二人の様子に眼福とばかりに憧れの眼差しで見守っている。
こんな光景を見るために学園に来たわけではないのに。苦痛でしかないこんな場面、すぐに立ち去ってしまいたいのに、わたくしは地面に縫い留められたように動けない。
悔しさと虚しさと嫉妬が交差する胸の内、誰かわかってくれるだろうか。ずっと、思い続けた恋しい人が別の女性と寄り添っている姿なんて誰が見たいと思うの。
ギュウと締め付けられるような胸の痛み。泣き叫びたくなる衝動を抑えるために、皮膚に食い込むくらいに強く握りしめた手。
フローラは殿下の乗った馬車を見送るとディアナと共に歩き出した。待ち構えたように周りに集まる生徒達。
たちまち生徒達に囲まれたフローラは頬を染め照れくさそうに微笑みながらわたくしの前を通り過ぎていった。どんなに睨みつけても、意に介さずわたくしのことなど眼中にないとばかりに。
フローラがいなくなった後、それぞれの校舎に入っていく生徒達。誰もいなくなった停車場に一人残る。
学園では今日の二人の話題で持ち切りなのでしょう。そんなのは耐えられない。わたくしは具合が悪いことを理由に早退した。
これは夢かもしれない。夢であってほしいと願いながら。
けれど、その願いも空しく終わる。
畳みかけるように次の日、レイニー殿下とフローラの婚約が正式に発表されてしまった。
現実を突きつけられて。
僅かな希望も断たれて、粉々に完全に打ちのめされた絶望の瞬間。
何もかも人生が一変したこの日をわたくしは一生忘れない。
馬車から降りると学園の建物が見える。重い足取りで歩いていくと生徒達のざわめきが耳に入ってきた。
「あれは、もしや……」
「すごい。あの馬車って、もしかして」
口々に上がる驚愕の声に振り向くと一台の馬車が止まったところだった。
護衛騎士が六人ほど周りに配置されている。どんな要人が乗っているのかわからないけれど、警戒心の塊で物々しい雰囲気が漂っていた。
二頭立ての黒塗りに金の装飾がふんだんに施された上品で豪奢な馬車。何よりも目を引いたのは王家の紋章。
王族の馬車だと認めたとたんにざわざわとざわめく群衆達。
その馬車から誰が降りてくるのだろうと興味津々に見つめる中、御者が恭しく扉を開けた。
シンと静かになった空間。扉から姿を現したのは、レイニー殿下だった。
「キャー」
悲鳴にも似た黄色い声が辺りに響き渡る。彼の美貌に女子生徒達が浮足立ち彼の姿にうっとりと見惚れている。
久しぶりに見るレイニー殿下の姿。
その麗しき容姿や立ち姿に釘付けになりながら、もしかしたら、わたくしを迎えに来てくださったのかしらと一縷の望みに縋る。
ありえないと頭の片隅ではわかっていても、まだ諦めきれていない自分がいる。だって、わたくしの方がフローラよりも数倍相応しいと思うもの。このまま、あんな三男との縁談なんて蹴散らして、わたくしを連れ去って下さらないかしら。話を聞きつけて、そのために来てくださったのかもしれないわ。
次から次へと差し込む希望の光。
けれど、そんな望みも一瞬にして打ち砕かれた。
レイニー殿下が馬車の方を向き直って手を差し伸べる。誰かが中にいる。一人ではないと悟った時に殿下の手を取り中から出てきたのは、フローラだった。
「きゃあ」
今度は黄色い歓声が上がる。
レイニー殿下のエスコートで地に降り立つフローラは堂々としていた。殿下と向き合うと恥じらうような仕草を見せる様は二人の親密な関係を物語るようで、群衆達には微笑ましく映るかもしれない。
居合わせた生徒達は二人の様子に眼福とばかりに憧れの眼差しで見守っている。
こんな光景を見るために学園に来たわけではないのに。苦痛でしかないこんな場面、すぐに立ち去ってしまいたいのに、わたくしは地面に縫い留められたように動けない。
悔しさと虚しさと嫉妬が交差する胸の内、誰かわかってくれるだろうか。ずっと、思い続けた恋しい人が別の女性と寄り添っている姿なんて誰が見たいと思うの。
ギュウと締め付けられるような胸の痛み。泣き叫びたくなる衝動を抑えるために、皮膚に食い込むくらいに強く握りしめた手。
フローラは殿下の乗った馬車を見送るとディアナと共に歩き出した。待ち構えたように周りに集まる生徒達。
たちまち生徒達に囲まれたフローラは頬を染め照れくさそうに微笑みながらわたくしの前を通り過ぎていった。どんなに睨みつけても、意に介さずわたくしのことなど眼中にないとばかりに。
フローラがいなくなった後、それぞれの校舎に入っていく生徒達。誰もいなくなった停車場に一人残る。
学園では今日の二人の話題で持ち切りなのでしょう。そんなのは耐えられない。わたくしは具合が悪いことを理由に早退した。
これは夢かもしれない。夢であってほしいと願いながら。
けれど、その願いも空しく終わる。
畳みかけるように次の日、レイニー殿下とフローラの婚約が正式に発表されてしまった。
現実を突きつけられて。
僅かな希望も断たれて、粉々に完全に打ちのめされた絶望の瞬間。
何もかも人生が一変したこの日をわたくしは一生忘れない。
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