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第二部
穏やかな日々Ⅱ
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お茶を頂き、まったりとしているとレイ様が手招きしました。
レイ様が座っているソファに腰を下ろすとふわりと抱きしめられました。身も心も委ねて寄り添うといつもの香りに包まれます。
「レイ様。そろそろ帰ってもいい頃ではないのでしょうか。怪我も治りましたし、事件も解決したようですから」
犯人が盗賊でそれを指示したシュミット公爵家のメイド。それを扇動したのはビビアン様だと聞きました。真相を聞いた時には戦慄し驚きと共に悲しみで胸が痛みましたが、ビビアン様の憎しみや嫉妬を宿した目つきや態度を見なくてすむのが唯一の救いでしょうか。
邪魔者だと思われていたのは自分でもわかっていましたから。ただ、強硬手段に出るほどの憎悪を抱えていたのかと思うとゾッとしてしばらく寒気がおさまらなかったわ。もしも、誘拐されていたら生きながらに地獄を味わってたかもしれないと思うと本当に無事でよかったと心底思いました。
今、レイ様の腕に抱かれていることは奇跡でとても幸せなこと。
「帰りたいの?」
「え、と。それは……でも、いつまでもお邪魔するわけにはいきませんし」
宮でお世話になる条件は事件が解決するまで、だったはずなのですよね。本音を言えば帰りたくないけれど、いつまでも甘えるわけにもいかないでしょう。
「まだ、判決が出ていないから事件は完全に解決したわけではないよ」
にこりとレイ様が微笑みました。
そういわれればそうかもしれませんが、なんとなく屁理屈に聞こえてしまうのは気のせいかしら?
「それに、ローラを二度と危険な目に会わせたくないんだ。だからずっとここにいて? ね?」
ちょこんと首を傾げてお願いするレイ様はつぶらな瞳で尻尾を振っている子犬のようにかわいく見えて、思わず頷きそうになりました。
「お気持ちは有難いのですが、私達はまだ婚約者同士。結婚しているわけではないので、外聞が悪いのではないでしょうか?」
「外聞か? ローラはそんなものが気になるの?」
「それは、やはり気になります。レイ様の評判に関わるかもしれませんから」
貴族同士なら両家の取り決め次第でどうにでもなるのでしょうけれど。レイ様は王族です。結婚前から婚約者を住まわせてなるとなれば、公私混同していると批判されるかもしれません。そのことでレイ様が悪く思われるのは心苦しいですし。
「俺の心配をしてくれているんだね。王族の裁量もあるのはあるけれど、大抵が議会にかけられるんだよ。俺達の件も議会から承認をもらっているから、ローラは大手を振って王城を歩いていいんだよ。いい機会だから、本宮を案内しようか?」
「えっ?」
承認されているって? えっ?
「うん。婚約が成立した時にね、同居の許可ももらっているんだ。あの事件があった後だから、すんなり通ったみたいだよ」
さらに笑みを深めるレイ様。パクパクと口を動かすだけで言葉が出て来ない私。
「今回の事件は両親も兄上達や義姉上も心を痛めていて、憤慨しているどころではないんだ。そんなこともあって異例の措置が取られたという感じかな。ローラのことをみんな大事に思っているんだよ。その中でも俺が一番思っているけどね」
王族の方々から気にかけて頂いていることを知りうるっとなりましたが、最後のレイ様の言葉にクスッと笑ってしまいました。嬉しくて。
「それって、初めて聞きました」
「初めて言ったからね。判決が出て事件が完全に解決したら言おうと思っていたんだ」
「そうだったのですね」
納得せざるを得ませんが、ということはずっと西の宮で暮らすということですよね。
「ローラのご両親にも了承をもらっているから安心して」
顔に出ていたのかしら? 先に答えられてしまったわ。議会の決定が両親に伝えられないはずはないですものね。結婚後は宮で暮らすことは決定しているので、早いか遅いかの違いだけでそんなに気にすることもないのかもしれない?
「あと、温室の管理とか研究はどうすればいいのでしょう?」
邸に帰るつもりでいたからのんびりと構えていたけれど、帰れないとなるとどうすればいいのかしら?
「そうだよね。しばらくは今みたいに行き来するといいんじゃないかな。ちょっと、面倒かもしれないけれど。それについては、これから具体的に考えて最善の策を考えていこう」
「ありがとうございます」
そうよね。王子妃になっても研究は続けていいとレイ様も言ってくださっていた。
今は学園の帰りに邸に寄って諸々必要な要件を済ませて、宮に帰る生活を続けているので当分の間はそうなるのね。
両親とは研究所の件も相談しなくてはいけないわね。
まだ王子妃や結婚って言葉に出してもあまり実感が湧いてこなかったから、現実的なことが遠かったけれど自覚してしまうとちょっとドキドキしてきたわ。
「ね、ここのソファって何か思い出さない?」
心を高鳴らせているとふいにレイ様の声がしました。
「ソファですか?」
話題が違う方向にいったようで体を起こした私はソファを眺めました。一番日当たりの良い場所。ゆったりと寛げるソファはレイ様のお気に入り。
「俺にとってはとても重大な事かもしれないんだ。何か身に覚えはない?」
きょとんとしている私にもう一度問いかけるレイ様。
身に覚えって……
「あっ!」
あれから何度となく図書室には来ていたのに。
思い出したのはあの日の私。
まさか、レイ様……。
口に手を当て目を見開く私を面白そうに見つめるレイ様の姿に、見る見るうちに顔が赤らんでいきました。
レイ様が座っているソファに腰を下ろすとふわりと抱きしめられました。身も心も委ねて寄り添うといつもの香りに包まれます。
「レイ様。そろそろ帰ってもいい頃ではないのでしょうか。怪我も治りましたし、事件も解決したようですから」
犯人が盗賊でそれを指示したシュミット公爵家のメイド。それを扇動したのはビビアン様だと聞きました。真相を聞いた時には戦慄し驚きと共に悲しみで胸が痛みましたが、ビビアン様の憎しみや嫉妬を宿した目つきや態度を見なくてすむのが唯一の救いでしょうか。
邪魔者だと思われていたのは自分でもわかっていましたから。ただ、強硬手段に出るほどの憎悪を抱えていたのかと思うとゾッとしてしばらく寒気がおさまらなかったわ。もしも、誘拐されていたら生きながらに地獄を味わってたかもしれないと思うと本当に無事でよかったと心底思いました。
今、レイ様の腕に抱かれていることは奇跡でとても幸せなこと。
「帰りたいの?」
「え、と。それは……でも、いつまでもお邪魔するわけにはいきませんし」
宮でお世話になる条件は事件が解決するまで、だったはずなのですよね。本音を言えば帰りたくないけれど、いつまでも甘えるわけにもいかないでしょう。
「まだ、判決が出ていないから事件は完全に解決したわけではないよ」
にこりとレイ様が微笑みました。
そういわれればそうかもしれませんが、なんとなく屁理屈に聞こえてしまうのは気のせいかしら?
「それに、ローラを二度と危険な目に会わせたくないんだ。だからずっとここにいて? ね?」
ちょこんと首を傾げてお願いするレイ様はつぶらな瞳で尻尾を振っている子犬のようにかわいく見えて、思わず頷きそうになりました。
「お気持ちは有難いのですが、私達はまだ婚約者同士。結婚しているわけではないので、外聞が悪いのではないでしょうか?」
「外聞か? ローラはそんなものが気になるの?」
「それは、やはり気になります。レイ様の評判に関わるかもしれませんから」
貴族同士なら両家の取り決め次第でどうにでもなるのでしょうけれど。レイ様は王族です。結婚前から婚約者を住まわせてなるとなれば、公私混同していると批判されるかもしれません。そのことでレイ様が悪く思われるのは心苦しいですし。
「俺の心配をしてくれているんだね。王族の裁量もあるのはあるけれど、大抵が議会にかけられるんだよ。俺達の件も議会から承認をもらっているから、ローラは大手を振って王城を歩いていいんだよ。いい機会だから、本宮を案内しようか?」
「えっ?」
承認されているって? えっ?
「うん。婚約が成立した時にね、同居の許可ももらっているんだ。あの事件があった後だから、すんなり通ったみたいだよ」
さらに笑みを深めるレイ様。パクパクと口を動かすだけで言葉が出て来ない私。
「今回の事件は両親も兄上達や義姉上も心を痛めていて、憤慨しているどころではないんだ。そんなこともあって異例の措置が取られたという感じかな。ローラのことをみんな大事に思っているんだよ。その中でも俺が一番思っているけどね」
王族の方々から気にかけて頂いていることを知りうるっとなりましたが、最後のレイ様の言葉にクスッと笑ってしまいました。嬉しくて。
「それって、初めて聞きました」
「初めて言ったからね。判決が出て事件が完全に解決したら言おうと思っていたんだ」
「そうだったのですね」
納得せざるを得ませんが、ということはずっと西の宮で暮らすということですよね。
「ローラのご両親にも了承をもらっているから安心して」
顔に出ていたのかしら? 先に答えられてしまったわ。議会の決定が両親に伝えられないはずはないですものね。結婚後は宮で暮らすことは決定しているので、早いか遅いかの違いだけでそんなに気にすることもないのかもしれない?
「あと、温室の管理とか研究はどうすればいいのでしょう?」
邸に帰るつもりでいたからのんびりと構えていたけれど、帰れないとなるとどうすればいいのかしら?
「そうだよね。しばらくは今みたいに行き来するといいんじゃないかな。ちょっと、面倒かもしれないけれど。それについては、これから具体的に考えて最善の策を考えていこう」
「ありがとうございます」
そうよね。王子妃になっても研究は続けていいとレイ様も言ってくださっていた。
今は学園の帰りに邸に寄って諸々必要な要件を済ませて、宮に帰る生活を続けているので当分の間はそうなるのね。
両親とは研究所の件も相談しなくてはいけないわね。
まだ王子妃や結婚って言葉に出してもあまり実感が湧いてこなかったから、現実的なことが遠かったけれど自覚してしまうとちょっとドキドキしてきたわ。
「ね、ここのソファって何か思い出さない?」
心を高鳴らせているとふいにレイ様の声がしました。
「ソファですか?」
話題が違う方向にいったようで体を起こした私はソファを眺めました。一番日当たりの良い場所。ゆったりと寛げるソファはレイ様のお気に入り。
「俺にとってはとても重大な事かもしれないんだ。何か身に覚えはない?」
きょとんとしている私にもう一度問いかけるレイ様。
身に覚えって……
「あっ!」
あれから何度となく図書室には来ていたのに。
思い出したのはあの日の私。
まさか、レイ様……。
口に手を当て目を見開く私を面白そうに見つめるレイ様の姿に、見る見るうちに顔が赤らんでいきました。
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