婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

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第二部

穏やかな日々Ⅰ

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 天気の良い昼下がり。
 西の宮の一室で侍女達とのんびりとした時間を過ごしています。今日はみんなで刺繍を楽しんでいるところで、テーブルの上には布とたくさんの刺繍糸が所狭しと並んでいました。
 
「皆さん、上手だわ」

 針を刺しながら、エルザ達の手元を見ると見事な刺繍が出来上がっています。私はというとまだ半分も進んでおらず、針さばきがぎこちない。間違えないように丁寧にやっている結果なのですけれど。ほぼ初心者なのがバレバレです。

「フローラ様。その調子です。凄く素敵に出来上がると思いますよ」

 私の手元を覗いたルーシーがまだ形になっていない作品を褒めてくれました。ほめて伸ばす作戦なのかもしれません。そう言った彼女はすでに刺し終わっています。夕日が沈む海を模した見事な刺繍。夕日が映る海。オレンジのグラデーションが綺麗です。

「はあ、疲れたー」

 刺しかけの布をテーブルの上に放ったケイトが首をコキコキと鳴らして壮大な息をついています。

「わたしはじっとしているよりも動いている方が得意なんですよねー」

 見てみると何度も指し直した跡があって苦手な様子が見て取れます。ちょっと、親近感。私だけではなかったわ。エルザも見事な刺繍技を披露してくれて見惚れてしまう出来栄え。しかもそこ数時間でやり終えてしまうのだもの。尊敬してしまうわ。
 未だ、半分にも満たない進み具合に落ち込んでしまうけれど、お仲間がいて少し救われた気分。

「エイ、ヤー」

 テーブルから離れたケイトは体を動かし始めました。手を前に突き出したり足を上げたり武術の型を披露するケイト。彼女は護身術を習っているそうで、なかなかの腕前とか。
 動きが洗練されていて美しい。侍女服の翻るさまが舞のようで見惚れてしまいました。
 私もケイトに護身術を習おうかしら。自分の身を守ることができると護衛騎士の負担も減るわよね。レイ様にお願いしてみようかしら。

「ケイト、今は武術の時間ではありませんよ。大人しく座って続きをおやりなさい」

 エルザの厳しめの注意が飛ぶとケイトはピタッと動きを止めた後、しゅんと肩を落としました。 

「すみません」

 すごすごと歩いてくると自分の席に落ち着いたケイト。

「ケイト、一緒に頑張りましょうね」

「はい。すっごい苦手なんですけど、頑張ってみます」

 ケイトはもう一度布を手に取ると針を取り刺し始めました。

 レイ様の瞳を連想させる紫色の菫の花。ハンカチに刺繍をしてプレゼントしようと思っていますが、もう少しかかりそう。レイ様の喜ぶ姿を想像して、心を込めて一針一針刺していきました。

「ちょっと、休憩に致しましょうか?」

 刺繍に没頭しているとエルザの声がして、皆が頷くとお茶の準備開始です。喜々として素早く席を立ったのはケイト。
 解放されたとばかりに、いつもよりもテキパキと動く彼女の姿に思わず笑みが零れてしまいました。きっと、動いている方が性に合っているのでしょう。

「ローラ」

 侍女達と和やかに過ごしているとレイ様が部屋に入ってきました。

「レイ様。お疲れ様です」

 朝から忙しそうで昼食も別々だったので、久しぶりにレイ様を見たような気がしました。とは言っても朝食は一緒に取ったので数時間ぶりなのですけれど。

「時間が取れたから、今から俺につきあってくれる?」

「はい」

「図書室に行こうか?」

 レイ様のお誘いにエルザ達が微笑ましく見つめています。プロポーズを受けた日から歓迎ムードは続いていて、私達を温かく見守ってくれているような雰囲気があり、有難いと同時にこそばゆさを感じている今日この頃。 

「では、図書室にお茶の準備を致しますね」

「頼む」

 エルザ達はお茶を運ぶ準備を始めました。

「さて、行こうか」

 差し出された手を取ると図書室へと向かいます。

 レイ様の横顔を眺めながら愛する人に巡り合えた幸運に感謝せずにはいられません。時折私に向ける視線が甘くて私の心が蕩けそうになって困ってしまいます。幸せ過ぎて怖いくらい。日に日に積み重なる幸せな時間。
 レイ様と歩きながら幸せを噛みしめていました。
 
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