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第二部
ビビアンside⑳
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「泣いてもどうにもならん。泣きたいのはわしたちの方だ。エマは盗賊達にフローラ嬢を誘拐させ行方不明になれば元々恋仲だったそなたとレイニー殿下が結婚できるだろうと計画したそうだ。それが今回の誘拐未遂事件の真相のようだな。それこそ未遂ですんでよかったが、だからと言って罪が軽くなるわけではない」
「そんな……わたくしの結婚……のために……」
エマがそんなバカげた計画を立てるなんて。わたくしは何も知らなかった。そんな素振り一つなかったわ。相談していてくれたら、止めさせたのに。なんて浅はかなの。
「ああ。そなたの嘘を信じた健気で心優しいメイドがやったことだ。せめて、メイドの私怨であれば解雇ですんだのだがな。主人の狂言が原因で犯行に及んだとなれば、悪質であるとみなされるだろう。わしらとて無傷ではいられないだろう。何らかの処罰が下されるはずだ」
「……わたくしは何もしていないわ。嘘をついたことは悪かったと思っております。けれど、エマに誘拐しろだとか一言も言っていないわ。お父様、信じてくださいませ」
わたくしは両手で顔を覆うと泣き出した。
「言った、言わない。それは問題ではないのだよ。そなたが見栄を張って嘘をつくからだ。疑う余地のないくらい迫真の演技だったのだろうな。それとも、主人可愛さに目が曇っていたのか。エマは今でも信じているんだぞ。そなたとレイニー殿下の事を。お嬢様からレイニー殿下を奪ったフローラ嬢が憎かったと言ってな」
お父様はソファの背に凭れて天井を見つめた。
「あなた」
そっとお父様の手に手を重ねたお母様の目にも涙が光っていた。
次々と糾弾されて頭の中がぐちゃぐちゃで心の整理ができない。どうすればよかったの? 夢を見たかっただけよ。夢を共有するくらい許されると思ったのよ。
「三年後、大臣職を辞してルーカスに爵位も譲り、のんびりと隠居生活を送るつもりだったのだがな。それも出来なくなった。そのつもりで頑張っているルーカスには申し訳ないことをした」
わたくしは大きく目を見開いた。
なぜここにお兄様の名前が出てくるの?
「公爵家にはなんの関係ないとでも思っていたのか? お咎めがないとでも軽く考えていたのか? 未だに自分に非はないと思っているようだからな。先日の黒の騎士団は国王陛下直属で王族専門の警察部隊。滅多に姿を現すことはないから、幻の部隊とも呼ばれていたのだが。まさか、我が邸で目にすることになるとはな」
お父様の口から自嘲気味の笑いが漏れた。
「フローラ嬢の事件は王族案件として調査されているということだ。この状況をみれば我々もなんらかの形で責任をとらされるだろう。それほどの大罪を犯したのだよ。それを自覚しなさい。直接犯罪の指示をしなかったとしても、嘘をメイドに吹聴し憎悪を植え付けて犯行へ導く。誘拐教唆、殺人教唆……。どんな判断が下されるのだろうな」
「そんな……わたくしは……」
両親の侮蔑の視線に晒されてボロボロと涙を流すしかない。
フローラを害しようなどと思ったことはなかったのに。どうしてこんなことになってしまったの。
「これで、ロジアム侯爵家との結婚も吹き飛んでしまった。陛下の声がかりだったのだがな。ユージーン殿下は近いうちに騎士団総帥へ就任する。その際にはトーマス殿は幹部に昇格し叙爵も行うとの話もあったのに。良縁もなくなってしまった」
「そ、そんなこと、知りませんでしたわ」
「これは内々の話だからな。総帥に就任して初めて発表される案件だから、知らなくて当然だ」
両親が爵位を継ぐわけでもない三男の結婚に積極的だった理由がやっと分かった。可能性ではなく、すでに地位が保証されていたからなのね。いまさら、気づいても遅い。
見果てぬ夢。愚かな夢を見たばかりに最悪の結果になってしまった。
せめてエマに殿下と恋仲などと嘘をつかなければよかったのかもしれない。そもそも嘘をつかなければよかった。後悔の念は、あとからあとから湧いてくるけれど、今となっては取り返しがつかない。
「フローラ……様に謝罪をさせてくださいませ」
反省したと謝れば許してもらえるかもしれないわ。幸い未遂で終わっているのだし。彼女は自分のせいで公爵家が没落するのを望んではいないでしょう?
「謝罪をしてどうするというのだ。そうしたところでそなたの罪は消えないし、処罰にも影響しない。一番の謝罪は自分の非を認めて罪を償うことだよ。小手先で物事を考えようとするな」
一刀両断されてぐうの音も出ない。
「ここまで愚かだったとはな。ヨハン」
肩で大きく息をしたお父様はヨハンを呼ぶと、心得たとばかりに部屋を出ていった。
「思ったよりも時間を取ってしまったから、今頃はしびれを切らして待っているかもしれんな。わしは今日から謹慎を申し渡されておる。そなたは公式の場で事件の弁解を思う存分行うといい」
お母様が一気に泣き崩れた。お父様は肩を抱いて慰めている姿に異変を感じていると部屋に人が入ってきた。
「すまない。待たせてしまった」
立ち上がったお父様が頭を下げた。
見覚えのある人物の姿に身が竦み全身が総毛立つ。恐怖でガチガチと噛み合わない奥歯が鳴った。逃げ出したい衝動に駆られるもどこにも隙がない。
なにより両親が許しはしないだろう。わたくしを庇う気配もなくそこにいるのだから。
そして、気づいた時にはわたくしの目の前に、三人の黒の騎士達が立っていた。
「そんな……わたくしの結婚……のために……」
エマがそんなバカげた計画を立てるなんて。わたくしは何も知らなかった。そんな素振り一つなかったわ。相談していてくれたら、止めさせたのに。なんて浅はかなの。
「ああ。そなたの嘘を信じた健気で心優しいメイドがやったことだ。せめて、メイドの私怨であれば解雇ですんだのだがな。主人の狂言が原因で犯行に及んだとなれば、悪質であるとみなされるだろう。わしらとて無傷ではいられないだろう。何らかの処罰が下されるはずだ」
「……わたくしは何もしていないわ。嘘をついたことは悪かったと思っております。けれど、エマに誘拐しろだとか一言も言っていないわ。お父様、信じてくださいませ」
わたくしは両手で顔を覆うと泣き出した。
「言った、言わない。それは問題ではないのだよ。そなたが見栄を張って嘘をつくからだ。疑う余地のないくらい迫真の演技だったのだろうな。それとも、主人可愛さに目が曇っていたのか。エマは今でも信じているんだぞ。そなたとレイニー殿下の事を。お嬢様からレイニー殿下を奪ったフローラ嬢が憎かったと言ってな」
お父様はソファの背に凭れて天井を見つめた。
「あなた」
そっとお父様の手に手を重ねたお母様の目にも涙が光っていた。
次々と糾弾されて頭の中がぐちゃぐちゃで心の整理ができない。どうすればよかったの? 夢を見たかっただけよ。夢を共有するくらい許されると思ったのよ。
「三年後、大臣職を辞してルーカスに爵位も譲り、のんびりと隠居生活を送るつもりだったのだがな。それも出来なくなった。そのつもりで頑張っているルーカスには申し訳ないことをした」
わたくしは大きく目を見開いた。
なぜここにお兄様の名前が出てくるの?
「公爵家にはなんの関係ないとでも思っていたのか? お咎めがないとでも軽く考えていたのか? 未だに自分に非はないと思っているようだからな。先日の黒の騎士団は国王陛下直属で王族専門の警察部隊。滅多に姿を現すことはないから、幻の部隊とも呼ばれていたのだが。まさか、我が邸で目にすることになるとはな」
お父様の口から自嘲気味の笑いが漏れた。
「フローラ嬢の事件は王族案件として調査されているということだ。この状況をみれば我々もなんらかの形で責任をとらされるだろう。それほどの大罪を犯したのだよ。それを自覚しなさい。直接犯罪の指示をしなかったとしても、嘘をメイドに吹聴し憎悪を植え付けて犯行へ導く。誘拐教唆、殺人教唆……。どんな判断が下されるのだろうな」
「そんな……わたくしは……」
両親の侮蔑の視線に晒されてボロボロと涙を流すしかない。
フローラを害しようなどと思ったことはなかったのに。どうしてこんなことになってしまったの。
「これで、ロジアム侯爵家との結婚も吹き飛んでしまった。陛下の声がかりだったのだがな。ユージーン殿下は近いうちに騎士団総帥へ就任する。その際にはトーマス殿は幹部に昇格し叙爵も行うとの話もあったのに。良縁もなくなってしまった」
「そ、そんなこと、知りませんでしたわ」
「これは内々の話だからな。総帥に就任して初めて発表される案件だから、知らなくて当然だ」
両親が爵位を継ぐわけでもない三男の結婚に積極的だった理由がやっと分かった。可能性ではなく、すでに地位が保証されていたからなのね。いまさら、気づいても遅い。
見果てぬ夢。愚かな夢を見たばかりに最悪の結果になってしまった。
せめてエマに殿下と恋仲などと嘘をつかなければよかったのかもしれない。そもそも嘘をつかなければよかった。後悔の念は、あとからあとから湧いてくるけれど、今となっては取り返しがつかない。
「フローラ……様に謝罪をさせてくださいませ」
反省したと謝れば許してもらえるかもしれないわ。幸い未遂で終わっているのだし。彼女は自分のせいで公爵家が没落するのを望んではいないでしょう?
「謝罪をしてどうするというのだ。そうしたところでそなたの罪は消えないし、処罰にも影響しない。一番の謝罪は自分の非を認めて罪を償うことだよ。小手先で物事を考えようとするな」
一刀両断されてぐうの音も出ない。
「ここまで愚かだったとはな。ヨハン」
肩で大きく息をしたお父様はヨハンを呼ぶと、心得たとばかりに部屋を出ていった。
「思ったよりも時間を取ってしまったから、今頃はしびれを切らして待っているかもしれんな。わしは今日から謹慎を申し渡されておる。そなたは公式の場で事件の弁解を思う存分行うといい」
お母様が一気に泣き崩れた。お父様は肩を抱いて慰めている姿に異変を感じていると部屋に人が入ってきた。
「すまない。待たせてしまった」
立ち上がったお父様が頭を下げた。
見覚えのある人物の姿に身が竦み全身が総毛立つ。恐怖でガチガチと噛み合わない奥歯が鳴った。逃げ出したい衝動に駆られるもどこにも隙がない。
なにより両親が許しはしないだろう。わたくしを庇う気配もなくそこにいるのだから。
そして、気づいた時にはわたくしの目の前に、三人の黒の騎士達が立っていた。
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