婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
158 / 195
第二部

ビビアンside⑲

しおりを挟む
「はい」

 背中を丸めて小さく返事を返した。
 気持ちが高揚していたとはいえ、よくこんな嘘がつけたものだと自分でも感心してしまう。少しでも現実から目を逸らしたくて、妄想の世界に入り込んでしまった。

「わしもな、エマの供述を聞き、レイニー殿下から、一つ一つ否定の言葉が出るたびに、顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。我が娘がこれほどまで嘘をついていたことがな。それを何の疑いもなくメイドが信じる構図が空恐ろしくなったよ」

「……」

「ガーデンパーティーや西の宮での件もお相手はフローラ嬢だったと聞いた。結婚の件はようやくフローラ嬢に承諾してもらえたのだと殿下は嬉しそうに話して下さった。それと指輪の件は身に覚えのないことだとね。よくもまあ、恥知らずなことが言えたものだな。ありもしない嘘で塗り固めて、そなたは何もかも自分にすり替えてエマを信じ込ませていたのだな」

「信じ込ませるって、そんなつもりはありませんでしたわ。ただ、夢の世界に浸っていただけで、そうでもしなければわたくしの心が壊れそうだったのです。それに、エマには口外しないように言っておりました」

「だから、自分は悪くないと言い訳をするのか?」

「そういうわけでは……」

 何をどういえば理解してくれるの? 

「夢の世界に浸るか、物は言いようだな。そんなものは自分の勝手だが、他人を巻き込むときに真実を教えなかったのはどうしてなんだ。そなたが嘘だと自分が作り出した世界だと何故教えなかった」

「それは、だって、わたくしとエマの秘密だったからですわ。レイニー殿下の事は諦めていましたし、わたくしの結婚が決まった時点で終わったのです。彼女だってそれをわかっていたはずですわ」

 必死に訴えるけれど、お父様の目は冷たくなってゆくばかり。

「それから、フローラ嬢にいじめられていたそうだな。教科書を破られたり突き飛ばされたり、権力を使って殿下との仲も邪魔されていたとも聞いた。これも初耳だったが、事実であれば由々しき事態。ブルーバーグ侯爵家に事実確認を行い場合によっては抗議と慰謝料も請求するが、いいのだな?」 

 さらに突きつけられる架空の事件。顔面蒼白になった。わたくしのついたいくつかの嘘が巡り巡って己に帰ってくる。こんなはずではなかったわ。結婚が決まるまでの間、ささやかな夢を見ていたかっただけなのに。

「い、いや……」

 左右に首を振るだけで言葉にならない。お父様の容赦のなさと鋭い眼光にじりじりと崖っぷちに追いつめられていく感覚に手の平の脂汗で扇子がぬめっていった。お母様は沈黙を保ったまま、助けてくれない。

「心配しなくてもいい。そんなことはしない。いじめたのはビビアン、そなただとわかっている。証人がいるからな」

「いじめって?」

 それこそ身に覚えがないわ。誰がそんなことを言ったの?

「心当たりはないのか? 随分と酷い言葉でフローラ嬢を詰っていたそうではないか。誹謗中傷を何度も繰り返してフローラ嬢をいじめていたと証言があるのだがな」

「誹謗中傷って、少し言葉は過ぎたかもしれませんけれど、間違ったことは言っていませんし、忠告めいたことは言ったかもしれませんが」

 あれが誹謗中傷って、ちょっとした嫌味くらいではないの? 社交界だって嫌味や当てこすり、悪口なんて日常茶飯事でしょうに、わたくしだけが悪者になるのはおかしいわ。

「睨みつけたり脅したり、聞くに堪えない言葉を投げつける。それはいじめではないのか? 日頃からフローラ嬢を敵視していたそうだな」

「うっ……ううっ……」

 同情のかけらもない冷ややかにたたみかける厳しい言葉にどうすることも出来ずに、涙がこぼれてしまった。お父様はわたくしの味方ではない。

「それにしても、レイニー殿下とフローラ嬢の事はいつから知っていたのだ?」

「……ユージーン殿下の祝賀会で……ぐ、偶然、お見掛けしてしまったのです」

 レイニー殿下からのプロポーズを夢見て追いかけて行ったとは、とてもではないけれど言えない。

「そうか、そういうことか。わしも婚約の話が出るまで知らなかったのでな、不思議に思っていたのだ。やっと腑に落ちた。殿下と恋仲だと知ったそなたはずっとフローラ嬢に嫉妬していたんだな?」

 嫉妬。そうよ、だって、レイニー殿下に愛されるフローラが羨ましくて妬ましくて、彼女に感情をぶつけることで憂さ晴らししていた。
 そのことを思い出すと更に涙が溢れてきた。レイニー殿下に相応しくあろうと努力していた日々が無駄になってしまった口惜しさとともに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...