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第二部
卒業パーティーⅣ
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リリア・チェント男爵令嬢⁈
「かわいい。こんなところに子供が。ねえ、ねえ。僕の名前はなんていうの?」
いきなり、リッキー様の前にしゃがみこんで話しかける男爵令嬢に唖然としました。
私のドレスをギュッと掴んだリッキー様は少し怯えた表情に見えました。
「申し訳ありませんが、こちらは王太子殿下の御子様でいらっしゃいます。軽々しく話しかけるのはいかがなものかと思います」
「へえ。小さくても王子様なんだ。かわいい。別にいいじゃないの。子供なんだし。それにあたしって子供好きされるのよ。近所では大人気だったんだから」
いえ、そういうことではなく。
「ねっ。お姉ちゃんと遊ぼ」
「やだ」
怯えた顔はそのままにリッキー様が拒絶しました。貴族の令嬢とはいえ、見ず知らずの人に声をかけられて従うわけはありません。
「もしかして、照れてるのかな? たまにいるのよね。ホントは遊びたいけど、恥ずかしがってもじもじしている子」
勝手に解釈して悦に入っている彼女。お相手は王族。気軽に話しかけてよい存在ではないのに。常識は通じないのかしら。
「ローラおねえちゃん」
助けを求めるように私の顔を見上げるリッキー様。それに素早く反応した男爵令嬢。
「ローラお姉ちゃん? フローラさんのこと? じゃあ、あたしはリリアお姉ちゃんって呼んでね。ねっ、お腹すかない? お料理取ってあげるから、一緒に行こうよ」
「チェント男爵令嬢。いい加減にお止めください」
「もう、男爵令嬢ってなんなのよ。他人行儀な呼び方は背中がムズムズするわ。リリアでいいわよ」
リリア様はイラついた顔で私を見た後、リッキー様には笑顔を向けていました。一瞬の表情の変化。変わり身が早い。
「あっ、そういえば。僕の名前はなんていうの? 教えて」
「……」
「あたしはリリアよ。教えてくれるかな?」
「……」
「ちょっとくらい、教えてくれてもいいでしょ」
「……」
リッキー様は私のドレスの陰に隠れてしまいました。
「フローラさん、邪魔しないで。というか、ちゃんとフォローしてよ」
気が利かないみたいな目で見られても困ってしまいます。明らかにリッキー様は嫌がっていますから、フォローのしようもありませんし、したくありません。
リッキー様にその気がないのはわかるはず。穏便に済ませるためにも諦めてこのくらいで手を引いてほしいのですが……
「リリア様、リチャード殿下は王族です。敬意をもって接してください」
「リチャードっていうの。リチャード君、リリアお姉ちゃんと遊ぼう」
聞いてほしいのはそこではなく。
リリア様はすくっと立ち上がるとリッキー様に近づいてきました。私は咄嗟に庇おうとしまいましたが、一歩遅く間に合わず、リリア様にリッキー様の手首をむんずと掴まれてしまいました。
「さっ、行こうね」
引きずり出すようにして手を引かれるリッキー様。
「イヤだ」
「リリア様、いい加減にしてください」
連れていかれまいと踏ん張って嫌がっている様子に我慢ができずに声を荒げてしまいました。
「なによ。ちょこっと遊ぶだけじゃないの。すぐにフローラさんの所に連れてくるわよ。だから、安心して」
「そういうことではありません」
勝手に連れ去ろうとするリリア様を阻止しようとリッキー様を抱きしめました。話が通じないので体で止めるしかありません。見下ろす私と見上げるリリア様。バチッとにらみ合う私達。
「どうしたの?」
そんなさなか、不思議そうに問うレイ様の声が降ってきました。
飲み物の入ったグラスを両手に持って佇んでいるレイ様の姿に安堵の息が漏れました。
リッキー様の手首をつかんでいるリリア様とリッキー様を抱きしめている私。異様とも思える光景。
事情を説明しようと口を開きかけた時
「きゃあ。かっこいい。王子様。本物の王子様だわ」
リリア様が黄色い声をあげました。何故だか瞳がハート形になっています。
「ちょうどいいわ。レイニー殿下でしたよね? あたしとリチャード君と一緒に食事しませんか? ねっ、それならいいでしょう? フローラさん」
素早く立ち上がったリリア様は名案とばかりに手をポンと叩きました。
訳の分からないレイ様は面を食らったような顔で私とリリア様とリッキー様を交互に眺めて
「どちらのご令嬢だろうか」
両手に持っていたグラスを給仕に預けて困惑気味に尋ねました。
「あたし、リリアって言います。これからも仲良くしてくださいね」
ニコッと笑みを作るとぺこりと頭を下げて挨拶をするリリア様。
貴族のマナーがすっかり抜け落ちてしまっています。非常識な挨拶にレイ様は無表情で固まっていました。ここには貴族しかいないはずなのに。家名も名乗らず砕けた言葉遣い。レイ様も返事に困りますよね。
「ということで、レイニー殿下も一緒に行きましょう」
リリア様はレイ様の反応など気に留めずグイグイと攻めてきます。どこまで図々しいのでしょう。
そして、リッキー様の手を引くと強引に連れ出そうとしました。
「ちょっと、お待ちください」
「これ以上はお止めください」
同時に別々に発せられた声。
リリア様とリッキー様の身体の間に自身の身体を滑り込ませたのはエイブでした。ここがギリギリ限界だったのでしょう。話の通じない彼女に辟易して対処に苦慮しているところだったので助かりました。
「誰?」
「リチャード殿下の侍従をしている者です。これ以上無礼な行為をなさるのでしたら狼藉と見做しますので、大事にならないうちに今すぐ手をお引きください」
至近距離に姿を現したエイブは毅然とした態度でリリア様を見据えています。
「狼藉って、ただリチャード君の遊び相手になってあげようとしただけなのに……」
口元を両手で覆いウルウルとした瞳でエイブに訴えるリリア様ですが、エイブの眼鏡の奥の目が厳しくなっていきました。先ほどから事の経緯を見ていたはずですから、媚びても効き目はないと思いますが。
遊び相手って、軽々しく考えすぎです。よりにもよって王族を選ぶなんて。
「どうしたのだ?」
二人が対峙しているそこに割って入った冷厳とした声。声のした方に視線を移すと王太子殿下と王太子妃殿下であるアンジェラ様が立っていました。
「ちちうえー」
両殿下の御姿を認めた途端、一直線に駆けだしたリッキー様。
飛び込んできた我が子を抱き上げる王太子殿下。
父親の懐に抱かれて安心したのか緊張の糸が切れたのか、グスグスと泣き出したリッキー様の背中を宥めるようにアンジェラ様が優しく撫でていました。
「かわいい。こんなところに子供が。ねえ、ねえ。僕の名前はなんていうの?」
いきなり、リッキー様の前にしゃがみこんで話しかける男爵令嬢に唖然としました。
私のドレスをギュッと掴んだリッキー様は少し怯えた表情に見えました。
「申し訳ありませんが、こちらは王太子殿下の御子様でいらっしゃいます。軽々しく話しかけるのはいかがなものかと思います」
「へえ。小さくても王子様なんだ。かわいい。別にいいじゃないの。子供なんだし。それにあたしって子供好きされるのよ。近所では大人気だったんだから」
いえ、そういうことではなく。
「ねっ。お姉ちゃんと遊ぼ」
「やだ」
怯えた顔はそのままにリッキー様が拒絶しました。貴族の令嬢とはいえ、見ず知らずの人に声をかけられて従うわけはありません。
「もしかして、照れてるのかな? たまにいるのよね。ホントは遊びたいけど、恥ずかしがってもじもじしている子」
勝手に解釈して悦に入っている彼女。お相手は王族。気軽に話しかけてよい存在ではないのに。常識は通じないのかしら。
「ローラおねえちゃん」
助けを求めるように私の顔を見上げるリッキー様。それに素早く反応した男爵令嬢。
「ローラお姉ちゃん? フローラさんのこと? じゃあ、あたしはリリアお姉ちゃんって呼んでね。ねっ、お腹すかない? お料理取ってあげるから、一緒に行こうよ」
「チェント男爵令嬢。いい加減にお止めください」
「もう、男爵令嬢ってなんなのよ。他人行儀な呼び方は背中がムズムズするわ。リリアでいいわよ」
リリア様はイラついた顔で私を見た後、リッキー様には笑顔を向けていました。一瞬の表情の変化。変わり身が早い。
「あっ、そういえば。僕の名前はなんていうの? 教えて」
「……」
「あたしはリリアよ。教えてくれるかな?」
「……」
「ちょっとくらい、教えてくれてもいいでしょ」
「……」
リッキー様は私のドレスの陰に隠れてしまいました。
「フローラさん、邪魔しないで。というか、ちゃんとフォローしてよ」
気が利かないみたいな目で見られても困ってしまいます。明らかにリッキー様は嫌がっていますから、フォローのしようもありませんし、したくありません。
リッキー様にその気がないのはわかるはず。穏便に済ませるためにも諦めてこのくらいで手を引いてほしいのですが……
「リリア様、リチャード殿下は王族です。敬意をもって接してください」
「リチャードっていうの。リチャード君、リリアお姉ちゃんと遊ぼう」
聞いてほしいのはそこではなく。
リリア様はすくっと立ち上がるとリッキー様に近づいてきました。私は咄嗟に庇おうとしまいましたが、一歩遅く間に合わず、リリア様にリッキー様の手首をむんずと掴まれてしまいました。
「さっ、行こうね」
引きずり出すようにして手を引かれるリッキー様。
「イヤだ」
「リリア様、いい加減にしてください」
連れていかれまいと踏ん張って嫌がっている様子に我慢ができずに声を荒げてしまいました。
「なによ。ちょこっと遊ぶだけじゃないの。すぐにフローラさんの所に連れてくるわよ。だから、安心して」
「そういうことではありません」
勝手に連れ去ろうとするリリア様を阻止しようとリッキー様を抱きしめました。話が通じないので体で止めるしかありません。見下ろす私と見上げるリリア様。バチッとにらみ合う私達。
「どうしたの?」
そんなさなか、不思議そうに問うレイ様の声が降ってきました。
飲み物の入ったグラスを両手に持って佇んでいるレイ様の姿に安堵の息が漏れました。
リッキー様の手首をつかんでいるリリア様とリッキー様を抱きしめている私。異様とも思える光景。
事情を説明しようと口を開きかけた時
「きゃあ。かっこいい。王子様。本物の王子様だわ」
リリア様が黄色い声をあげました。何故だか瞳がハート形になっています。
「ちょうどいいわ。レイニー殿下でしたよね? あたしとリチャード君と一緒に食事しませんか? ねっ、それならいいでしょう? フローラさん」
素早く立ち上がったリリア様は名案とばかりに手をポンと叩きました。
訳の分からないレイ様は面を食らったような顔で私とリリア様とリッキー様を交互に眺めて
「どちらのご令嬢だろうか」
両手に持っていたグラスを給仕に預けて困惑気味に尋ねました。
「あたし、リリアって言います。これからも仲良くしてくださいね」
ニコッと笑みを作るとぺこりと頭を下げて挨拶をするリリア様。
貴族のマナーがすっかり抜け落ちてしまっています。非常識な挨拶にレイ様は無表情で固まっていました。ここには貴族しかいないはずなのに。家名も名乗らず砕けた言葉遣い。レイ様も返事に困りますよね。
「ということで、レイニー殿下も一緒に行きましょう」
リリア様はレイ様の反応など気に留めずグイグイと攻めてきます。どこまで図々しいのでしょう。
そして、リッキー様の手を引くと強引に連れ出そうとしました。
「ちょっと、お待ちください」
「これ以上はお止めください」
同時に別々に発せられた声。
リリア様とリッキー様の身体の間に自身の身体を滑り込ませたのはエイブでした。ここがギリギリ限界だったのでしょう。話の通じない彼女に辟易して対処に苦慮しているところだったので助かりました。
「誰?」
「リチャード殿下の侍従をしている者です。これ以上無礼な行為をなさるのでしたら狼藉と見做しますので、大事にならないうちに今すぐ手をお引きください」
至近距離に姿を現したエイブは毅然とした態度でリリア様を見据えています。
「狼藉って、ただリチャード君の遊び相手になってあげようとしただけなのに……」
口元を両手で覆いウルウルとした瞳でエイブに訴えるリリア様ですが、エイブの眼鏡の奥の目が厳しくなっていきました。先ほどから事の経緯を見ていたはずですから、媚びても効き目はないと思いますが。
遊び相手って、軽々しく考えすぎです。よりにもよって王族を選ぶなんて。
「どうしたのだ?」
二人が対峙しているそこに割って入った冷厳とした声。声のした方に視線を移すと王太子殿下と王太子妃殿下であるアンジェラ様が立っていました。
「ちちうえー」
両殿下の御姿を認めた途端、一直線に駆けだしたリッキー様。
飛び込んできた我が子を抱き上げる王太子殿下。
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