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第二部
卒業パーティーⅤ
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「何があったのだ?」
泣いているリッキー様を心配そうに見つめた王太子殿下の問いかけに、ディアナがススッと人垣から出て両殿下のそばに寄るとなにやら話し始めました。事情を説明してくれているようです。
ディアナ、いつからいたのかしら? 気づかなかったわ。
なるべく穏便にと思っていたのですが、いつの間にか人々の関心を引いていたようで、こそこそとした話し声も聞こえてきて、すっかり注目の的になっています。
こちらの事態に気づかずダンスを踊っているカップルもいるので音楽も続いています。
楽団の奏でる演奏がBGMになって、さながら演劇のワンシーンのようにも思えます。いっその事、本物の演劇の舞台であればよかったのに。
リリア様は面白くなさそうな顔をして膨れています。たぶん自分に非があるとは思ってもいないのでしょう。私が上手くこの場を諫めることができれば、王太子両殿下に迷惑をかけることもなかった。自分の至らなさが情けなくなってきました。
「そうか……」
事情を理解した王太子殿下とアンジェラ様はお互いに顔を見合わせて頷いていました。
リッキー様はまだぐずっておられるようで泣き止む様子はなく、よほどショックな出来事だったのかもしれません。
アンジェラ様が瞳に溜まった涙をハンカチに吸わせながら慰めていらっしゃるところに
「申し訳ございません」
血相を変えて慌てて飛び込んできた二人の姿。事態を把握したらしいチェント男爵と令息でした。二人は両殿下の前に出て頭を下げていました。
「そなたたちは?」
「申し訳ございません。私はチェント男爵。隣は長男のジェフリーでございます。この度は義娘のリリアがリチャード殿下に無礼な行為を働いてしまったことお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
チェント男爵親子は身を折り曲げて謝罪をしました。そのあとリリア様を呼びました。何が起きているのかとポカンとしていたリリア様でしたが、仕方なく男爵達の隣に並びました。
「リリア、謝罪を」
男爵から促されたリリア様は渋々ではありましたが
「子供の遊び相手をしたかっただけなんですけど、ごめんなさい」
一応、悪かったとは思っているようで謝罪をしたのはよかったのですが、不敬にもほどがありました。
先ほどよりもざわざわとした周りの声。呆れている顔や侮蔑の顔を向ける人達もいます。
「リリア」
ギョッとなった男爵の叱責の声が聞こえましたがリリア様には届いていないようです。
「よい」
王太子殿下の声が冷然とした声が低く響きました。
「重ね重ねの非礼、誠に申し訳ございません。このようなことが起きましたことは我々の落ち度でございます。お詫びのしようもございません」
「よいと言っている。これ以上の詫びは結構だ。リチャードは人見知りする性格であるから、初対面の者に声をかけられて驚いたのだろう。さて、そろそろ時間だな」
頭を下げ続ける男爵親子と王太子一家をキラキラとした瞳で見つめるリリア様。
身を翻して去って行く姿を皆が見送っていました。やがて、王太子殿下が扉の前に立つと演奏がぴたりとやみました。そして殿下の一声が会場中に響き渡りました。
「騒がせてしまったようですまなかった。せめてもの詫びにとっておきのワインとスイーツを届けさせよう。本日は学園の卒業パーティーだ。卒業生を祝い、大いに楽しんでくれ」
王太子殿下の心遣いに会場が湧き歓声で満たされました。退出されたあとは今まで通りの会場の空気に戻りましたが、そんな中でもヒソヒソとした冷ややかなささやきが漏れ聞こえてきます。先程の出来事がお酒の肴になるのかもしれません。
「ローラ。大丈夫?」
「はい。私は。ただ上手く立ち回れなかったのが残念で、申し訳なくて」
案じるような表情でドリンクを差し出したレイ様からグラスを受け取りました。
「それを言うのは俺もだよ。何もできなかったし、助けにもならなかった。ごめんね」
「そんな……レイ様は事情を知らなかったのですもの。謝らないでください」
「そうよ。常識のない人には何を言っても理解してもらえなかったと思うわよ」
私達の会話に口を挟んできたのはディアナでした。
「全然話を聞いていないし、聞く気もないし。リチャードの事なんて考えずお構いなしだったわね。市井の子供に接しているような態度だったもの。見ていてかわいそうになったわ」
「リリア様を諫めることができなかったのは私の責任だわ。リッキー様の力になれなくて。結果、悲しませてしまった」
王太子殿下に抱かれて泣いていたリッキー様の姿に胸が痛みました。
もっと身を挺して防いでいたら、毅然と立ち向かっていたら。その場から離れるのも手だったかもしれないわ。それとももっと早くエイブに声をかけていたら。
次から次へと後悔が押し寄せてきます。
「ローラ、そんなに気に病むことはないよ。あれは事故だったんだよ」
レイ様が慰めて下さいました。
「予測不能な事故物件。要注意人物。危険人物だわ。恐ろしい」
ディアナが少々物騒なワードを投げかけます。
事故。どうしようもなく避けようの出来なかった事故。そのように思っても後悔の念は消えないけれど、自分にできることはしなければならないわ。
明日、リッキー様に会えないかしら。今日のお詫びをしなくては。せめてものお詫びの印に好きなお菓子を作って持っていきましょう。それから、王太子殿下とアンジェラ様にもお詫びをしなくてはいけないわ。
謁見が叶うようにレイ様にお願いをしてみましょう。
明日からするべきことの段取りを考えながらドリンクに口をつけました。冷たい果実水が喉を潤してくれて気持ちが落ち着いてきました。
「それよりも酷かったわね。貴族としてのマナーを身に着けていないなんて。チェント男爵家もだけれど、テンネル侯爵家も頭が割れるほど痛いでしょうね」
辺りを見回すもチェント男爵達の姿はありませんでした。帰ったのか、会場にいるのかは分かりませんが。それにテンネル侯爵家はどうだったのでしょう? 姿は探せませんでしたが、今回の騒ぎに気づいたかしら。広い会場の片隅での出来事。楽曲もずっと聞こえていたから知らない人もいるかもしれない。
けれども、すぐに社交界に伝わるでしょうね。
チェント男爵家とテンネル侯爵家のこれからを考えるとディアナの意見に同意をせざるを得ないわ。
大きな問題にならないといいのだけれど。
泣いているリッキー様を心配そうに見つめた王太子殿下の問いかけに、ディアナがススッと人垣から出て両殿下のそばに寄るとなにやら話し始めました。事情を説明してくれているようです。
ディアナ、いつからいたのかしら? 気づかなかったわ。
なるべく穏便にと思っていたのですが、いつの間にか人々の関心を引いていたようで、こそこそとした話し声も聞こえてきて、すっかり注目の的になっています。
こちらの事態に気づかずダンスを踊っているカップルもいるので音楽も続いています。
楽団の奏でる演奏がBGMになって、さながら演劇のワンシーンのようにも思えます。いっその事、本物の演劇の舞台であればよかったのに。
リリア様は面白くなさそうな顔をして膨れています。たぶん自分に非があるとは思ってもいないのでしょう。私が上手くこの場を諫めることができれば、王太子両殿下に迷惑をかけることもなかった。自分の至らなさが情けなくなってきました。
「そうか……」
事情を理解した王太子殿下とアンジェラ様はお互いに顔を見合わせて頷いていました。
リッキー様はまだぐずっておられるようで泣き止む様子はなく、よほどショックな出来事だったのかもしれません。
アンジェラ様が瞳に溜まった涙をハンカチに吸わせながら慰めていらっしゃるところに
「申し訳ございません」
血相を変えて慌てて飛び込んできた二人の姿。事態を把握したらしいチェント男爵と令息でした。二人は両殿下の前に出て頭を下げていました。
「そなたたちは?」
「申し訳ございません。私はチェント男爵。隣は長男のジェフリーでございます。この度は義娘のリリアがリチャード殿下に無礼な行為を働いてしまったことお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
チェント男爵親子は身を折り曲げて謝罪をしました。そのあとリリア様を呼びました。何が起きているのかとポカンとしていたリリア様でしたが、仕方なく男爵達の隣に並びました。
「リリア、謝罪を」
男爵から促されたリリア様は渋々ではありましたが
「子供の遊び相手をしたかっただけなんですけど、ごめんなさい」
一応、悪かったとは思っているようで謝罪をしたのはよかったのですが、不敬にもほどがありました。
先ほどよりもざわざわとした周りの声。呆れている顔や侮蔑の顔を向ける人達もいます。
「リリア」
ギョッとなった男爵の叱責の声が聞こえましたがリリア様には届いていないようです。
「よい」
王太子殿下の声が冷然とした声が低く響きました。
「重ね重ねの非礼、誠に申し訳ございません。このようなことが起きましたことは我々の落ち度でございます。お詫びのしようもございません」
「よいと言っている。これ以上の詫びは結構だ。リチャードは人見知りする性格であるから、初対面の者に声をかけられて驚いたのだろう。さて、そろそろ時間だな」
頭を下げ続ける男爵親子と王太子一家をキラキラとした瞳で見つめるリリア様。
身を翻して去って行く姿を皆が見送っていました。やがて、王太子殿下が扉の前に立つと演奏がぴたりとやみました。そして殿下の一声が会場中に響き渡りました。
「騒がせてしまったようですまなかった。せめてもの詫びにとっておきのワインとスイーツを届けさせよう。本日は学園の卒業パーティーだ。卒業生を祝い、大いに楽しんでくれ」
王太子殿下の心遣いに会場が湧き歓声で満たされました。退出されたあとは今まで通りの会場の空気に戻りましたが、そんな中でもヒソヒソとした冷ややかなささやきが漏れ聞こえてきます。先程の出来事がお酒の肴になるのかもしれません。
「ローラ。大丈夫?」
「はい。私は。ただ上手く立ち回れなかったのが残念で、申し訳なくて」
案じるような表情でドリンクを差し出したレイ様からグラスを受け取りました。
「それを言うのは俺もだよ。何もできなかったし、助けにもならなかった。ごめんね」
「そんな……レイ様は事情を知らなかったのですもの。謝らないでください」
「そうよ。常識のない人には何を言っても理解してもらえなかったと思うわよ」
私達の会話に口を挟んできたのはディアナでした。
「全然話を聞いていないし、聞く気もないし。リチャードの事なんて考えずお構いなしだったわね。市井の子供に接しているような態度だったもの。見ていてかわいそうになったわ」
「リリア様を諫めることができなかったのは私の責任だわ。リッキー様の力になれなくて。結果、悲しませてしまった」
王太子殿下に抱かれて泣いていたリッキー様の姿に胸が痛みました。
もっと身を挺して防いでいたら、毅然と立ち向かっていたら。その場から離れるのも手だったかもしれないわ。それとももっと早くエイブに声をかけていたら。
次から次へと後悔が押し寄せてきます。
「ローラ、そんなに気に病むことはないよ。あれは事故だったんだよ」
レイ様が慰めて下さいました。
「予測不能な事故物件。要注意人物。危険人物だわ。恐ろしい」
ディアナが少々物騒なワードを投げかけます。
事故。どうしようもなく避けようの出来なかった事故。そのように思っても後悔の念は消えないけれど、自分にできることはしなければならないわ。
明日、リッキー様に会えないかしら。今日のお詫びをしなくては。せめてものお詫びの印に好きなお菓子を作って持っていきましょう。それから、王太子殿下とアンジェラ様にもお詫びをしなくてはいけないわ。
謁見が叶うようにレイ様にお願いをしてみましょう。
明日からするべきことの段取りを考えながらドリンクに口をつけました。冷たい果実水が喉を潤してくれて気持ちが落ち着いてきました。
「それよりも酷かったわね。貴族としてのマナーを身に着けていないなんて。チェント男爵家もだけれど、テンネル侯爵家も頭が割れるほど痛いでしょうね」
辺りを見回すもチェント男爵達の姿はありませんでした。帰ったのか、会場にいるのかは分かりませんが。それにテンネル侯爵家はどうだったのでしょう? 姿は探せませんでしたが、今回の騒ぎに気づいたかしら。広い会場の片隅での出来事。楽曲もずっと聞こえていたから知らない人もいるかもしれない。
けれども、すぐに社交界に伝わるでしょうね。
チェント男爵家とテンネル侯爵家のこれからを考えるとディアナの意見に同意をせざるを得ないわ。
大きな問題にならないといいのだけれど。
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