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第二部
リリアside⑩
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「卒業パーティーでの騒ぎの件だ。お前の愚行で事業にも影響が出ている。婚約解消の件ではさほど影響は出なかったのだがな。今回はそういうわけにはいかなかったようだ」
「どういうこと?」
なんなの? 何が起きているの? あたしの頭の中はパニック状態だ。
「どこの世界に王族にぞんざいな扱いをする貴族がいるというのか。しかも、何の面識もない末端の男爵令嬢が馴れ馴れしく殿下に話しかけるなど。それだけでなく、嫌がる殿下を無理やりに引きずり出そうとするとは。貴族の風上にもおけぬ所業だと思うがな」
「そ、それは……照れて、恥ずかしがっていると、思ったからで」
「初対面のどんな人物かもわからない人間について行く者などいないだろう? 声をかけられれば知らない人間について行ってもよいと両親に教えられたのか?」
「いえ。ついて行くなと言われてました」
「それが当たり前のことだ」
「あっ、でも。レイニー殿下と一緒に行くつもりだったから、大丈夫では?」
「そういうことではない」
押し問答を続けるあたしとお義父様。噛み合うようで噛み合わない。お義父様の声がだんだんと冷たくなっていき表情もなくなっていった。
北風のような寒々としたとした空気が流れていく。
「これは決定事項だ。もう一度言う。エドガー殿との婚約は白紙。リリアは修道院に行き人間として一から学び直すことだ。これは絶対に覆らない。許可が下り次第出発してもらう。いつでも旅立てるように準備しておきなさい。いいね」
決定事項? ウソ。修道院って、ウソ。あそこは罪を犯した令嬢が最後に行きつく場所だと誰かが言っていた。なんでそんなところにあたしがいかなければいけないのよ。
あたしはなにも悪いことしてない。
「イヤ。なんでよ。あたしはエドガーと結婚するの。約束したのに。お義父様、お願い。それだけはイヤよ。あたしはエドガーと一緒になるんだから」
エドガーと離れ離れになるじゃない。あまりのショックに涙がボロボロと零れてくる。
「だったら、努力をすればよかったのだ」
「した、したわ。あたしだって頑張ってた」
あたしなりに一生懸命頑張ってた。まだまだ足りないのはわかってた。でも、少しずつでいいから覚えていきましょうって先生が言ってくれたから、その通りに頑張ってた。
「で、その努力の結果が王族への不敬と無礼な態度だったというわけか?」
「ち、違う。ちょっと、舞い上がっていて、だから……」
今思えば礼に欠けていたとは思うけど、テンパったあたしにはあれが精一杯だった。だって、何一つ思い出せなかったんだもん。しょうがないと思う。
「だから、反省したとでもいうのか」
あたしは涙を流しながらこくこくと大きく首を縦に振った。
「はい。深く深く反省してもっと努力しますから、許してください。お願いします。お義父様」
必死だった。
なんとか婚約の継続と修道院行きを止めさせなければ、あたしはエドガーと結婚できない。それはイヤ。それだけはイヤ。
あたしはなりふり構わず、滂沱の涙を流しながら懇願した。
「言っただろう。これは決定事項で覆らないと。反省し努力することは大いに結構なことだ。存分にやりなさい。修道院の中でな。三年ほど真面目に励めば生きていくための最低限のものは身に着くだろう。選んだところは職業訓練も担っている。そこで、手に職をつけて市井で暮らしていける仕事を探すことだ」
「お義父様……どういう意味? 手に職? 市井って……」
「そのままの意味だよ。リリア、お前を貴族籍から外すことにした。平民として生きていく方が幸せだと思ってな。貴族の世界は窮屈だろう? 身分制度に囚われるし社交だって色々と駆け引きもある難しい世界だ。マナーにも厳しい。教養も試される。力がなければ簡単に蹴落とされるところだ。そんな世界にリリアは相応しくないだろうし、生きていけないだろう。それよりも広くて自由な世界で生きていく方がリリアのためだ」
貴族籍から外す? 平民?
次から次へと衝撃的な言葉が襲ってきて、頭が真っ白どころか真っ黒になった。
「エドガーは?」
「彼は侯爵家の嫡男だ。住む世界が違う。次期当主のエドガー殿と平民のリリアでは身分が違いすぎる。これから先、交わることはないだろう。貴族の間でも、侯爵家と男爵家では身分が違うんだ。本来なら、結ばれるはずのない婚約だったんだよ」
お義父様のあたしを諭す様な冷静でいて柔らかな声なんて耳を通り過ぎていくだけだった。住む世界が違うだなんていわれても納得できるわけがない。奈落の底に突き落とされたような衝撃を受けた。
「あたしはエドガーと結婚するの。エドガーしかいないのに。エドガーにもあたししかいないの。どうして、どうして。イヤ。イヤだ。修道院なんて行きたくない。エドガーのそばにいる。エドガーの所に行くー」
取り乱したあたしは机に突っ伏してイヤイヤをして何度も頭を左右に振った。
「マギー、サント。すまないがリリアを部屋へ連れていってくれるか」
「それとマギー、リリアの荷物の準備を頼む」
「承知いたしました」
泣きじゃくっている間、勝手に話が進んでいく。
もう、何を言っても遅いのだ。あたしは修道院へ送られる。エドガーとは永遠に会えない。それはイヤよ。イヤ。
最後の最後まで粘って考え直してくれるようにとお父様にお義兄様に縋りつくようにお願いした。
けれど、どんなに懇願しても願っても祈っても決定したことが覆ることはなく。
一週間後、あたしは修道院へ送られたのだった。
「どういうこと?」
なんなの? 何が起きているの? あたしの頭の中はパニック状態だ。
「どこの世界に王族にぞんざいな扱いをする貴族がいるというのか。しかも、何の面識もない末端の男爵令嬢が馴れ馴れしく殿下に話しかけるなど。それだけでなく、嫌がる殿下を無理やりに引きずり出そうとするとは。貴族の風上にもおけぬ所業だと思うがな」
「そ、それは……照れて、恥ずかしがっていると、思ったからで」
「初対面のどんな人物かもわからない人間について行く者などいないだろう? 声をかけられれば知らない人間について行ってもよいと両親に教えられたのか?」
「いえ。ついて行くなと言われてました」
「それが当たり前のことだ」
「あっ、でも。レイニー殿下と一緒に行くつもりだったから、大丈夫では?」
「そういうことではない」
押し問答を続けるあたしとお義父様。噛み合うようで噛み合わない。お義父様の声がだんだんと冷たくなっていき表情もなくなっていった。
北風のような寒々としたとした空気が流れていく。
「これは決定事項だ。もう一度言う。エドガー殿との婚約は白紙。リリアは修道院に行き人間として一から学び直すことだ。これは絶対に覆らない。許可が下り次第出発してもらう。いつでも旅立てるように準備しておきなさい。いいね」
決定事項? ウソ。修道院って、ウソ。あそこは罪を犯した令嬢が最後に行きつく場所だと誰かが言っていた。なんでそんなところにあたしがいかなければいけないのよ。
あたしはなにも悪いことしてない。
「イヤ。なんでよ。あたしはエドガーと結婚するの。約束したのに。お義父様、お願い。それだけはイヤよ。あたしはエドガーと一緒になるんだから」
エドガーと離れ離れになるじゃない。あまりのショックに涙がボロボロと零れてくる。
「だったら、努力をすればよかったのだ」
「した、したわ。あたしだって頑張ってた」
あたしなりに一生懸命頑張ってた。まだまだ足りないのはわかってた。でも、少しずつでいいから覚えていきましょうって先生が言ってくれたから、その通りに頑張ってた。
「で、その努力の結果が王族への不敬と無礼な態度だったというわけか?」
「ち、違う。ちょっと、舞い上がっていて、だから……」
今思えば礼に欠けていたとは思うけど、テンパったあたしにはあれが精一杯だった。だって、何一つ思い出せなかったんだもん。しょうがないと思う。
「だから、反省したとでもいうのか」
あたしは涙を流しながらこくこくと大きく首を縦に振った。
「はい。深く深く反省してもっと努力しますから、許してください。お願いします。お義父様」
必死だった。
なんとか婚約の継続と修道院行きを止めさせなければ、あたしはエドガーと結婚できない。それはイヤ。それだけはイヤ。
あたしはなりふり構わず、滂沱の涙を流しながら懇願した。
「言っただろう。これは決定事項で覆らないと。反省し努力することは大いに結構なことだ。存分にやりなさい。修道院の中でな。三年ほど真面目に励めば生きていくための最低限のものは身に着くだろう。選んだところは職業訓練も担っている。そこで、手に職をつけて市井で暮らしていける仕事を探すことだ」
「お義父様……どういう意味? 手に職? 市井って……」
「そのままの意味だよ。リリア、お前を貴族籍から外すことにした。平民として生きていく方が幸せだと思ってな。貴族の世界は窮屈だろう? 身分制度に囚われるし社交だって色々と駆け引きもある難しい世界だ。マナーにも厳しい。教養も試される。力がなければ簡単に蹴落とされるところだ。そんな世界にリリアは相応しくないだろうし、生きていけないだろう。それよりも広くて自由な世界で生きていく方がリリアのためだ」
貴族籍から外す? 平民?
次から次へと衝撃的な言葉が襲ってきて、頭が真っ白どころか真っ黒になった。
「エドガーは?」
「彼は侯爵家の嫡男だ。住む世界が違う。次期当主のエドガー殿と平民のリリアでは身分が違いすぎる。これから先、交わることはないだろう。貴族の間でも、侯爵家と男爵家では身分が違うんだ。本来なら、結ばれるはずのない婚約だったんだよ」
お義父様のあたしを諭す様な冷静でいて柔らかな声なんて耳を通り過ぎていくだけだった。住む世界が違うだなんていわれても納得できるわけがない。奈落の底に突き落とされたような衝撃を受けた。
「あたしはエドガーと結婚するの。エドガーしかいないのに。エドガーにもあたししかいないの。どうして、どうして。イヤ。イヤだ。修道院なんて行きたくない。エドガーのそばにいる。エドガーの所に行くー」
取り乱したあたしは机に突っ伏してイヤイヤをして何度も頭を左右に振った。
「マギー、サント。すまないがリリアを部屋へ連れていってくれるか」
「それとマギー、リリアの荷物の準備を頼む」
「承知いたしました」
泣きじゃくっている間、勝手に話が進んでいく。
もう、何を言っても遅いのだ。あたしは修道院へ送られる。エドガーとは永遠に会えない。それはイヤよ。イヤ。
最後の最後まで粘って考え直してくれるようにとお父様にお義兄様に縋りつくようにお願いした。
けれど、どんなに懇願しても願っても祈っても決定したことが覆ることはなく。
一週間後、あたしは修道院へ送られたのだった。
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