歌舞伎役者に恋をしました。

野咲

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第7章

再開

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 葦嶋会長は初日に楽屋見舞いに来たが、連れてきたのは拓真の弟の真司だった。楽屋見舞に来る拓真と会えるかもしれないと、内心期待していた綾之助は少しがっかりした。自分では手の届かない人だということは十分承知しているが、ただ顔を見たい、声を聞きたいと思ってしまう。

 ある日、楽屋入りすると楽屋番に手紙を手渡された。
「お手紙お預かりしましたので」
 そう言われて何気なく見た差出人の名に驚いた。
「うそ……」
 思わず呟いた。拓真からの手紙だ。
「な、なんで。どうしよう」
 綾之助は再びトイレに駆け込んで手紙を開いた。
「もしよければお時間を作ってくださいませんか。連絡を待っています」
 どうしようどうしよう。綾之助は悩み悩んだ。


「綾。そろそろ帰ろか」
 知八が荷物をまとめて、綾之助に声を掛けた。今月二人は毎日、車で一緒に帰っていたのだった。
「あ、あの、うち、今日は用事があって」
「え?」
「ちょっと、友達に会うので。逆方向ですから、知八さん先に帰ってください」
「そんじゃあ、待ち合わせ場所まで送ったるわ」
「そんな! 悪いからいいです」
「僕がいいって言うてるんやから、別にええやん」
 知八は聞く耳を持たない。

 綾之助は結局、知八を振り切れず、待ち合わせ場所まで来てしまった。しかもなぜか、知八は車を降り、綾之助の待ち人が来るまで一緒にいると言う。
 どうしよう。
 綾之助は焦っていた。知八が今、綾之助のことをどう思っているのかはよくわからなかったが、知八に内緒で拓真と会おうとしていることは、充分に後ろめたかった。
 なんとしても、知八には帰ってもらわねば。
「知八さん。ほんまに、遅うなってしまいますからもう帰ってください」
 焦りすぎて、綾之助は知八の袖に取りすがるようにしてしまった。この焦りようではただ事ではないと教えているようなものである。下から覗き込むようにして知八を見つめていたら、知八はどこか気まずそうに頭を掻いて、悩ましげにうぅと呻いた。
「……そこまで言うんやったら、しゃあない」
 知八は長いため息をついて言った。
「じゃあ帰るけど、綾もちゃんと、帰るんやで! 悪い奴に引っかからんように!」
 知八は人差し指をびしっと綾之助に突きつけた。
「はぁ、分かりました」
 あんまり何が言いたいのか分からなかったが、帰ってくれるらしいので、綾之助は素直に返事した。知八はちらっと道の向こうを見て、一瞬顔をしかめた。
「?」
「じゃあ、これは綾之助が無事帰れるおまじないな」
 そう言って、知八は綾之助の頬にちゅっとかわいいリップ音を立てて、キスをした。
「え、ええ!」
 綾之助は頬を抑えて素っ頓狂な声を上げた。
「じゃあなー」
 ひらひらと手を振りながら、知八は行ってしまった。
 なんであんなことしはったんやろう。綾之助は呆然と突っ立っていた。となりにぬっと人の立つ気配がして、横を見ると、拓真が立っていた。
「た、拓真さん」
 今のを見られただろうか? 綾之助は拓真の表情を探るが、まったくの無表情で、感情が読み取れなかった。

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