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第二部
夜会にて
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会場の大広間に近付くと、話し声が聞こえてきた。すでに大勢の人が集まっているようだ。豪華絢爛と言うに相応しい扉をくぐる。
人々は水を打ったように静まり返り、王女と英雄に視線を奪われた。耳に入るのは心地よい音楽を奏でる音と、我に返った後に囁き始めた令嬢達のレオンに対する賞賛の声だ。
会場の奥から、ローズ王女の到着に気が付いたルーク王太子がこちらに向かって優雅に歩き出すのが見えた。王太子は数人に囲まれているが取り巻きを連れている印象はなく、柔らかい表情で親しみやすい雰囲気を持っている。
「ローズ王女殿下。本日はお越しいただきありがとうございます」
「ルーク王太子殿下。こちらこそお招きいただき大変光栄に存じます」
「ローズ王女。あちらのテラスに、我が国のみで見られる珍しい植物が咲いております。是非ご案内させていただきたいのですが、後ほどお誘いしてもよろしいでしょうか」
「ええ、喜んで」
ルーク王太子は嬉しそうな顔を見せた後、申し訳なさそうに、「すみません。まだ挨拶がございますので一旦失礼いたします」と言いその場を離れた。
慇懃な態度で挨拶に回るルーク王太子は通常の感覚を持っていると言える。身分が高いならば当然周りから媚られると思い(それは俺も否定しないが、表面上は謙虚な貴公子でいる)、主催する夜会を社交の場ではなく屋敷の自慢や自分がちやほやされるためだと考える者もいるからだ。ラファエルのように――と言ったほうが分かりやすいか。
王女の視線がルーク王太子の背中からレオンに移った。
「レオン。何か飲み物をいただけるかしら」
「かしこまりました。ローズ王女、少々お待ちください」
レオンは近くにいた使用人を呼び止め伝えた。何度も二人きりで過ごしているレオンは、彼女の好みを分かっているようだ。グラスを受け取ったレオンが言う。
「ローズ王女、あちらに休める場所がございます。いかがいたしますか」
「ええ、お願い」
三人の容姿端麗な取り巻きを従え、壁側にあるソファーに優雅に座っている王女。これもまた絵本に出てくるようなワンシーンだが、さっきと違って悪役令嬢みたいになってるぞ……という考えは当然口にしないが、暇つぶしにはちょうどいい。そう、暇だ。王女の話し相手はレオンとフェリーがしており、嫌われている俺に会話を振られることはない。通常の夜会ならば俺の元には令嬢達がひっきりなしに来てダンスや会話を求められるが、いくら俺が最上級のスペックの持ち主だとしても、外国の王女の護衛として来ている俺に声をかける令嬢はいないだろう。
会場の一角にいる音楽隊が奏でている曲が、ゆったりとした静かな曲から早めの速度の曲に変わった。それを機に、何組かの男女が中央に出て踊り始めた。
「レオン。わたくしと踊っていただけるかしら?」
「ローズ王女殿下。光栄に存じます」
レオンから差し出された手を取り、二人は真ん中の方へ進んで行く。俺達もその後を追い、少し離れた所に空いて監視しやすそうな場所があったためそこに移る。
レオンは今まで参加した夜会でも誘われることは多かったが、俺の従者という立場だったため全て断っていた。優秀なレオンのことだから踊ることもできるだろうとは想像していたが――踊り始めた二人は周囲の者達も瞠目するほど、軽やかで洗練された動きだ。そして――初めてではないと思わせる、親密な空気感を漂わせている。
モヤモヤした黒い物体がどんどん身体の中に侵食していくのを防ぐために、今すぐここで叫びたい。だが無理だとわかっている。フェリーだってもし王女が恋人なら内心穏やかではいられないはずなのに、大隊長らしく視線は鋭く二人を捉え続けてはいるが表情は柔和で、相変わらず親戚のおじのような雰囲気で見守っている。
「今のところ特に動きは無いようだね」
「はい。フェリー大隊長、ヴァランの方達をお見かけしませんが」
王族が到着すれば場がザワつくが、先ほどからその気配はない。俺達が入った時にはすでに会場内にいた可能性もある。だが噂通りの大変な美女であれば、やはり皆の注目を浴びるだろうから違うだろう。今もっとも視線を向けられているのは王女と英雄だ。
「まだ来てなさそうだ」
「ただ単に遅れているだけでしょうか?」
「わからないが……何事もなく終了することを願いたい」
時折俺に熱い視線を送ってくる令嬢に、口角を上げ微笑みかけることを忘れずにしながら、傍から見たら普通に歓談しているように見えることを意識しながら話す。
二曲踊り終わった二人が戻ってきた。レオンはもちろんだが、ローズ王女もさすが王族と言うべきか、疲れている様子はない。
「大隊長、いかがでしたか」
「ローズ王女、大変素晴らしかったですよ」
「ありがとう。でもあなたはいつも同じようなことしかおっしゃらないわ。ドレスを褒めてくださったこともないことを、ご存知かしら?」
この言い方……やっぱり二人はそうなのか?
「ローズ王女。ほら、ルーク王太子がお待ちですよ」
フェリーが向いた先、少し距離があるところで王太子が順番を待っているようだ。
「わかっておりますわ。大隊長、よろしく頼みますわね」
二人の護衛はフェリーがするようで、俺達は少し離れた場所での待機を命じられた。もしヴァランの王女が来たら応じて良いとの話だ。テラスに通じている大きなガラス張りの扉の横で、レオンと二人並ぶ。テラスの奥には花壇があり、たくさんの花が丁寧に育てられている。すでに日も落ちた。太陽の下で観賞した方がその魅力を感じられそうだが、会場から漏れ出す明かりや、テラスとそれに続く庭園に備え付けられた灯りでも十分にその華麗な色合いが堪能できる。
二人の若い王族は楽しそうに話している。ローズ王女がルーク王太子に向ける顔は、レオンに対する時より固く見えるのは気のせいであってほしい。
「レオン」
「はい、ジルベール様」
「おまえがあそこまで上手に踊れるなんて俺は知らなかったぞ。王女とも自然に息が合っていて信頼し合っているように見えたし」
「ありがとうございます」
いや、褒めていないんだが。裏表がなく純粋なレオンに皮肉は伝わらないか。
「初めてには見えなかったが」
「ええ、何度もさせていただきましたので」
――は? 親密な雰囲気から疑ってはいたが、レオンがこのようにはっきり言うとは想像していなかった。
「何度もって……そんなにか」
レオンはやっぱりそっち側が良いのか。言ってくれれば受け入れるのに。なんでレオンは俺とは嫌なんだ? ローズ王女のほうが良いという理由しか思い浮かばない。
「はい、初めは上手くできませんでしたので……ローズ王女に何度もお付き合いしていただきました」
「それで――最後は良くなったってわけか?」
「できたと思います。ジルベール様にも上手だと仰っていただけたので、とても嬉しいです」
ん? 俺はそんなこと言ったか? 口での時か? でも俺のとそっちのじゃやり方が違うよな。
「俺がおまえのこと上手だと、前に褒めたか?」
「前というか今です。『レオンがあそこまで上手に……』と、仰っていただいたと思うのですが」
確かにそれは言ったな。だが――
「言った。だが俺は、その理由が王女との夜だとは知らなかったぞ」
任務中にこのようなやり取りを始めるなど、レオンにも呆れられるだろう。
「えっと、お伝えしたと思います。あの牧場での夜です。その翌日にお話ししたかと」
いやだから何でおまえは俺の苛立ちに気が付かず、論点がずれているんだ。
「ああ、そんなに良かったのか?」
俺が危ない目に遭っていた時、おまえは愉しんでいたんだろ。
「ええ。あの夜の練習がなかったら、今夜きちんと踊り切ることが難しかったと思いますので」
「ん? 練習?」
どういう意味だ、噛み合ってない気がする。
「えっと私も……ジルベール様、申し訳ございません。私が何か勘違いしていますでしょうか」
王女達を見るとまだ観賞を続けている。幸いヴァランの人達も現れないし、少しなら大丈夫そうだ。
「だからレオン、おまえ王女とあの夜やったんだろ? それで距離が近付いて、良い雰囲気になったんだ」
ローズ王女を見守っていたはずのレオンが任務を忘れ俺を振り返った。緑色の瞳には動揺が見て取れる。
「ジルベール様、申し訳ございません……」
レオンの声が僅かに揺れた気がする。
ああ、振られるのか……
「ダンスの練習でも別の方と過ごすなど、私はジルベール様の恋人として相応しくございません」
「ダンスの練習――をしていた?」
「はい。ローズ王女とフェリー大隊長の指示で夜会のためとはいえ、断らず申し訳ございませんでした」
俺が自分に向けてついた溜息をレオンは誤解したようだ。
「ジルベール様。私を、見捨てないでください」
「あ、いや……すまない、謝らなくてはいけないのは俺のほうだ」
「ジルベール様がですか? 何に対して……」
「俺はおまえと彼女があの夜、体の関係を持ったと、そう思っていた」
「そんなこと、決してあるはずがございません!」
男女の話し声や音楽もあり周りに驚かれるほどではなかったが、この場に相応しくないくらいにレオンは声に力を込めた。
「レオン。俺が悪いのはわかっているが、声を落とせ」
「失礼いたしました。ジルベール様、何度も言っておりますが、私はジルベール様以外となど考えられません」
「ああ、俺の思い過ごしだ。だがおまえも誤解されるような行動をしただろ? 王女のこともヴァランのことも俺に言わなかったし」
やばい……俺、なんか女々しくないか。しかも今度は小さくだがレオンが溜息ついてるし。
「ジルベール様。時間がございませんので、後ほど弁解させてください。ただ、今夜の私を見て、お気付きになられませんか?」
「は? どういう意味だ?」
濃いめの青色に金色の刺繍が施された上着を羽織ったレオンは、全てを俺に捧げるような顔で俺を見つめている。
「私はジルベール様のものだ、という意味ですよ」
人々は水を打ったように静まり返り、王女と英雄に視線を奪われた。耳に入るのは心地よい音楽を奏でる音と、我に返った後に囁き始めた令嬢達のレオンに対する賞賛の声だ。
会場の奥から、ローズ王女の到着に気が付いたルーク王太子がこちらに向かって優雅に歩き出すのが見えた。王太子は数人に囲まれているが取り巻きを連れている印象はなく、柔らかい表情で親しみやすい雰囲気を持っている。
「ローズ王女殿下。本日はお越しいただきありがとうございます」
「ルーク王太子殿下。こちらこそお招きいただき大変光栄に存じます」
「ローズ王女。あちらのテラスに、我が国のみで見られる珍しい植物が咲いております。是非ご案内させていただきたいのですが、後ほどお誘いしてもよろしいでしょうか」
「ええ、喜んで」
ルーク王太子は嬉しそうな顔を見せた後、申し訳なさそうに、「すみません。まだ挨拶がございますので一旦失礼いたします」と言いその場を離れた。
慇懃な態度で挨拶に回るルーク王太子は通常の感覚を持っていると言える。身分が高いならば当然周りから媚られると思い(それは俺も否定しないが、表面上は謙虚な貴公子でいる)、主催する夜会を社交の場ではなく屋敷の自慢や自分がちやほやされるためだと考える者もいるからだ。ラファエルのように――と言ったほうが分かりやすいか。
王女の視線がルーク王太子の背中からレオンに移った。
「レオン。何か飲み物をいただけるかしら」
「かしこまりました。ローズ王女、少々お待ちください」
レオンは近くにいた使用人を呼び止め伝えた。何度も二人きりで過ごしているレオンは、彼女の好みを分かっているようだ。グラスを受け取ったレオンが言う。
「ローズ王女、あちらに休める場所がございます。いかがいたしますか」
「ええ、お願い」
三人の容姿端麗な取り巻きを従え、壁側にあるソファーに優雅に座っている王女。これもまた絵本に出てくるようなワンシーンだが、さっきと違って悪役令嬢みたいになってるぞ……という考えは当然口にしないが、暇つぶしにはちょうどいい。そう、暇だ。王女の話し相手はレオンとフェリーがしており、嫌われている俺に会話を振られることはない。通常の夜会ならば俺の元には令嬢達がひっきりなしに来てダンスや会話を求められるが、いくら俺が最上級のスペックの持ち主だとしても、外国の王女の護衛として来ている俺に声をかける令嬢はいないだろう。
会場の一角にいる音楽隊が奏でている曲が、ゆったりとした静かな曲から早めの速度の曲に変わった。それを機に、何組かの男女が中央に出て踊り始めた。
「レオン。わたくしと踊っていただけるかしら?」
「ローズ王女殿下。光栄に存じます」
レオンから差し出された手を取り、二人は真ん中の方へ進んで行く。俺達もその後を追い、少し離れた所に空いて監視しやすそうな場所があったためそこに移る。
レオンは今まで参加した夜会でも誘われることは多かったが、俺の従者という立場だったため全て断っていた。優秀なレオンのことだから踊ることもできるだろうとは想像していたが――踊り始めた二人は周囲の者達も瞠目するほど、軽やかで洗練された動きだ。そして――初めてではないと思わせる、親密な空気感を漂わせている。
モヤモヤした黒い物体がどんどん身体の中に侵食していくのを防ぐために、今すぐここで叫びたい。だが無理だとわかっている。フェリーだってもし王女が恋人なら内心穏やかではいられないはずなのに、大隊長らしく視線は鋭く二人を捉え続けてはいるが表情は柔和で、相変わらず親戚のおじのような雰囲気で見守っている。
「今のところ特に動きは無いようだね」
「はい。フェリー大隊長、ヴァランの方達をお見かけしませんが」
王族が到着すれば場がザワつくが、先ほどからその気配はない。俺達が入った時にはすでに会場内にいた可能性もある。だが噂通りの大変な美女であれば、やはり皆の注目を浴びるだろうから違うだろう。今もっとも視線を向けられているのは王女と英雄だ。
「まだ来てなさそうだ」
「ただ単に遅れているだけでしょうか?」
「わからないが……何事もなく終了することを願いたい」
時折俺に熱い視線を送ってくる令嬢に、口角を上げ微笑みかけることを忘れずにしながら、傍から見たら普通に歓談しているように見えることを意識しながら話す。
二曲踊り終わった二人が戻ってきた。レオンはもちろんだが、ローズ王女もさすが王族と言うべきか、疲れている様子はない。
「大隊長、いかがでしたか」
「ローズ王女、大変素晴らしかったですよ」
「ありがとう。でもあなたはいつも同じようなことしかおっしゃらないわ。ドレスを褒めてくださったこともないことを、ご存知かしら?」
この言い方……やっぱり二人はそうなのか?
「ローズ王女。ほら、ルーク王太子がお待ちですよ」
フェリーが向いた先、少し距離があるところで王太子が順番を待っているようだ。
「わかっておりますわ。大隊長、よろしく頼みますわね」
二人の護衛はフェリーがするようで、俺達は少し離れた場所での待機を命じられた。もしヴァランの王女が来たら応じて良いとの話だ。テラスに通じている大きなガラス張りの扉の横で、レオンと二人並ぶ。テラスの奥には花壇があり、たくさんの花が丁寧に育てられている。すでに日も落ちた。太陽の下で観賞した方がその魅力を感じられそうだが、会場から漏れ出す明かりや、テラスとそれに続く庭園に備え付けられた灯りでも十分にその華麗な色合いが堪能できる。
二人の若い王族は楽しそうに話している。ローズ王女がルーク王太子に向ける顔は、レオンに対する時より固く見えるのは気のせいであってほしい。
「レオン」
「はい、ジルベール様」
「おまえがあそこまで上手に踊れるなんて俺は知らなかったぞ。王女とも自然に息が合っていて信頼し合っているように見えたし」
「ありがとうございます」
いや、褒めていないんだが。裏表がなく純粋なレオンに皮肉は伝わらないか。
「初めてには見えなかったが」
「ええ、何度もさせていただきましたので」
――は? 親密な雰囲気から疑ってはいたが、レオンがこのようにはっきり言うとは想像していなかった。
「何度もって……そんなにか」
レオンはやっぱりそっち側が良いのか。言ってくれれば受け入れるのに。なんでレオンは俺とは嫌なんだ? ローズ王女のほうが良いという理由しか思い浮かばない。
「はい、初めは上手くできませんでしたので……ローズ王女に何度もお付き合いしていただきました」
「それで――最後は良くなったってわけか?」
「できたと思います。ジルベール様にも上手だと仰っていただけたので、とても嬉しいです」
ん? 俺はそんなこと言ったか? 口での時か? でも俺のとそっちのじゃやり方が違うよな。
「俺がおまえのこと上手だと、前に褒めたか?」
「前というか今です。『レオンがあそこまで上手に……』と、仰っていただいたと思うのですが」
確かにそれは言ったな。だが――
「言った。だが俺は、その理由が王女との夜だとは知らなかったぞ」
任務中にこのようなやり取りを始めるなど、レオンにも呆れられるだろう。
「えっと、お伝えしたと思います。あの牧場での夜です。その翌日にお話ししたかと」
いやだから何でおまえは俺の苛立ちに気が付かず、論点がずれているんだ。
「ああ、そんなに良かったのか?」
俺が危ない目に遭っていた時、おまえは愉しんでいたんだろ。
「ええ。あの夜の練習がなかったら、今夜きちんと踊り切ることが難しかったと思いますので」
「ん? 練習?」
どういう意味だ、噛み合ってない気がする。
「えっと私も……ジルベール様、申し訳ございません。私が何か勘違いしていますでしょうか」
王女達を見るとまだ観賞を続けている。幸いヴァランの人達も現れないし、少しなら大丈夫そうだ。
「だからレオン、おまえ王女とあの夜やったんだろ? それで距離が近付いて、良い雰囲気になったんだ」
ローズ王女を見守っていたはずのレオンが任務を忘れ俺を振り返った。緑色の瞳には動揺が見て取れる。
「ジルベール様、申し訳ございません……」
レオンの声が僅かに揺れた気がする。
ああ、振られるのか……
「ダンスの練習でも別の方と過ごすなど、私はジルベール様の恋人として相応しくございません」
「ダンスの練習――をしていた?」
「はい。ローズ王女とフェリー大隊長の指示で夜会のためとはいえ、断らず申し訳ございませんでした」
俺が自分に向けてついた溜息をレオンは誤解したようだ。
「ジルベール様。私を、見捨てないでください」
「あ、いや……すまない、謝らなくてはいけないのは俺のほうだ」
「ジルベール様がですか? 何に対して……」
「俺はおまえと彼女があの夜、体の関係を持ったと、そう思っていた」
「そんなこと、決してあるはずがございません!」
男女の話し声や音楽もあり周りに驚かれるほどではなかったが、この場に相応しくないくらいにレオンは声に力を込めた。
「レオン。俺が悪いのはわかっているが、声を落とせ」
「失礼いたしました。ジルベール様、何度も言っておりますが、私はジルベール様以外となど考えられません」
「ああ、俺の思い過ごしだ。だがおまえも誤解されるような行動をしただろ? 王女のこともヴァランのことも俺に言わなかったし」
やばい……俺、なんか女々しくないか。しかも今度は小さくだがレオンが溜息ついてるし。
「ジルベール様。時間がございませんので、後ほど弁解させてください。ただ、今夜の私を見て、お気付きになられませんか?」
「は? どういう意味だ?」
濃いめの青色に金色の刺繍が施された上着を羽織ったレオンは、全てを俺に捧げるような顔で俺を見つめている。
「私はジルベール様のものだ、という意味ですよ」
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