公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい

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第二部

色の意味は

 翌朝起きると、ダニーと目が合った。

「おはようございます」
「おはよう、昨日は夜遅くまでかかったみたいだね」


 扉を開ければ国王軍所属の隊員として接しなければならない。レオンと離れがたく、抱き合っていたのはどのくらいの時間だっただろうか。そもそもその前のフェリーとの話し合いも長かったので、結局昨晩部屋に戻ったのは真夜中を過ぎてからだった。
 レオンとのことを気付いての発言か、ただ単に事実を述べたのかは謎だ。

「午前中の護衛任務が入っている。その前に朝食を済ませよう」

 グループの他のメンバー、レオンとケビン、ティムもすでに起床している。顔を洗い、簡単な身支度をしてから共に使用人用の食堂へ向かった。
 移動中と違い食料調達は容易だ。今朝のメニューはゼンの得意料理だという、肉と野菜を出汁で時間をかけて煮込んだものと卵、パンだ。国王軍の隊員なので朝から量を食べる上、夜間警護任務明けの者もいるので食べ応えがある料理が出される。
 夜会の会場内の護衛任務に俺とレオンが指名されていることはすでに話されているが、さすがにレオンがエスコートする予定のことまでは知らされていないようで、食事中に話題にされることはなかった。

 その後の任務だが、ここは他国とはいえ王宮内であるため人の入城は管理され、多くの警備兵がいる。襲われる可能性がないとは言いきれないが、森の中を移動する時などよりは緊張感がなくなるのは他の隊員も同じようで、緊迫した空気が薄れるのは仕方ないのかもしれない。
 王女は今夜の夜会のため午前中から準備に取り掛かり、今は蒸し風呂で侍女に肌を磨きあげさせている最中だろう。当然俺達は警護といえども中に入ることは許されず、三人が外での警備、二人が王女不在の部屋を守っている。


 交代時間になった第十隊の隊員達が来たので引き継ぎをし、俺達は部屋に戻った。室内で夜会時の警護について、万が一にも不備がないよう何度も確認しながら、エディや他の隊員達と連絡を取り合う。フェリーの姿は見えなかった。向こうから呼び出しがないということは、昨晩の話からの変更はなさそうだ。時々フェリーは消えたようにいなくなるが、部屋に籠っているかイリュダの宰相などと話し合いをしているのだろう。
 

 夕方になったので夜会に出席するため、俺とレオンも準備を始めた。もちろん自前の衣装なのだが、俺達が王女の護衛を頼まれたのはこういう事情もあるはずだ。いくら強かったとしても平民には国王主催の会に相応しい服など、到底用意できないだろう。
 フェリーからは昨晩の応接室を使用して良いと言われた。だが余計な反感を買いそうなので(遠慮ではなくいちいち幼稚な者の相手をするのが疲れるためだ)、大部屋で良いと断った。手狭とはいえ問題ないと思っていたが、実際に他のメンバーがいる中でレオンがいつものように俺の世話をしようとしたのは少々気恥しくなってくる。

 だって、すでに正装になったレオンは見惚れるほど格好良い。長身で鍛えられているが細身の体にスラリとした白色のズボン、濃い青色の上着がとても似合っている。刺繍模様は輝くような金色だ。だが瞳の色に合わせて深緑色を選ぶのかと思っていたので少し意外だった。エスコート役だと知っていたのだから、王女のドレスの色を事前に聞いて合わせたのだろう。健気だな。
 ああ……王女のために用意した服を剥ぎ取り、今この場で欲望のままに奉仕させたい。この完璧な男は俺のものだと言えたらどんなに良いか。だが謹厳実直なレオンが本当は色っぽく、こんなにも支配欲を唆る男だと周りに露見するのは望んでいない。英雄のこんな一面は俺しか知らないからこそ、より想いが滾る。


「ジルベール様、いかがでしょうか? こちらに鏡がありますのでご覧になってください」

 隊員が寝泊まりしている大部屋にある鏡なので小さく、その上拭かれていないのか汚れてもいるが問題はない。レオンが整えたのだし、素材は俺だ。輝くような金色の髪と青色の瞳に整った顔、レオンに負けず劣らずの長身と均等の取れた体。光沢感のある白地は俺の高貴な雰囲気をより一層引き立ており、正直俺が王太子だと勘違いされそうなくらいだ。
 あ、異能をこの目で確認していないダニーがいるからあまり変なことは考えないほうが良いことを忘れていた。慌てた内心を見せずにゆっくりと周りに目をやると、他の隊員達は皆俺のことをさすが四大公爵家ご子息と感心したような顔で見ていたので大丈夫だろう。

「こういう服を着こなせるなんて、やはり育ちが違うね」
「いえ、ダニー隊員も似合うと思いますが」
 
 ダニーの中性的で整った顔なら平民といえども違和感はないだろう。

「僕達も着るだけならできても、それで護衛しながら踊ったりするのは窮屈に感じるよ。そもそも長時間過ごすだけで疲れる」
「窮屈――ですか」

 幼少期からこのような服を着ることが日常だったため、任務時の服が動きやすいとは感じても堅苦しいと思ったことはなかった。

「やはり君は前に言った通りだね」
「え? すみません、うまく理解できないのですが……」

 ダニーは俺の耳元まで近付いて、囁くような声を出した。

「大事に育てられているねってことだよ」
「それはちが……」

 いや、俺は何を言おうとしたんだ。否定したところで謙遜ではなく嫌味だと捉えられるだろう。それにもし弁解する必要になったら……俺は大事に育てられてなどいなく、誰からも愛されていない。父上は実の息子しか昔から興味がないと事実を晒して何になる? ますます己を律することを求められる貴族に相応しくない、血は争えないと呆れられるだけだ。

 俺が口を噤むと、普段は温度を感じさせない切れ長の目の端を優しく下げた。

「そろそろ時間かな。では行こうか」

 全員がまとまって廊下に出た。国王軍が使っている大部屋は王宮の端にあるため、ローズ王女のところまでは少し歩く。グレンロシェと同じくらい豪華な作りのイリュダの王宮内は今夜の国王主催の晩餐会のためいつもより警備兵が多く配置されている。ダニー達はエディ小隊長の指揮の元、会場周辺の警備を行う。途中で分かれ、俺とレオンはフェリーの部屋へ向かった。扉を叩き名を告げると、入室を促された。

「フェリー大隊長、お待たせいたしました」
「準備は済んでいるようだね」

 立ち上がったフェリーは普段は下ろしている長い髪を後ろで結び、灰色の正装が彼の知的な雰囲気をより高めている。結婚しているのか分からないが、国王軍大隊長で武勇に優れながらこれだけ品が良く頭も切れるならば、若い頃から相当令嬢達に言い寄られていそうだ。

「ジルベール、レオン」
「はい」
「グレンロシェ同様イリュダでも夜会での武器の所持は当然禁止で、攻撃系の能力の使用も制限されている。だが不測の事態に陥った際はローズ王女殿下をお護りすることが最優先であり、異能を使ってかまわない」
「はい」

 必要な能力――例えば武器の持ち込みを防ぐ透視の異能や、配膳する効率が上がる能力などは夜会の開催上役に立つため使用を認められているが、それ以外の異能を使うことは緊急時以外許可されていない。露見した場合には厳しい罰則がある。また、他人が異能を使っているかを察知する能力を持つ者がいるらしい。噂で聞いただけなので、本当か脅しなのかは不明だが。

「君達なら分かっていると思うが、異能を使う時は周囲への被害が出ないよう、注意して欲しい」
「はい」

 貴族達が集まる夜会である。万が一にも能力を使わざるを得ない問題が起こってはならないが、もしそうなった時――自分が護衛している貴人を護れたとしても、決して他人を傷付けてはならない。もしかしたらその相手は王族かもしれないのだ。わざとでなくとも爵位剥奪や投獄という可能性もある。

 
「――では、そろそろローズ王女を迎えに参ろうか」
「はい、フェリー大隊長」


 名を告げると、眩い装飾で縁取られた重厚な扉が開けられた。王族に対する最上級の儀礼をとる。

「ご機嫌よう。顔を上げてくださって」

 恐る恐る視線を上げ目に入った姫は、室内の中央に設置された大きな革張りのソファーに腰をかけ、文字通り幼少期に見た絵本の中に出てくる姫そのままだった。ふんだんにレースが施された光沢のある緑色のドレスはいくつもの小さな花飾りで彩られ、王家を象徴する黒髪に見事に調和している。首元にはイリュダの名品であるあの装飾品を合わせ、外交も忘れていない。
 だが……エスコート役のレオンと並ぶとどうだろう。ドレスの色はレオンの瞳に合わせていると想像するが、レオンは王女に確認していないのか? 使用人として育ったレオンがそんな基礎的なことを失念するはずがないが……まあ、エスコート役は出発後に言われたってこともあるか。

「皆さん、今夜はよろしく頼みますわ」


 レオンがローズ王女の手を取る。とても優雅なワンシーン。心が通う恋人同士のように二人の所作は自然と息が合っており、相性の良さを否応となく感じさせられる。

 歩き出した二人の後をフェリーと追う。まるで従者だ(実際にその通りだが)
 雑念を捨て護衛に専念しなくては――そう自分に言い聞かせるが……いくら任務とはいえ目の前で恋人のこのような姿を見続けなくてはいけないなど、完全にレオンを信じ切れていない現在の俺には拷問に近い。
 隣を進むフェリーは精神的にも大人で、(恋人かもしれない)王女と良い雰囲気であるレオンに対して嫉妬したりしていないように見受けられる。父上に広い視野を持てと言われたが……これを受け入れることも含まれるのならば、俺は父上の期待に応えられる日は来ないかもしれない。

 まあそんなことを心配しなくとも、レオンの結婚が決まれば俺はもうギファルド家には、今度こそ本気で留まれないだろうが。
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