公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい

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第一部

ハディード学園

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 朝食は効率を考慮して自室で取ることが多い。そのためレオンと顔を合わせる心配がないのは良いが、それも屋敷を出るまでだ。学園へは俺の警備のため一緒に通っている。使用人によって用意されたパンとフルーツを食べながら、それまでに何とか平常心を作らないと――と自分に言い聞かせようとして、自分の考えが間違っていることに気が付いた。
 
『何であいつに対して俺が悪いことをしたみたいに気後れしているのだ』と。
 俺はレオンより立場が上だ。単なる生理現象の補助として使って何が悪い! 他の誰かを想像するより余程健全だろう。あいつが一番手軽でたまたま男だっただけだ。決してレオンに特別な感情を持っているわけじゃない。

 そう結論付けて急いで身支度を終えて一階のロビーに下がると、いつものようにレオンが直立不動の姿勢で俺を出迎えた。
 
「ジルベール様。おはようございます」
「ああ、行こうか」
「はい」
 
 使用人によって開かれた扉を進み、ギファルド公爵家の紋章、騎士と王冠と盾を炎が取り囲む絵が描かれている馬車に乗り込んだ。
 火は初代ギファルド公爵の異能で、そのため我が一族で火を扱う者が多い。
 
「良く眠れたか」
「はい」
「訓練を軽く見るわけじゃないが、今日は晴れているから視界は良さそうだ」
「はい。前回は豪雨でしたので、今回はその時とまた違った作戦を立てる必要がありますね」
「そうだな。メンバーが分からないと考えようがないが」
 
 学園に近づくにつれ、他の馬車や徒歩で通う生徒がちらほら見え始めた。この学園は実力主義なので平民も少ないがいる。校舎は貴族街にあるため平民街からは距離があり、そのため貴族と一部の裕福な平民を除いて馬車を持っていない生徒のほとんどが、学園が管理している近くの寮に住んでいる。

  
 学園入口の横に設けられている馬車寄せに着いた時、一台の馬車が目に入った。ギファルド家と同じ四大公爵家の一つ、ベルディア公爵家の紋章が見えるので、中にいるのは二男のラファエルだろう。
 彼は能力も秀でず見た目もお世辞にも良いと言えないが、母親が元王族で現王子と従兄弟のため常に下位貴族の子弟を従えている。逆に言えばそれだけしか誇れるものがなく、取り巻きも彼からのおこぼれを期待しているに過ぎない。
 
 馬車から降りたラファエルは、いつものように過度に宝飾の付いた服を纏っているが、正直見た目が全く追いついていないため笑えるほど似合っていない。ちなみに俺の服は上質で確かな腕の職人が作った最高級品だが飾りはごく僅かだ。着ている者が輝いていれば余計な装飾など必要ないという簡単な理屈を、かわいそうなことにラファエルは気が付いていない。
 
「また今日もお気に入りの使用人の息子と登校か? それとも美人なこいつの母親が好きなのか分からないが平民と一緒など、四大公爵家の品位を落とさないでもらいたいね」
「おはよう、ラファエル。君は朝から元気そうだ、その調子で今日の模擬戦での活躍を期待しているよ」
 
 挨拶すらきちんとできないなんて、どれほど頭が緩いのだ。それにこの服でどうやって訓練する? だが、可哀想なことにそれを指摘したところで怒りはすれど、自分を見直す聡明さをラファエルは持ち合わせていない。
 
「レオン。行くぞ」
 
 ラファエルはまだ何か言いたそうにしていたが、レオンに声をかけ歩き出そうとしたところで、周りから俺達を噂する声が聞こえてきたためめたようだ。ラファエルは悔しさから言わないが、モテる俺達が羨ましくてたまらないのだ。
 令嬢に好かれたいならば、まずは取り巻きを引き連れて従兄弟王子に媚びを売ることを辞めればいいのにと思いながら、レオンと共にその場を後にする。 
 今日午後から日にちを跨いだ訓練が始まるため、朝一で昨晩まとめたレポートをルナー教授に渡してから教室へ向かった。

 
 室内には何人かの生徒がいて雑談をしていたようだが、俺達が入ると皆話すのをやめた。別に俺が以前うるさいと注意したとか、嫌な顔をしたのではない。自然と俺が持つ雰囲気――高い身分の者特有の存在感――に圧倒されて静寂を生むのだ。
 
 いている適当な席にレオンと並んで座っている間も、周りから見られることを意識し凛とした表情を作ることは忘れず、これから始まる模擬戦について勘案かんあんしている様子を作る。
 実際の頭の中は訓練が終わったらレオンにどう奉仕させようとの考えで満ちているなど、決して周りに分かりようがない。

 少し経つとほとんどの席が生徒で埋まり、そして模擬戦を担当するロード隊長が入室してきた。一斉に立ち上がり礼をする。
 
「おはようございます」
 
 この隊長は以前、国王軍第二隊を仕切っていた人で、焦げ茶色の髪の毛と日焼けした肌に岩のような筋肉をたずさえ、遠目から見てもすぐに彼だと分かるほどの巨体だ。能力については生徒達に明かしておらず、訓練時もその鍛えられた体のみで生徒を軽くいなしている(その体が異能なのかと疑っている生徒もいるが、答えは謎だ)
 おそらく父上とそう変わらない年齢でまだまだ現役だが、この学園を管理している軍事宮の上の人間からの頼みで、教官になったらしい。なぜ学園が軍事宮の管轄下なのかというと、この学園の生徒の大部分が卒業後、国王軍に入隊するからだ。
 隊長は一同が着席したのを確認してから切り出した。
 
「おはよう。諸君が知っての通り、本日からいくつかの班に分かれて魔物との戦闘を想定した模擬訓練を行う。では今から発表するので、それぞれ名前を言われたら各班ごとに決められたテーブルに集まってくれ」
 
 レオンとリューイ、ダッドまでは予想していた通りだったが、まさかラファエルの名前を俺達と同じ班として聞くとは想像していなかった。
 レオンと共に指示されたテーブルに行くと、すでにラファエルが不満を隠さずに椅子に座っている。
 不機嫌の理由は、大方――その一『自分の取り巻きがいない』、その二『レオンとダッドが平民』、その三『俺とレオンが目立つから自分の見せ場を作れない』――そんなところだろう。
 
「ラファエル。君と組むのは初めてだね、訓練は過酷だ。上手くいくようお互い協力して頑張ろう」
 
 彼は一瞥いちべつしただけで相槌すらしない。
 俺は心の中で溜息ためいきをついた。おいおい、訓練はチームワークが重要だ。そんなんだからお前はいつまで経っても成績が上がらず、令嬢にも好かれないんだよ――と。

 隊長が教室内を見渡し、注意を引いてから口を開いた。
 
「では、今から訓練内容について説明をする」
 
 仲間同士で会話をしていた者も全員瞬時に黙り、隊長の話に真剣に耳を傾けている。これは成績のためだけの模擬戦ではない。訓練での殺傷は禁止されているが、実際に存在している魔物との戦いを想定したものなので、少しでも慣れておかなければならない。
 万が一魔物(と可能性は低いが魔王も)が来襲した時には、国王軍の傘下に組み入れられ、国を守る役目を与えられる。そのため当たり前だが、訓練において己の能力の慣熟かんじゅく度を高めることが、自分の生死に大きな影響を及ぼすからだ。
 選ばれし者であるこの学園の生徒はそれを理解できている。ラファエルのように実力がぎりぎりで、家名での加算で入学を許可されたような場合には怪しいが。
 
「国王軍第七隊の協力を得た。今回は彼らを仮定の魔物とする。各班はそれぞれ西の森に陣地を構え、明日の昼前までに攻撃を防ぎながら最低一人を捕まえてもらう。その方法は、この粘着力がある青い布を体に付けたら一撃を与えたとみなし、それで捕獲とする。逆にお前達側は赤い布を体に付けられたら負傷したことになり、その者はそこで終了だ。当然ながら彼らからの攻撃は直接当たらないよう配慮される。また、お前達が反撃や捕獲の際に第七隊員に故意に怪我などをさせた場合は即失格、成績にも影響を与えるため気を付けるように」
 
 一同が真剣な面持ちで頷く。俺の斜め二つ前にいるトマなど、まばたきすることも忘れているので、目が乾きそうだとつい心配した。
 
「訓練は午後から開始する。それまでに班内でそれぞれの異能の把握と計画を立て、各自食事を十分に取れ。一度訓練が始まれば好きに食べられないぞ。俺はこの部屋にいるから何かあれば訊きにくるように、では」
 
 その言葉を合図に、それぞれのテーブルで五人ずつが円を作るように顔を合わせ、話し出す声が聞こえてきた。
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