公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい

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第一部

作戦会議

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「前に組んだことがあるから、すでに知っていると思うが、あれからレベルも上がっているだろうし、まずは自分の能力について紹介していこうか」
 
 俺がこう切り出すと、やはりラファエルが絡んできた。
 
「なんでおまえが仕切っているんだよ? 家柄なら同じだろ? むしろ俺のほうが王族に近いから上だ」
「別に俺は公爵家子息だから指揮を執ろうとしているわけではない。俺達は前回も一緒だったから、彼らの慎重な性格を熟知している。なので俺が話しただけだ。不快にさせたなら謝るよ」
 
 前回はラファエルの代わりに男爵家のステファンだった。リューイは子爵家だ。ダッドに至っては平民だし、レオンも常に俺の顔色を伺う。慎重な性格とオブラートに包んでも、どう考えても彼らは四大公爵家の俺の意見に従わざるを得ないことは承知の上だ。
 結局ラファエルが「ふんっ」と、薄笑いを浮かべながら言った。
 
「まあいい、俺から言ってやるよ。俺はベルディア公爵家のラファエル。異能は水で、出せるのは俺の周り半径二メートルの量を連続で三十秒間、飛ばすとしたら二十メートルくらいだ。その時によって変わるけどな」
 
 正直俺はラファエルと同じ班だと聞いた時から、隊長の思惑が分からず少々困惑している。このくらいのレベルなら俺の火を消すことはできないが、なぜこうも相性が悪い異能を一緒にしたのだ。
 
「次はジルベール、おまえが言えよ」
 
『結局自分がリーダー気取りか』との思いは顔に出さずに頷く。こういうクールな対応が人気の秘訣だよ。
 
「俺の能力は火で、同じく半径三メートルの火を約一分間維持できる。火種を小さくすれば火炎弾のように百メートルくらい先まで飛ばすことも可能だ」
 
 俺が言い終えると、ラファエルはリューイに視線を向けた。
 
「はい。リューイと申します。治癒能力を持っています。生命反応がある限り、傷の状態にもよりますが一通りの治療ができます。今回は基本的に怪我をすることはないと思いますが……よろしくお願いします」
 
 レオンがダッドを促したので、ダッドが口を開いたが、ラファエルに対して萎縮しているのか声は小さくかすかに震えている。
 
「ダッド――です。能力は、小さい音なら二キロメートル、魔物の咆哮ほうこうのような大きい音でしたら、大体三十キロ先まで聞き取ることができます」
 
 最後にレオンが続ける。
 
「私は風を操る異能を使い、瞬間的に風速八十メートルくらいまで出せます。風力と範囲を調節すれば攻撃だけでなく、他の方の能力の補助が可能です」
 
 全ての者が言い終わると、ラファエルがもっともらしく咳払いをしてから切り出した。
 
「よし、それぞれの異能を把握したところで、作戦を立てようじゃないか。何か意見があれば言ってみろ」
 
 こんな殺伐とした訊きかたでは、彼らが自由に意見など言えるはずがない。なぜ俺が気を使わねばならないのだと思うが、これは上に立つ者の役割だから仕方ない。
 
「ラファエル、では俺から言わせてもらおうか。いいかな?」
「聞いてやるよ。ジルベール、さぞかしすばらしい考えがあるんだろうな」
 
 ラファエルの挑発的な態度に何も気が付かない振りをして――こんな子どもを相手にしない大人という雰囲気を醸し出しながら――俺は頭をすばやく回転させ、浮かんだ案を話した。

「陣地だが、西の森は岩場が多く洞窟もいくつかある。まずは条件の良い洞窟まで、第七隊に見つからずに辿り着かないとだな」
「それはダッドが適任でしょう。彼らの声を頼りに居場所が分かれば、けるのは難しくないかと」
 
 レオンはこうやって毎回俺の意見に同意する。レオンの言葉を聞いてダッドは「大丈夫だ、任せてくれ」と力強く頷いた。
 
 平民でも、この学園にいるのは能力が高い選ばれた者だ。子どもの時から一目いちもくを置かれ(俺とは違い、平民だけの小さい規模の中でだが)、周りから尊敬されながら育っている。こうやって信頼を寄せれば簡単に自尊心を取り戻し、頼もしい仲間となる。
 
「彼らの個々の実力は我々より格段に上だ。個人での捕獲は到底無理だろう。俺達は連携して動くことが求められる。今回、俺達とラファエルが初めて組んだということは、隊長が何かしらの意図を持ってそうしたと考えるのが自然だ」
 
 四人をゆっくりと見回す。三人は緊張した顔で俺の話に耳を傾けているが、一人はすでに飽きているのか頬杖をして眠そうだ。
 今日から模擬戦訓練があると知っているのに昨晩はどんな夜更かしをしたのか。まさか予習ではあるまい。いつものように取り巻きを引き連れて、貴族街の場末か平民街にある飲み屋に女を探しに行ったのだろう。そこにいる女達はラファエル自身には目もくれず、四大公爵家子息という身分だけでこの上なく持てはやすからだ。
 誰からも意見がないため、俺は先を続けた。
 
「皆がご存知の通りラファエルの異能、水と俺の火は相性が悪い。だが、油から火が出た場合、そこに水をかけると爆発したように勢いが増す。それを使ったらと思うのだが、どうだろうか?」
 
 しばし沈黙した後、リューイに尋ねられた。
 
「えっと……その油はどこから調達するのでしょうか」
 
 俺だぞ、その答えはもちろん考えてある。
 
「西の森の奥、湖のほとりに生えている木の実に油分が含まれている。それを採って来ればよい」
 
 リューイは思案する顔になった。ラファエルは相変わらずつまらなそうだし、レオンは何を考えているのか表情には出ていない。
 俺の案にはダッドが答えた。
 
「――その湖には獰猛な生物もおりますし、足場も悪いため近づくのは危険ではないですか?」
「だが少しのリスクは付き物だろう? 危ないといっても魔物がいるわけではないぞ」
「そうですが、実際に負傷してしまっては訓練の意味がありません。私が一緒について行くにしても戦闘に優れておりませんので、もし私が怪我した場合にはご迷惑をかけてしまいます」
 
 普段は皆の仲裁役、おっとりしていて安定剤のようなリューイに意外にも強く反対された。
 そこで、今まで黙ってやり取りを聞いていたレオンが口を開いた。
 
「あの、あくまで私の意見ですが……よろしいでしょうか」
 
 四人の視線がレオンに向く。
 
「もし隊長が油と水を組み合わせることを予測したのでしたら、おそらく――ダッドか私のどちらかがマリカ嬢と入れ替わっていたと思います。彼女の能力でしたら、遠く離れた場所にある物を動かせるので、安全な位置からその実を採取できますから……」
「では何だと言うのだ?」
「前回の訓練時は豪雨で視界が悪く、初めは上手く動けなかったと思います。なので――今回はそれを逆手に取り、その状況を作るのはどうでしょうか。もちろん国王軍の方達はどのような場面にも慣れているはずですが、初めからではなく急な雨ですと対応の遅れが期待でき、捕獲の可能性が上がると思われます」
「ラファエル様の水とレオンさんの風で雨を起こす――ということでしょうか?」
 
 この学園には王族から平民まで全ての階級の生徒が在籍しているが、特別な式典時を除き学園内での儀礼は一切不要となっている。それはこういうグループごとの訓練時に問題を生む可能性があるからだ。当然ながらその問題とは、下位貴族や平民が不利をこうむらないようにとの配慮ではなく、緊急時にも儀礼を強要した場合に起こり得る混乱を避け、身分の高い者の安全を守るための措置である。

 呼び方は自由だが、自分より上の身分の者に対して今のリューイのように『様』を付けて呼ぶ者が多い。ただリューイの場合は低いとはいえ貴族の家柄にも関わらず、本来ならば必要ない平民に対しても『さん』の敬称を付け丁寧な言葉遣いをする。本人の真面目な性格によるのだろうが、そのため噂によると可憐で清楚な外見も相まって、学園内で――特に身分の低い男達から――結構な人気があるようだ。

 リューイの問いにレオンが答えた。
 
「はい。それに私達のグループにはダッドがいますから、視界が悪くても音を聞き分け相手の位置を正確に察知できるはずです」
 
「よく気が付きましたね」

 レオンを見上げながら言うリューイにダッドも同意する。
 
 作戦案は俺のじゃなくレオンのが採用されそうだし、実際の模擬戦も俺はただ指を咥えてただ見ているだけか? それでは俺は主役でも脇役ですらなく観客みたいじゃないか。
 いつものごとく不満は顔に出さなかったが、その内なる感情を一部の狂いもなく完璧に読み取ったかのようにレオンが付け足した。
 
「ジルベール様の身体能力高いですから、捕獲はジルベール様にお任せしてよろしいでしょうか?」
 
 俺は「もちろんだ」とばかりに頷く。
 
「それに……今朝、ヒントをくださってありがとうございます。さすが、ジルベール様は着眼点が違いますね」
 
 その言葉に俺は『大げさにするな』という含みを持たせた顔を作りレオンの発言を流した。これで二人は俺がレオンに花を持たせたと勝手に補填することだろう。実際には、『今日は晴れているから視界が良さそう』と言っただけなのに。
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