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TAKE 41 真っ白なページ
しおりを挟む「先回も言いましたけど、事務所を通していただかないと答えられません。それに、この間みたいに勝手に写真撮られて……信頼出来ません」
「それは、手厳しいですね」
なにが手厳しいだよ。そりゃ監督やテレビ局から見たら、結果オーライだったかもだけど、僕と享祐にとっては逆だよ。
「じゃ、今はオフなんで」
再び踵を返してサンクチュアリに入ろうとした。
「カミングアウト、しないんですか?」
なんで……そんな憶測だけの無遠慮な言葉を放つのか。
芸能人だって何から何まで明らかにしなきゃいけないわけじゃない。人の心の中に土足で踏み込む権利は誰にもないはずだ。
――――落ち着かなきゃ、享祐みたいに洒落た言い方はできないかもだけど、あまりつっけんどんにしちゃ駄目だ。
「付き合ってますよね? お二人」
「友人として。先輩後輩としてなら」
間違いなく録音してる。これが非公式のインタビューだってこいつには関係ないんだから。
「それだけですか? 嘘でしょう。私もこの業界長いんだ。お二人の親密さはすぐにわかりましたよ。いい時代ですよね。昔みたいに気持ち悪いとか言われない。むしろ歓迎される」
歓迎される? 誰がどこで歓迎してるんだよ。勝手なこと言ってんじゃねえよ。物珍しがられるのが歓迎だって言うのか?
大体、なんで『カミングアウト』なんだよ。そこがもうおかしい。その踏み絵を踏まないと享祐を好きだと、お互いを大切に思ってると言えないのか?
「越前さんが、このドラマを始める時、言ってました」
僕はオートロックを開ける場所にスマホの画面を開いてかざす。小さな電子音をたて、ドアが開いた。
「世界が寛容になって来たと言っても、ブームみたいな面もある。それを普通のこととして提示するのがこの小説のテーマだ。って。僕もそう思います。ドラマ、見てくださいね」
肩越しに振り返り、笑みを浮かべて会釈する。何かを言おうとする真壁の鼻先でドアは閉じた。
『待ってください。なんですか? それ?』
ガラスの向こうで叫んでる。上手く煙に巻けただろうか。精一杯自分の言いたいことを言って、ポーカーフェイスを気取ってるけど、内心は心臓バクバクなんだよ。
一階に止まったままだったエレベーターに乗り込んですぐ、僕は内壁に凭れて大げさに息を吐きだした。
「はああ……大丈夫かな。切り取られてもおかしなこと言ってないよな?」
今の今、自分が言ったことを反芻する。きっと真壁は『何言ってんだ?』って感じだったろう。あいつには、この言葉がどれほど意味があるかなんて分かるわけがない。
転がるように部屋に入り、ソファーに飛び込んだ。クッションがさほどよくない安物のそれは、僕の体をほどほどに弾く。
――――はああ。もう、勘弁して欲しい。なんで僕なんかに……。
享祐より、僕の方が本音を言いそうだと思ったんだろうなあ。それはまあ、正しいけど。
僕は東さんからもらった台本を手に取った。まだちゃんと見ていない『最終回』の台本だ。
――――そうだ。もうあの無礼な奴を忘れてこっちに集中しよう。一体どんな終わり方をするんだろう。監督はどう脚本を仕上げたんだ。
ソファーに座り直し、本格的に目を通す。なかなかの修羅場。これは前回か
らの続きだからそうだろう。
しかし、僕はあるページで紙を捲る指を止めた。というか、止まった。ついでに息も止まりそうになる。
――――真っ白だ……。
印刷ミスかと思って、次のページをめくる。次、次、次……。
――――書いてないんだ。途中から。途中だよな? こんなところで終わりじゃないよな?
その証拠に、4ページ白紙の後に完の文字が大きく印刷されていた。
「林田監督、一体何を考えてんだっ!?」
僕は何も書かれていないまっ白な台本を手に、一人大声で叫んだ。
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