【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
49 / 82

TAKE 40 遭遇

しおりを挟む

 車で迎えに来てるはずの東さん。こんな顔を見せられない。
 僕は洗面所で顔を洗ってからロビーに出た。ちょっと丸っぽい東さんが手を振ってるのが見える。
 これからオーディションっていうのに、こんなメンタルじゃだめだ。立て直さなきゃ。



「伊織さん、最後の台本、届きましたよ」

 東さんの運転する車の中、僕は『最初で最後のボーイズラブ』、最終回の台本を渡された。

 ドラマのキャストが決まってから四ヶ月。ついに最後の本が来た。あっという間だったな。
 台本を手に、今までのことが頭の中で走馬灯のようにぐるぐると回っていく。さっきまで泣いてて涙腺が弱々だから、また泣きそうになる。それをぐっと我慢した。

「結局、シーズン2はあるんでしょうかね」

 隣で東さんが誰に言うでもなく尋ねる。僕しかいないから僕に言ってんだろうけど。

「ないんじゃない? 最終回はハッピーエンドって言ってたじゃない」

 僕はぱらぱらと台本をめくる。ただ、文字を追うことはしなかった。ここでまた涙出てきたら困る。

「ハッピーエンドにも色々ありますからね」
「そうだけど……」



 心にもないことを享祐に言ってしまって、僕は次の現場でもそのことが頭にちらついていた。集中しなきゃと思えば思うほど、想いがすぐそれに擦り寄っていくのは何故なんだろう。
 次の役柄をゲットするためのオーディションだから、頑張らないといけないのに。

 ――――享祐を傷つけただろうか。

『伊織がそうしたいなら、公表してもいい』

 そんなこと言ってた。嬉しかったけど、それはとても現実的じゃない。
 やっぱり、秘密の関係でなくてはダメなんだ。いいじゃないか。それでも。
 享祐と会いたいと思えば、会えるんだ。馬鹿だな、僕は。なんで子供みたいにあんなことを……。



 オーディションの結果は一週間後だと言われ、僕はまた東さんの車でマンションに帰った。
 随分と落ち着いていた。享祐にはメールして謝ろう。好きだから……どんな形でも平気だって。公表なんて必要ないって。

 エントランスには管理人室と小さなロビーがある。そこからオートロックでエレベーターホールに入るんだけど、ロビーにいた人影が動いたのを僕の目の端がとらえた。どこかでも見た覚えのある、嫌な気分が蘇る。

「おかえりなさい、三條さん」

 振り返るのを躊躇した。聞こえないふりを決め込んでオートロックの向こう側に行ってしまうのもありだ。
 そのわずかな逡巡がわかったのか、そいつは慌てて歩を詰めてきた。

「逃げないで、三條さん。いや、評判になってますね、ドラマ。私のおかげでもあるのでは?」

 僕は大げさにため息をつき振り返る。ショルダーバックを肩にかけ、スマホを片手に持つジャケットの男。真壁さんが作り笑顔を貼り付けて立っていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...