28 / 111
第27話 電話
しおりを挟む翌朝、いつもと変わらない様子で晄矢さんが一階に下りて行った。偽りの同棲? 生活六日目。そろそろお兄さんから連絡ないかなと思う。
「ばあちゃん、元気にしてる?」
ばあちゃんが電話に出た途端、僕はつい大きな声を出してしまった。
『元気だけど、あんたの方が元気そうだね。いいことだ』
なんて言われた。僕は今、ちょっと変わったバイトをしていることを告げた。だから学生用アパートにはいないことを。
詳しいことはさすがに話せなかったけど、ばあちゃんは僕の異変? に気付いたか。
『なんだか声が弾んどるね。あんたのことじゃから心配はしとらんが』
ふふっと笑うような雰囲気が感じられる。やっぱりバレてんのか。
「ばあちゃん、あのさ」
『なに?』
「昔、僕に言っただろ。『どんなに貧しくても体を売ってはいけない』って。それは魂を売ることになるって」
ばあちゃんは少し考えるような間を作った。
『さあねえ、覚えてないけど……』
覚えてないんかいっ!
『でも言っててもおかしくないね。あんたが一番安易に金を稼ぐ方法だったろうから。なに、買いたいって言われたんか?』
そんなことは何度も言われてきたけど、今は違う。
「何というか……男の人に迫られてるっていうか……」
迫られてないともいうけど……どっちなんだ。少しの間。そして耳をつんざく笑い声が僕を襲った。
『キャアハハハッ! いやあ、これは傑作だ』
「なにが傑作なんだよ。そんなに笑わなくても」
『いや、あはは、ごめんごめん。あんたも年頃なんだもんねえ。でも、あたしは嬉しいよ。あんたが好きだのなんだのって話ができるようになってさ』
岐阜にいたころは、生活することで精いっぱいだったのがとても心配だったとばあちゃんは言った。
けど、大学生になれば、そういう浮いた話もあるかもと期待をしてたんだそうだ。
「でも、相手は男の人だよ」
『男だってなんだっていいんだよ。心を動かされる相手が出来たんなら』
「だけど、その人、僕のこと好きかどうかわかんないんだ。だから……」
だから? だからなんだよ。僕は何を言おうとしてるんだ。
『その相手がおまえを好きかどうかじゃなくて。おまえが相手を好きかどうかだろ。まずはそっからだろうが。ま、それはもう決まってんのか』
「き……決まってないっ! た、多分」
またククッと笑いをこらえる声が聞こえる。
『決まっとるが。その人がおまえを好きかどうか気になって仕方ないんだからな。心配すんな。相手はあんたに惚れてるよ』
「そう……かな」
なにが『そうかな』だよっ。ばあちゃんのペースに載せられて、僕は自分も気付かなかったことまで吐露してるみたいだ。
『まあそれはそれとして。あんたには人を見る目があると信じとる。でも、恋はその目を狂わせるからねえ』
恥ずかしいな、おい……。七十代の人が言うセリフか。
「恥ずかしいよ、もう。あ、でも……ありがとう、ばあちゃんと話したらモヤモヤしてたのいくらか晴れたよ。その人のことが好きかはともかく、ばあちゃんの教えを胸に頑張るよ」
勉強も頑張りんよ。とか言われてスマホを置いた。なんだかどっと疲れた。
「今の……誰と電話してたんだ?」
突然降って来た声。ハッと顔を上げると、部屋の扉を開け、ダークグレーのスーツを纏った晄矢さんが立っていた。
82
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。
黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。
※このお話だけでも読める内容ですが、
同じくアルファポリスさんで公開しております
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
と合わせて読んでいただけると、
10倍くらい楽しんでいただけると思います。
同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。
魔法と剣で戦う世界のお話。
幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、
魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、
家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。
魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、
「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、
二人で剣の特訓を始めたが、
その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・
これは病気か!?
持病があっても騎士団に入団できるのか!?
と不安になるラルフ。
ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!?
ツッコミどころの多い攻めと、
謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの
異世界ラブコメBLです。
健全な全年齢です。笑
マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。
よろしくお願いします!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる