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第28話 恋バナ
しおりを挟む一体いつからそこに居たのか。僕は晄矢さんが階下に降りたのを確認してすぐ、ばあちゃんに電話をした。一度降りたのに戻って来たのか?
「ああ、ええっと……どこから聞いてた?」
僕は恐る恐る聞いてみる。別に城南家の悪口を言った覚えはないけれど、いや、むしろその方がよかった。
「あれ、俺の悪口でも言ってたのか? いや、最後の『じゃあ、体に気を付けて』ってぐらいだよ」
ああ、そうかあ。良かったぁ。安心のあまり、僕は思わずそこに膝から崩れそうになった。だがそれではあまりに怪しすぎる。自分で悪口言ってたとバラす行為だ(実際は悪口言ってないが)。
「相手はばあちゃんだよ。最近電話してなかったから。悪口なんてまさか。あ、でも、あまりに世界が違うって話してて。大げさに聞こえたかもと思ったんだよ」
それも間違ってない。風呂付の部屋とか、夕食はフレンチなんだとかも話していた。
「ああ、そうか。おばあさん、元気だったか?」
「うん。お陰様で」
「それなら良かった。あ、俺、ネクタイ汚しちゃって……」
言われてみればネクタイをしていない。晄矢さんは寝室のクローゼットに走る。とにかく事なきを得たみたいで良かった。
晄矢さんは光沢のあるグレーのネクタイを締めながら戻って来た。淡いブルーのシャツによく映えてるよ。
「じゃ、行ってくる。モヤモヤが晴れて何よりだよ」
チャッと敬礼するみたいに右手を額のあたりにかざし、笑顔を残して去っていった。
――――聞いてたんじゃねえかーっ!
僕がそのあと、一人悶絶したのは言うまでもない。
しかし……聞かれてしまったのは仕方ない。ばあちゃん相手に恋バナしてたのがあまりにも恥ずかしいが、決定的なところはわからなかったはずだ。多分。
それに……これで晄矢さんのホントのところがわかったらそれはそれで……いいかも。
こんなに人の気持ちが気になったのは初めてだ。他人が自分のことどう思ってるかなんて、考えたこともなかったよ。
正直好意を持たれるのは面倒でしかなかった。告白される度に、傷つけるってわかってるのに無下にするのは嫌だったよ。
だけど、ばあちゃんが期待を持たせちゃだめだって言ってたし。
――――ばあちゃんに電話してわかったよ。僕は、晄矢さんがどう思ってるか気になって仕方ないんだ……。
くそぅ! もうすぐ試験があるんだ。こんなことで悩んでる場合じゃないよっ。今日は大学は二時限目からだし朝食をさっと食べて勉強しよう。
僕はせっかっく晴れたモヤモヤをまたもや抱えることとなってしまった。試験勉強は、それを払しょくしてくれるかなあ……。
いや、僕は給付型の奨学金を貰ってるから、成績を落とすわけにはいかないんだ。やるしかない。
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