【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺

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第77話 オフィスラブ

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 真昼間のオフィスビル。絨毯が敷かれたバスルームで、僕はあられもない姿になってる。目の前に洗面所の鏡があるけど、それを今、直視できない。

「あ……ああっ……」

 腰の位置には晄矢さんの茶系の髪が揺れてて、僕の指はそのサラサラの髪を梳くように這わしている。
 キスで始まった僕らの再会は、それだけで済まなくて……。

「あっ! んんっ!」

 僕は晄矢さんの頭ごと抱きしめる。もう立っていられなくなって、崩れるように床に膝をついた。

「どうだった?」

 目の前に、いたずらっ子のような顔をした晄矢さんがいる。どうだったって、どう言えばいいんだよ。

「し……刺激が強すぎるよ……」
「え? ははっ。確かに」

 晄矢さんは鏡の前、慣れた手つきで着衣や髪の乱れを直すと、僕に場所を譲ってくれた。僕もそそくさと恰好を元に戻す。
 今日はスーツでなくて良かったかも。でも、晄矢さんはスーツでも平気なのね。上着はいつの間にか脱いでた。

 バスルームにはハンガーラックもあるから、着替えも出来るようになってる。なんか、こういうことのためにあるのかと疑ってしまうよ。

「これも社会勉強だな」
「こんな勉強はいらないよっ!」

 いつだったか、晄矢さんのお父さん、祐矢氏に言われたことがあったっけ。『いろいろ勉強してもらわんとな』。まさかこういうことも含まれるんじゃないよね?

「ああ、すっきりしたな。じゃ、仕事するか」

 ほんとにスッキリしたような笑顔だ。僅か20分足らずのことでも僕はものすごく疲れた。経験値の差なんだろうか。思うところあったけど、仕事はしなくては。ふう、と息を吐いて執務室に戻った。


「今日は秘書さんお休みなんだね」
「そう。ま、別のパートナーの秘書が掛けもってくれるから平気だ」

 晄矢さんがどすんと音を鳴らして椅子に座る。僕用の事務机はその隣にまだあった。なんだかやっぱり嬉しい。
 その後は気だるさを感じる暇もなく、次から次へと出されるデータ処理の作業に、暗くなるまで忙殺された。



「今日はここまでにしておこうか」

 気が付くと、もう窓の外は夜の世界だ。周りのビルや車のライトが綺麗。

「このあと、なにもないだろ? どう、我が家へ来ないか?」

 晄矢さんは、サクサクと事務机の上を片づけ、上着を着こんでる。

「え? マジで言ってる?」

 我が家、つまり城南家に行くってことだ。僕はあの日、誰にも挨拶せず、あの家を出てしまった。祐矢氏や陽菜さんはもちろん、立花さんや三条さん、二宮さんにだってあんなにお世話になったのに……。

 ――――ものすごく行きづらい。

「マジさ。涼が来るとき電話してたの。あれ、立花だよ。夕食準備しておいてくれって頼んでおいた」
「ええっ!」

 そうか。『来ないか?』なんて誘ってる風で実は拒否できないようになってるんだ。

「そうだね……こればっかりは逃げててはダメだね」

 ちゃんと顔を合わせてお詫びとお礼を言おう。敷居を高くしてしまった城南邸だけど、機会を与えてもらったことに感謝するべきだな。

 ――――それに、シェフの料理食べるの、やっぱり嬉しい!

 絶賛節約料理の日々、僕の正直な気持ちだった。


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