【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺

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第82話 居酒屋での一幕

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 晄矢さんが僕のバイト先、『紅の舞』を訪れたのは今年の冬、2月のこと。特別講師で講義した打ち上げで、教授を始め、助手や院生、学生たちと飲んでいたらしい。

 ――――まあ、あの居酒屋に晄矢さんが好き好んで行くわけないよな。

 大学の連中が使うような安くて旨い店なのだ(旨さはそれなり)。とにかくそこで給仕する僕を見かけたと。

 宴もたけなわ、助手の先生が日ごろの教授へのうっ憤が溜まってたのか、いい気分の教授に食ってかかったらしい。
 晄矢さんは外部の人間だし、生温く見守ってたんだけど、一触即発になり仕方なく仲裁に入ろうとした。

「その時、涼がさっと割って入ってきたんだよ」
「え……僕?」
「そ。涼がさ、助手に何やら囁いたんだ。それからにっこり笑って『どちらも割に合いませんよね』って。俺はそれでピンときた。このバイト君は法学部の学生なんだって」

 ああ。なるほど。確かにそんなことがあったような。あれは榊教授ではなく、別の法学部の教授だった。あまり評判も良くない人だったから、助手の人がストレス溜めるのも仕方ないかもって思ったんだ。

『刑法208条と204条。このままだとそうなりますが、どちらにしますか?』

 僕はその時そう言った。暴行罪か傷害罪かってこと。法学部の人間なら、それで一度に目が覚めるはず。
 予想通り、助手は大人しくなった。僕は教授にもお酌しながら同じようなことを言ってその場を収めた。

「あの場に、晄矢さん、いたの?」

 ちゃんと覚えているわけではない。結構人数いたし……。

「そう。それでめっちゃ気になってさ。見た目も俺のタイプだったし」

 そんなことは聞いてないぞ。

「で、まあ。自分の調査員を使って……」
「なっ! プライバシーの侵害だっ!」
「ごめん、ごめん。それはとっても謝る。でもほら、企業の就職だって、そういうことはするよ?」

 晄矢さんは僕の素性を調べ、可能であれば城南法律事務所でバイトとして雇おうと考えたと言った。ほんとかよ。

「だってほら、法学部生なら、居酒屋よりずっとためになるだろ?」
「それは……そうだけど……」

 結局、僕が2年生だと知り躊躇したが、苦学生だとわかってからは、どうにか援助できないか考えていたと言う。

「援助交際とかじゃないだろうね」

 僕は冗談めかして言ってみる。

「え……あれ、いや」

 考えてたのかよっ!

「そこにまあ、親父とのことがあってね。売り言葉に買い言葉になったけど。俺の頭の中には、おまえのことしかなかった」

 僕の手をもう一度握り、じっと目を見つめてくる。思いを載せた熱い目。心臓が忙しなく胸を叩く。
 僕は思うこと色々あったはずなのに、それを全部忘れてしまった。
 

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