86 / 111
第85話 菜々子さん
しおりを挟む『明日は午後から事務所行くから、朝はゆっくりだ』
やることやった(言い方が露骨)深夜零時。晄矢さんは、バスタブの中で満足そうにそう言った。僕は十時からバイトだよ。
というわけで、まだ爆睡する晄矢さんをベッドに残し僕は一階に下りた。立花さんには八時出発をお願いしてる。
「おはようございます。相模原様、朝食のご準備できてます」
おっと二宮さんだ。彼女は昨夜いなかったな。
「おはようございます。先日は色々お世話になったのに、黙って帰ってしまって……」
「いえ。私はなにも。それより……本当に出て行かれたので驚きました」
彼女は僕に、『自分なら、石に噛り付いてもこのポジションを守る』と言ったのだ。
「んー。まあ僕は、もし実力が見合ってても、城南法律事務所に所属する気はないからなあ」
「でも晄矢さんとはお別れにならなかった」
「そういうことだね……それは僕もある意味驚いてるけど……あ、でも朝食って頂いていいのかな」
「もちろんです。相模原様はお客様なのですから。ちょうど菜々子様も召し上がってますよ」
あ、そうなんだ。昨日は全く話せなかったから、少し話したいかも。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく頂きます」
二宮さんに関しては、ちょっと当たりが怖かったけど、思った以上に普通で安堵した。僕って本当に小心者だな……。
「菜々子さんは、輝矢さんとどこで知り合ったんですか? あ、もちろん差し支えなければ」
朝の挨拶を交わし、大学の話なんかしてから僕は尋ねてみた。気になってはいたけど、普通に世間話のつもりだ。
「はい、大丈夫ですよ」
夏休みだから祥一郎君も家にいる。ただ、彼は既に食べ終えて、リビングでテレビを見ていた。
菜々子さんは、輝矢さんより少し年上とのことだったが、若々しい人で二十代と言われても無理はない。水色の涼やかな、ノースリーブワンピースを着ていた。
「輝矢さんとは、私が巻き込まれた事件のことで知り合いました」
「ああ、そうなんですか。それは……」
ありそうなのに考えてもいなかった。これは迂闊だったかな。菜々子さんはなにかの事件の被害者だったのかもしれない。
「私というか……前の主人なんですけどね……交通事故……即死事故だったんですが」
――――えっ? なんて?
「加害者が主人に過失があったと言い出して……保険会社に紹介いただいたんです」
ちょっと待て……菜々子さんはバツイチじゃなかったのか? ご主人、亡くなってるの!? これは一体、どういうこと!?
何か言わなきゃいけない。でも僕は混乱のため、受け答え不能に陥ってしまい、意味なく口をパクパクさせるだけだった。
58
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。
黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。
※このお話だけでも読める内容ですが、
同じくアルファポリスさんで公開しております
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
と合わせて読んでいただけると、
10倍くらい楽しんでいただけると思います。
同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。
魔法と剣で戦う世界のお話。
幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、
魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、
家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。
魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、
「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、
二人で剣の特訓を始めたが、
その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・
これは病気か!?
持病があっても騎士団に入団できるのか!?
と不安になるラルフ。
ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!?
ツッコミどころの多い攻めと、
謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの
異世界ラブコメBLです。
健全な全年齢です。笑
マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。
よろしくお願いします!
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる