追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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いざりゅうぐうじょうへ!

「でも姉上、乙姫羽衣のスペックなら理論上勝てます」

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 ドアを開けて入ってきたのは、アーロドロップを少し成長させたような、美しい銀髪碧眼の少女だった。お揃いの乙姫羽衣の胸元には、分厚い辞書を開いたような意匠の金色のバッジが光っている。
 顔立ちは凜々しく、しかし瞳や唇の雰囲気はどこか子供らしい印象が残る。慶汰の感覚で、年齢感の第一印象は同い年か年上という印象だ。

「――あら? アロップの王子様はお目覚めになられていたようですね」
「ですからそういうのじゃないです、姉上!」

 顔を真っ赤にして早口で抗議するアーロドロップを横目に、そういえば姉がいたんだと思い出して、慶汰は名乗った。

「はじめまして。浦島慶汰です」
「キラティアーズ・マメイド・マリーン乙姫第一王女です」

 今さらながらにベッドに座ったままというのは無礼だろうかと掛け布団をめくるが、歩み寄ったキラティアーズがそっと直した。

「そのままでよろしいですよ。妹から経緯の大筋は聞いております。このたびは妹を救ってくださって、本当にありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでですから……」

 キラティアーズの礼儀正しいお淑やかな振る舞いに、慶汰は背筋を伸ばす。

「見たところ年齢もわたくしとそう離れていないようですが、おいくつか伺っても?」
「俺は十六歳です」
「まあ。ご一緒でしたね。それは嬉しい」

 にこりと微笑むキラティアーズ。一方で、椅子に座っているアーロドロップは、慶汰を見つめて目をしばたたかせている。

「……年上だったの?」
「アロップには俺がいくつに見えてたんだ? つか、今まで気にしてなかったけど、アロップはいくつなんだ?」
「もうすぐ十四歳よ。慶汰は同い年か年下くらいに思ってた」
「俺、そんな高校生感ないか……?」

 アーロドロップほどかけ離れた予想はしていなかったが、慶汰としてもアーロドロップはもう少し歳が上だと思っていたので、正直驚いている。

「アロップ。年上だと知ってその言葉遣いはなんですか」

 姉に窘められたアーロドロップは、ばつが悪そうに唇を尖らせた。

「だって今さらですし……」
「まあ、いいじゃないですか、キラティアーズさん。正直俺も、今さら敬語を使われてもって感じですし」

 キラティアーズは溜息を吐いた。それがあまりに様になっていて、慶汰は彼女に苦労性な印象を抱く。

「慶汰さん、妹をあまり甘やかさないでいただけますか? この子はいくらなんでもお転婆が過ぎます」
「あー……まあ、けっこう……だいぶ……」

 慶汰は懐かしむように、思い出を指折り数えて語った。出会い頭に首に鉄扇を突きつけられたことや、鎌倉駅前で初対面の男性相手に喧嘩を売るような態度だったこと、仕方ないとはいえ海保を騒がせ、サメと戦っていたことなど、いざ振り返るとたった四日間で枚挙にいとまがない。
 そもそも慶汰と出会ったきっかけだって、モルネアに自我を持たせて目を離したら軍の兵器を起動させた――なんて話だったはずだ。

「ちょ、慶汰! そこは普通やんわりと否定しておくところでしょ!?」

 アーロドロップが頬を引きつらせる一方で、キラティアーズは信じられないと言わんばかりに顔から血の気が引いていた。

「ホホジロザメと戦った……!?」

 慶汰がすかさず質問の挙手。

「あの、海底の方々ってサメとあたりまえのように渡り合えるってわけじゃ……」
「そんなわけないじゃないですかっ! アロップ! 貴女という人は! なんと無謀極まりないことを! 死んだらどうするんですかッ!」

 キラティアーズがずいっと妹に迫り、アーロドロップはそのあまりの迫力にのけぞった。

「でも姉上、乙姫羽衣のスペックなら理論上勝てます」
「そのスペックで逃げるのです! どうして戦っちゃうんですか!」

 慶汰は苦笑を漏らす。龍脈術の超常的な力と、乙姫羽衣のビジュアルインパクトが強すぎて、印象の物差しが狂わされていたようだ。

「それは、向こうから襲ってきたからで──」
「貴女は肝が据わりすぎです!」

 姉妹喧嘩がヒートアップしそうな気配を感じ取って、慶汰が割って入った。

「ハハハ……アロップが規格外に強すぎたんですね……?」

 キラティアーズはハッとして、咳払いをする。どこか恥ずかしそうに肩を狭めて、声のトーンを落とした。

「まったくもう、地上人になんという誤解を招いているのですか」
「う、それにつきましては弁解の余地もございません……」

 椅子から立ち、頭を垂れて素直に謝っているアーロドロップが、ちらりと慶汰に抗議の視線を向ける。慶汰はそんな二人を見て、つい微笑んだ。

「戻って来れてよかったな、アロップ」

 アーロドロップの頬が朱に染まり、小さく口をもごもごと動かしたが、なんと言ったのか慶汰には聞き取れない。ただ、少しいじらしげなのが妙にくすぐったくて、慶汰は声を出して笑った。
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