追放されたお姫様はおとぎ話のごとく優しい少年に救われたので恩返しします。

進藤 樹

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老化現象解明の手かがり

「女の子なら……一度は憧れる最高のシチュエーションです~……!」

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 モルネアを玉手箱から出して三日が経った。
 アーロドロップは、シードランのメンバー四人と共に、玉手箱に新たな龍脈術を仕込む実験の最中だ。
 シードランの構成員は、着物こそ自身の普段着だが、制服として、銀色の羽織に袖を通すことになっている。銀の羽織の胸元には、発明王女の称号と同じ、シャンデリアの意匠の刺繍が入っていた。
 入口近くの椅子には、ジャグランドが座っている。

「シューティ。そろそろ殿下のセッティングが終わるようだが」
「わかってるっスよ、計器の準備はばっちりっス」

 金髪の青年は、操作盤に指を乗せて待機。

「あ、終わったみたいです」

 壁際で、足を揃えて姿勢良く立っていた紅い髪の少女が、一歩前に出た。が、そばにいた長身の男が手で制する。

「いいですよ、イリス。扉はボクが開けますから」
「ありがとうございます、レンさん」

 レンと呼ばれた眼鏡をかけた黒髪の男が、龍脈実験室に続く分厚い扉を開くと、アーロドロップが出てきて手を挙げる。

「ひとまず、発煙の龍脈術をセットしたわ。シューティ」

 そう言って、アーロドロップは強化ガラスの前で仁王立ちした。見つめるガラスの先、龍脈実験室は無機質な鉄の密室になっており、中央の作業台に載せられた玉手箱以外に余計なものなど一つもない。

「ウィッス。計測準備できてるっス」

 シューティがタタンと操作盤を弾くと、天井付近に設置されているディスプレイで、モルネアのアバターがくるりと踊った。

〈検査開始~!〉

 それから数十秒したところで、強化ガラスの向こう側で、ぼこんと鈍い小爆発が起こる。玉手箱の蓋が開いて、湯気のように透明な熱が少し上った。

「ご覧の通り、不発っスね……計測しようもないっス。この手のテスト用術式が不発となると、もう検体が特殊すぎるってことしかわかんないっスよ」
「ああもう、なんでうまくいかないのよ!?」

 すかさず、イリスもシューティもレンもジャグランドも、静かにお互いの顔を見やった。
 口火を切ったのは、ディスプレイに表示されているモルネアだ。

〈最初に仕込まれた龍脈術がなんなのかわかってないんだから、他の術式がうまくいくわけないじゃん〉
「だからテスト用の術式で特徴を絞ろうとしてるのよ……」

 龍脈術はデリケートなので、道具で発動する場合、その道具を作る段階から発動する龍脈術に適した加工を施すのが一般的だ。結果、道具一つひとつに癖が出る。
 その癖を把握しないと、別の龍脈術の道具にはできないのだ。

「殿下。もう一度、一二〇〇年前の出来事について調べてみませんか……?」

 イリスが小鳥のようにきれいな声で提案する。彼女の意見を後押しするように、シューティが続く。

「テスト用の龍脈術もそれなりに試してきたっスけど、これまでの結果からもまるで手がかりが得られなかったんスよ? 地道な調査が、もう少し必要じゃないっスかね」

 不満そうにアーロドロップが渋面を浮かべると、そばに控えていたレンが、眼鏡の奥の瞳を糸のように細めたまま首を傾げた。

「そのご様子……もしや、なにか急いでいらっしゃるのですか? 事情があるなら、我々にもご相談いただければ――」

 イリスとシューティが「あ、それは」とハモったことでお見合いしてしまう。
 ジャグランドだけが、居心地悪そうに両眼を閉じた。

「みんな、ごめん。ちょっと風浴びてくるわ。十分休憩にしましょ」

 アーロドロップは持て余すほどの衝動に耐えられず、早足に部屋を出て行ってしまう。
 取り残された四人は、しばらく気まずい沈黙を過ごし……レンが他三人の顔を見やった。

「どうやら僕、まずいことを言ってしまったようですが……皆さんはなにかご存じで?」

 すると、イリスが恥じらうように頬を染めながら、「どうぞ」と手をシューティに向ける。
 シューティは、言いづらそうに苦笑した。

「こないだの、玉手箱窃盗事件。レン先輩に犯人二人の身柄を任せて、オレとイリスと殿下の三人で、犯人を追いかけたじゃないっスか」
「既にジャグランドさんが現場にいて、犯人を捕まえていてくれたのですよね」
「まさにその現場に、例の地上人も居たんスよ。ウラシマケイタ君、でしたっけ?」
「はぁ。詳しい状況までは聞き及んでいませんが……そこでなにが?」
「ちょうどオレらが薬事院に駆けつけた時、犯人が殿下を貶す暴言を叫んでて……慶汰君が、めちゃくちゃ男前に怒ってたんスよ。それ聞いて、よほど嬉しかったんでしょうね。殿下は顔を真っ赤にして飛び出しちゃって……。あんな可愛い殿下、初めて見たっス」

 イリスは瞳をとろけさせて、左サイドで結んだ自らの紅い髪を撫でる。

「しょうがないですよ、ただでさえ命の恩人同然の存在なのに……あんなことまで言われたら、誰だってときめいちゃう……!」
「オレも惚れ惚れしたっスけどね。ありゃ真似できねぇっス」
「まさか殿下は、地上の男に恋したというのですか……!?」

 レンはズレた眼鏡の位置を直して、ジャグランドに目を向けた。
 だが、一番の年長者は、未だに腕を組んだまま目を閉じて、会話に参加しない構えだ。太い眉毛がぴくぴく動いているところからして、どういうスタンスで接するべきなのか決めかねているのだろう。

「……それで、どうなったのですか?」

 すると、シューティもイリスも、さっと照れるように顔を背けた。

「それが、オレたちが割って入れるような空気じゃなくて……そうこうしているうちに、慶汰君が殿下を、龍迎祭デートに誘ったんス」
「女の子なら……一度は憧れる最高のシチュエーションです~……!」

 レンは絶句した。
 男が龍迎祭に女性を誘う。
 それは、竜宮城で生まれ育った人なら誰でも知っている、告白の王道だ。
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