【完結】どくはく

春風由実

文字の大きさ
3 / 28

父の言い訳①

しおりを挟む
 そんなつもりはなかったんだ。

 私はただ……家庭内を平和に保つため。そして家の繁栄のために。
 伯爵家の次期当主ではとても頭の上がらない良家の娘だった妻の心を労わってきただけ。


 妻とは、はじめから断れない結婚だった。

 伯爵家の長男として生まれた私は、早いうちに妻を娶らねばならないことは分かっていた。
 それでもあの頃の私は、まだしばらくは自由であることを望んでいたのだ。
 将来の伴侶となる人を自分で選びたかったから。

 妻となる人は、この先の多くの時間、共に過ごすことになる。
 貴族は政略結婚が基本だとして、個人の相性というものは無視出来ない。
 夫婦の相性悪く、数年後に離婚となる貴族の夫婦は、意外にも多くいた。
 それで両家の関係が悪化して、結婚前より大変なことになっている家もあるくらいだ。
 ならばと出来るだけより良く付き合えそうな相手を、私は自分の意思で選びたかった。

 両親はそんな私の気持ちを理解して、相手としてどうかという話を持って来てくれることはあっても、婚約自体を無理強いすることはなく。

 幸いなことに当時の私も次期伯爵家当主だったから、当主夫人になりたい令嬢は多くいて、将来の相手に事欠くことがない。
 何も焦る必要はなく、たとえ同世代の令嬢たちの婚約がすべて調ととのってしまっても、それなら対象となる令嬢の年齢を少しずつ下げていけばいいだけ。
 政略結婚において、歳の差はさほどの問題にならない。


 そんな風にして、次期伯爵として社交界によく顔を出し、様々な家の令嬢たちと出会うよう過ごしていたある日のこと。

 公爵家から声を掛けられてしまった。

 気乗りはしないものの、公爵家からの話は無下には出来ない。
 顔合わせをして、無理そうだったときにはどう断ればいいか。両親とは事前によくよく話し合っていた。

 それで迎えた顔合わせの当日。

 厳しいことで有名なあの女公爵の娘とは思えない、コロコロと表情を変えよく笑う令嬢に、私はすっかり毒気を抜かれ、気を許してしまったのである。
 つまり会話が弾んだ。

 相手は是非に婚約したいと言ってきた。

 高位貴族家の令嬢なんて迎えてしまっては、色々と口出しされて面倒なことになるのでは?と警戒し悩む私に、両親が助言をくれた。


『夫婦の立ち位置というものは、惚れた方が常に下になる』


 そうか。すっかり惚れさせて、こちらの意に沿わぬ振舞いをしないよう躾ければ良かったのか。

 両親の説明に納得した私は、令嬢との仲を深めることにした。
 何より公爵家との繋がりを手離すのは惜しかったのだ。

 そうして結んだ婚約。

 最初の頃は私の方に打算が多くあったかもしれないが。
 意外にも私たちの仲は良好で、いい関係を築けていたように思う。

 怖れていた公爵家からの干渉もなく、いつの間にか彼女のことは、好ましい人として映っていた。
 彼女とならば、この先も楽しく生きていけそうだと、希望まで抱けていたんだ。


 それも妻の言動がおかしくなる、あの日までのこと──。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

【完結】重いドレスと小鳥の指輪【短編】

青波鳩子
恋愛
公爵家から王家に嫁いだ第一王子妃に与えられた物は、伝統と格式だった。 名前を失くした第一王子妃は、自分の尊厳を守るために重いドレスを脱ぎ捨てる。 ・荒唐無稽の世界観で書いています ・約19,000字で完結している短編です ・恋は薄味ですが愛はありますのでジャンル「恋愛」にしています ・他のサイトでも投稿しています

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

決めるのはあなた方ではない

篠月珪霞
恋愛
王命で決まった婚約者に、暴言を吐かれ続けて10年。 逃れられずに結婚したカメリアに、実はずっと愛していたと言われ。

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

瓦礫の上の聖女

基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。 もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。 「イリエーゼ!これで終わりだ」 「…ええ、これで終わりですね」

処理中です...