御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第7章 初めての喧嘩と仲直り

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しばらくして、律さんの帰りが遅くなることが続いた。

「取締役会議があるんだ。」

そう言って、ネクタイを緩めながらため息をつく彼の姿を見て、私はふと胸がきゅっとした。

取締役――それは、株式を名乗る会社ならどこでも通る道。

だけど本来、律さんのような若い部長が直接関与することはないはずだった。

「本来なら取締役じゃないから関係ないと思うんだけど、御曹司っていう立場だから、書類作成とか、会議の中身にも目を通さないといけなくて。」

律さんは淡々とそう話したけれど、その目は少しだけ疲れて見えた。

その瞬間、改めて私は気づかされた。

──律さんは、ただの優しい夫なんかじゃない。

彼は大企業・神楽木フォールディングスの御曹司であり、その名に恥じないように、日々努力し続けている人なんだ。

家では穏やかに笑い、私を甘やかしてくれるけれど、仕事の場では、それだけの重圧を背負っている。

「……無理、しないでね?」

私がそっと言うと、律さんは微笑んで、私の髪を撫でた。

「千尋がいるから、大丈夫。……でも、もう少しだけ、頑張らせて。」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

私はこの人の隣にいて、支えたい。そう思った。

でもそのうち、律さんの帰宅時間はどんどん遅くなっていった。

20時を過ぎ、21時を超え、ついには22時を回る日が当たり前になっていった。

「ねえ、いつまでこの状態が続くの?」

 思わず口にしたその言葉は、責めたかったわけじゃない。

 ただ――寂しかった。

律さんが帰ってくると、軽く夕食を口にしてシャワーを浴び、そのままベッドに倒れこむ。

スキンシップどころか、会話もままならない。

隣にいるのに、どこか遠い人。

あんなに優しかった律さんが、日に日に私の知らない顔になっていく気がして怖かった。

「……ああ、もう少しだから。」

そう言ったまま、律さんは静かに寝息を立てた。

その寝顔を見て、私も何も言えなくなった。

――頑張ってるのは、わかってる。

でも、私の中の不安と寂しさは、日に日に膨らんでいくばかりだった。

そして、近づいてきた私の誕生日。

結婚して初めて迎える誕生日だったから、どうしても律さんと一緒にお祝いしたかった。

夕食の時、思い切って声をかけた。

「ねえ、来週の18日。時間、空けてくれる?」

律さんは手元のスマホでスケジュールを確認していたけれど、すぐに小さくうなった。

「うーん……取締役会の直前だから、難しいと思うけど。どうして?」

その一言に、私は思わず固まった。

「……私の、誕生日なの。」

数秒の沈黙のあと、律さんの顔に、バツが悪そうな表情が浮かぶ。

「……マジか。」

思わず胸の奥がズキリと痛んだ。

律さんのその言葉には、間違いなく葛藤があった。

――妻と、仕事。
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