御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第8章 遅れた新婚旅行

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「だってさ、全部千尋がかわいいせいでしょ?俺、今、世界中の誰より幸せそうな顔してるから。」

「もう、そうやって甘いこと言って……!」

顔がまた熱くなる。けれど、嫌じゃない。

むしろ、何度だって聞きたくなる。

私がまた笑うと、律さんも目を細めて笑った。

まるで、水の中にとろけるみたいな、優しい夜。

波の音と笑い声だけが、ずっと響いていた。

そして私はブルっと体が震えて、くしゃみをした。

「体、冷えた?」

律さんが私を連れて、プールから引き上げる。

「部屋に帰ろう。」

「そうだね。」

うんと頷くと、律さんが私を抱きかかえた。

「ひゃっ、ちょ、ちょっと律さん!」

私は慌てて律さんの首にしがみついた。

「びっくりした?でも、こうすれば少しは温かいでしょ?」

そう言って律さんは、濡れた私の身体を優しく抱えたまま、プールサイドを歩く。

周囲の人がちらちら見てくるのが恥ずかしくて、私は顔を埋めた。

「もう……恥ずかしいよ、律さん……」

「恥ずかしがる千尋も可愛い。」

さらりとそんなことを言うから、また心臓が跳ねた。

「部屋戻ったら、ちゃんと温めるからね。」

律さんの低くて優しい声に、体の芯から熱くなる。

──濡れた肌に、律さんのぬくもり。

私はぎゅっと律さんを抱きしめた。

律さんの体も、プールで冷えている。

「律さんも、温めてあげるね。」

そう言うと、恥ずかしくて律さんの顔を見れなかった。

「あっ、大丈夫。」

律さんは、明るく否定する。

「俺、千尋を見るだけで、心も体も熱くなるんだ。」

「もうっ!」

こんなふうに、愛されてるって実感できる時間が、何よりの“新婚旅行”の贈り物だった。
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