御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第9章 理想の夫婦

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「……律さん、もしかして、私のランチまで管理し始めてる?」

「うん。千尋の健康は俺の生命線だから。」

まっすぐに言いきるその目に、言い返す隙もなかった。

「……もう、過保護すぎ。」

「愛ゆえです。」

苦笑しながらサンドイッチを受け取る私の横で、律さんは堂々と会議室の空き状況を聞き始めた。

(えっ、まさか社内で一緒に食べるつもり!?)

どうしよう、同僚たちの目が気になる――

でも、それ以上に、こんな律さんが可愛くてしかたない。

恋人みたいなランチタイムに、私はまた少しだけ“甘やかされる妻”の心地よさを噛みしめた。

「7番、小会議場でしたら空きがございます。」

受付の女性が微笑みながら教えてくれた。

――この社の受付、絶対に律さんのこと“要人扱い”してる。

私と律さんは、案内された2階の小会議場に向かうことにした。

ちょうどエスカレーターを上がっていると、反対側から降りてきた滝くんとすれ違った。

「あれ?朝倉さん、ランチ……?」

「会議室で食べるの。」

なるべく何でもない風を装って答えたのに――

隣にいた律さんが、静かに滝くんを“ガン見”。

「……俺、今、睨まれたんだけど。」

「旦那さんだって知らないのよ。ごめんね。」

私がこっそり耳打ちすると、滝くんは納得したようなしてないような顔でエスカレーターを降りていった。

会議室に着くと、律さんはさっそく紙袋をテーブルに置いた。

「じゃあ、食べよっか。」

……と思ったら、そこに出てきたのは――

私が朝、律さんのために作ったお弁当!?

「えっ、それ、持って来たの?」

「うん。今日は千尋と一緒に食べたくて。」

満足げに広げていくお弁当箱。

「じゃあ、サンドイッチは?」

「それは千尋の分。」

何その、完璧に段取りされたランチプラン。

結局この日、私は律さんが買ってきてくれたサンドイッチを、夫の差し入れスープと共にいただくことになった。

隣では律さんが、スープの蓋を開けながら言う。

「こうやって、たまには職場ランチデートもいいでしょ?」

――やれやれ、やっぱり過保護で甘い律さんは、今日も全開でした。

溺愛全開の過保護ぶりは、しばらく経ってもまったく収まらなかった。

その夜、律さんは「ちょっと残業してくる」と言って帰宅が遅くなった。

けれど帰ってきた彼は、どこか落ち着かない様子で、玄関からずっとそわそわしている。

「どうしたの?」

夕食を並べて声をかけると、律さんは椅子に座ったものの、すぐに立ち上がってウロウロ。

ふと見ると、彼の手に何か小さな箱が握られていた。

「なにそれ?」

私は思わず、律さんの手からその箱をひょいっと奪った。

「あっ、それ……!」

彼の慌てた声を聞いた時にはもう遅い。私は蓋を開けた。

中には、小ぶりで華奢な――でも、どこか華やかな雰囲気のあるピアスが入っていた。

「……ピアス?」
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