御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第9章 理想の夫婦

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「どこまでが俺の肌で、どこからが千尋の肌か、分からない……」

汗ばんだ肌が絡まり、境界線が曖昧になっていく。不思議な感覚。まるで、本当に二人で一人になったみたい。

「千尋は、俺の半分だ。」

律さんの頬に手を添えると、その体温がじんわり伝わってくる。

「千尋がいて、俺がいる。」

ああ、この人が愛おしい。

どうしてこんなにも、心まで求められるんだろう。

「欲しいの……律さんが。」

私の言葉に、律さんの瞳が熱を帯びる。

「……いくらでもあげるよ。俺の全部、千尋のものだよ。」

そう囁いた瞬間、深く貫かれる。

「……んっ……」

私の中を律さんが満たしていく。

その動きが、言葉以上に、彼の“すべて”を感じさせた。

愛してる、なんて言葉だけじゃ足りない。

今この瞬間、私たちは確かに一つになっていた。

そして私は──
最近、仕事中にぼーっとしてしまうことが多くなった。

「朝倉さん、手が止まってますよ?」

背後から、滝君の声。背中を軽く叩かれ、ハッとする。

「……うん、ごめん。」

頭を振って我に返るけれど、すぐに昨夜の記憶がよみがえる。

──律さんに、抱かれた夜。

最近の律さんは、まるで付き合いたての恋人のように、毎晩私を求めてくる。

しかも、一度だけじゃ終わらない。

何度も、何度も、私を抱きしめ、愛を囁き、身体の奥まで熱を注いでくる。

「千尋、愛してる。」

その一言が胸に落ちるたび、私は全身が律さんの熱で満たされていく。

……だから、昼間の私は使い物にならない。

こんなにも愛されて、こんなにも求められて。

私はもう、夜の律さんに囚われている。

思い出しただけで、頬が熱くなる。

「朝倉さん……顔、赤いですよ?」

滝君の不思議そうな声に、私はさらに焦った。

──律さん、お願いだから、もう少しセーブして。

でないと私、本当にダメになっちゃう。

「もしかして……旦那さんと、あまり上手くいってないとか?」

滝君が、ちょっと気を遣うような声で聞いてきた。

「むしろ逆。」

私は間髪入れずに答えた。

そして、ふわりと笑う。

「律さんと離れていても……律さんが側にいるみたいなの。」

「どひゃー!」

滝君が大げさに叫んだ。

椅子の背もたれに仰け反って、目を丸くする。

「朝倉さんをそこまで骨抜きにした旦那さん、一度見てみたいですねえ。」

私は目をぱちくりと瞬いた。

そして、ふと思い出す。

「だったら……見てるよ。」

「えっ? いつですか?」

「この前、エスカレーターですれ違った時があったでしょ?」

「……ああっ!」

滝君がガバッと立ち上がる。

「もしかして──あのイケメン⁉ あの、すっごいオーラ出してた人⁉」
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