御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒

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第2章 必死の口説きとプロポーズ

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「一緒に住めと言ってるんじゃない。通って、千尋を見てやってくれ。娘がどんな生活をしているのか、自分の目で見て、ちゃんと理解してやってほしいんだ。」

律さんは、ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。必ず、伺います。」

私は思わず父の手を握った。

「お父さん……ありがとう。」

娘を心配し、彼なりに確かめたかったのだと思う。それでも“この人なら任せられる”と思ってくれた。

律さんが忙しいのは知っている。きっと毎日なんて無理だろう。

それでも、彼はこの一週間を、大切に使おうとするだろう。

そう思った瞬間──私は、覚悟を決めた。

この人と結婚する。

この人なら、私の人生を預けてもいい。

そう強く、思えた。

そして翌日。

チャイムの音が鳴った時、私は少しだけ深呼吸をした。

「い、いらっしゃい。」

扉の向こうには、スーツ姿の神楽木律さん。

だけど、どこか仕事モードとは違う、柔らかい表情だった。

「お邪魔します。」

差し出された手土産は、高級店のスイーツ。

だけど私の作った料理を見た瞬間、その目が嬉しそうに細まった。

「うん、美味しい。」

律さんはネクタイを外し、スーツの上着をソファの背にかけると、すっとくつろいだ空気になった。

「仕事ができる人って、料理はあんまり気にしないかと思ってたけど……意外と、ちゃんとしてるんだね。」

「一人暮らしが長いから。自然とね。」

気がつけば、二人並んでDVDを見ていた。

恋愛映画。私が選んだもの。

最初は少し気恥ずかしかったけど──

ふいに、律さんの腕が私の肩をそっと抱いた。

「……!」

ドキッとしたけど、無理やりではなく、守るような優しさだった。

画面の中では主人公たちが愛を確かめ合っている。
でも、私の視界にあるのは──隣の彼の、真剣な瞳。

気づけば、その瞳に映っていたのは、私だった。

「千尋。」

名前を呼ばれただけで、胸が高鳴る。

この人が、夫になるのかもしれない。

ほんの少し前まで考えられなかった未来が、今、目の前にある。

そして律さんは、驚くほど律儀に──

本当に毎日、私の部屋に来てくれた。

「ただいま。」

そんな言葉を言うたび、まるで夫婦みたいだった。

食事をして、テレビを観て、たまにゲームもした。

私の部屋にある、なんてことのない空間が、毎日少しずつ“二人の時間”に変わっていく。

そして7日目。

律さんは私に、そっと一枚の紙を差し出した。

「今日のうちに、書いててほしい。」

それは──婚姻届だった。

名前、住所、捺印。

ただの紙のはずなのに、その重みが指先から伝わってくる。

「まずは、俺が書くか。」

そう言って、迷いなく「神楽木律」と記入する律さん。

「はい、千尋の番。」

ボールペンを差し出されても、私はそのまま固まってしまった。
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