「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

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第九章 セレナの信じる想い ①

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聖女ティアナとの浄化が成功するたびに、カイル殿下への期待は、日に日に高まっていた。

「次代の皇太子は、第2皇子カイル様では──」

そんな声が、いつしか私の耳にも届くようになっていた。

お妃教育を終えたその日、私は迎えに来るはずのカイルを、ひとりで待っていた。

けれど──約束の時間を過ぎても、彼は現れない。

不安になった私は、そっと、宮殿の奥へと足を踏み入れた。

決して、出過ぎた真似をするつもりはなかったけれど。

ただ、カイルの姿を、少しでも早く見つけたくて──。

そして──

静かな回廊の先、開け放たれた部屋の中に、その姿を見つけた。

カイルと、第一皇子クラウディオ殿下が並んで座っていた。

並ぶ二人は、どこか似ていた。母が違うというのに、不思議なほどに。

柔らかく笑ったときの面差しが、特に。

けれど──その笑顔の奥にある空気は、決して穏やかではなかった。

「最近は、皇太子にカイルを推す声が多くなっている。」

クラウディオ殿下がそう言った時、私は思わず立ち止まってしまった。

その声音は、どこか静かで──けれど痛みが滲んでいた。

「何を仰せか。皇太子は兄上が継がれているではないですか。」

カイルの声は、思わず固くなっていた。

兄を敬愛してきたからこそ、その言葉を受け入れがたかった。

けれど──

クラウディオ殿下は、ふっと微笑んだ。

それはどこか、悟った者だけが見せる、静かな諦めの笑みだった。

「俺は──たぶんもうじき、皇太子の座を下ろされるだろう。」

「兄上……」

カイルの呼びかけに、クラウディオは黙って歩み寄る。

そして、弟の肩にそっと手を置いた。

その手に込められた力が、言葉以上にすべてを語っていた。

「その時──次の皇太子になるのは、おまえだ。カイル。」

「……っ」

カイルは、しばらくの間何も言えず、ただ兄を見つめた。

その眼差しには、尊敬と哀しみ、そして戸惑いが入り混じっていた。

「兄上は……どうするつもりなのですか。」

それは、弟としての率直な問いだった。

しばしの沈黙の後──

クラウディオは、空を仰ぐように目を細め、淡く笑った。

「さあな。」

風が、部屋の窓を優しく揺らした。

揺れるカーテンの向こうに、沈みかけた陽の光が差し込んでいた。

その光は、兄弟の影を長く落とし、まるでそれぞれの歩む未来を、静かに分かとうとしているかのようだった。

あの日の出来事が頭から離れず、私はそっと聞いてみた。

「……皇太子、引き受けるの?」

カイルは、窓の外に目をやりながら、ゆっくりと首を横に振った。

「いや。俺には無理だと思ってる。」

その言葉に驚いて、私は息を呑む。

けれどカイルの目は、どこか静かで、澄んでいた。

「聖女の護衛になって、己の未熟さを思い知らされたんだ。……皇太子は、兄上じゃなきゃ駄目だって分かった。」
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