「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒

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第九章 セレナの信じる想い ②

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その声に、迷いはなかった。

むしろ、それは深い尊敬と、自身の限界を受け入れた男の決意に思えた。

「兄は、政治が得意なんだ。本当は、剣術だって強い。ただ……俺の方がたまたま目立っただけで、兄上は皇太子に向かないなんて言われているけど。」

唇を噛んで、カイルは続けた。

「そうじゃない。兄上こそ、この国の未来に必要な人なんだ。俺には分かる。誰よりも近くで見てきたから。」

その言葉には、愛情すらにじんでいた。

兄を超えようとしていたはずの弟が、今はその背を支えたいと願っている──そんな心の変化を、私は感じた。

「……カイル。」

私の中でも、何かが変わろうとしていた。

ただ憧れていた人ではない。

自らの在り方に悩み、誰かのために道を譲れる人。

その優しさと強さを、私は心から尊く思った。

「えっ⁉ 兄上が皇太子の座を自ら辞退した⁉」

急報を聞いた私は、思わず声を上げた。

驚愕する私の隣で、カイルも唇を引き結び、表情を険しくする。

「……兄上が、そんなはずが……!」

慌てて連れ立ち、大広間へと駆けた。

重厚な扉の向こうでは、すでに王とクラウディオ皇太子が対峙していた。

空気が張り詰め、まるで剣を交えているかのような緊張感が漂う。

「クラウディオ、考え直せ!」

国王の声が、石壁に響き渡る。

だがクラウディオ殿下は、微動だにしない。

その瞳は真っ直ぐに父王を見据えていた。

「父上もお気づきのはずです。この国に必要なのは、民の心を掴み、行動で導ける者……カイルこそが、その資質を持っていると。」

「兄上……」

カイルが苦悩の面持ちで前に進み出た。

「兄上、それでも俺は……」

「いいんだ、カイル。」

クラウディオ殿下は優しく微笑んだ。

「俺はもう十分、やった。形式だけの皇太子で、何一つ思うように動けなかった。でもおまえなら、剣を持ち、民とともに歩ける。ティアナも、おまえを信じている。王も民も、皆そうだ。」

「……兄上、俺には……」

「あるさ。おまえには、隣にセレナ嬢もいる。愛する者を守る力がある人間は、王に最も近い。」

クラウディオの言葉に、私は息を呑んだ。

兄の真の愛情と、カイルを導こうとする覚悟がそこにはあった。

国王は、重く深いため息をついた。

「……分かった。おまえの意志、確かに受け取った。」

その瞬間、静寂が流れた。

「だがな、クラウディオ──」

国王の声は、静かでいて力強かった。

その一言で、大広間の空気が再び張りつめる。

「この父は、おまえを“形式だけの皇太子”だと思ったことはないぞ。」

ゆっくりと立ち上がった王は、玉座から降りると、クラウディオの前に歩み寄った。
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