40 / 46
第九章 セレナの信じる想い ②
しおりを挟む
その声に、迷いはなかった。
むしろ、それは深い尊敬と、自身の限界を受け入れた男の決意に思えた。
「兄は、政治が得意なんだ。本当は、剣術だって強い。ただ……俺の方がたまたま目立っただけで、兄上は皇太子に向かないなんて言われているけど。」
唇を噛んで、カイルは続けた。
「そうじゃない。兄上こそ、この国の未来に必要な人なんだ。俺には分かる。誰よりも近くで見てきたから。」
その言葉には、愛情すらにじんでいた。
兄を超えようとしていたはずの弟が、今はその背を支えたいと願っている──そんな心の変化を、私は感じた。
「……カイル。」
私の中でも、何かが変わろうとしていた。
ただ憧れていた人ではない。
自らの在り方に悩み、誰かのために道を譲れる人。
その優しさと強さを、私は心から尊く思った。
「えっ⁉ 兄上が皇太子の座を自ら辞退した⁉」
急報を聞いた私は、思わず声を上げた。
驚愕する私の隣で、カイルも唇を引き結び、表情を険しくする。
「……兄上が、そんなはずが……!」
慌てて連れ立ち、大広間へと駆けた。
重厚な扉の向こうでは、すでに王とクラウディオ皇太子が対峙していた。
空気が張り詰め、まるで剣を交えているかのような緊張感が漂う。
「クラウディオ、考え直せ!」
国王の声が、石壁に響き渡る。
だがクラウディオ殿下は、微動だにしない。
その瞳は真っ直ぐに父王を見据えていた。
「父上もお気づきのはずです。この国に必要なのは、民の心を掴み、行動で導ける者……カイルこそが、その資質を持っていると。」
「兄上……」
カイルが苦悩の面持ちで前に進み出た。
「兄上、それでも俺は……」
「いいんだ、カイル。」
クラウディオ殿下は優しく微笑んだ。
「俺はもう十分、やった。形式だけの皇太子で、何一つ思うように動けなかった。でもおまえなら、剣を持ち、民とともに歩ける。ティアナも、おまえを信じている。王も民も、皆そうだ。」
「……兄上、俺には……」
「あるさ。おまえには、隣にセレナ嬢もいる。愛する者を守る力がある人間は、王に最も近い。」
クラウディオの言葉に、私は息を呑んだ。
兄の真の愛情と、カイルを導こうとする覚悟がそこにはあった。
国王は、重く深いため息をついた。
「……分かった。おまえの意志、確かに受け取った。」
その瞬間、静寂が流れた。
「だがな、クラウディオ──」
国王の声は、静かでいて力強かった。
その一言で、大広間の空気が再び張りつめる。
「この父は、おまえを“形式だけの皇太子”だと思ったことはないぞ。」
ゆっくりと立ち上がった王は、玉座から降りると、クラウディオの前に歩み寄った。
むしろ、それは深い尊敬と、自身の限界を受け入れた男の決意に思えた。
「兄は、政治が得意なんだ。本当は、剣術だって強い。ただ……俺の方がたまたま目立っただけで、兄上は皇太子に向かないなんて言われているけど。」
唇を噛んで、カイルは続けた。
「そうじゃない。兄上こそ、この国の未来に必要な人なんだ。俺には分かる。誰よりも近くで見てきたから。」
その言葉には、愛情すらにじんでいた。
兄を超えようとしていたはずの弟が、今はその背を支えたいと願っている──そんな心の変化を、私は感じた。
「……カイル。」
私の中でも、何かが変わろうとしていた。
ただ憧れていた人ではない。
自らの在り方に悩み、誰かのために道を譲れる人。
その優しさと強さを、私は心から尊く思った。
「えっ⁉ 兄上が皇太子の座を自ら辞退した⁉」
急報を聞いた私は、思わず声を上げた。
驚愕する私の隣で、カイルも唇を引き結び、表情を険しくする。
「……兄上が、そんなはずが……!」
慌てて連れ立ち、大広間へと駆けた。
重厚な扉の向こうでは、すでに王とクラウディオ皇太子が対峙していた。
空気が張り詰め、まるで剣を交えているかのような緊張感が漂う。
「クラウディオ、考え直せ!」
国王の声が、石壁に響き渡る。
だがクラウディオ殿下は、微動だにしない。
その瞳は真っ直ぐに父王を見据えていた。
「父上もお気づきのはずです。この国に必要なのは、民の心を掴み、行動で導ける者……カイルこそが、その資質を持っていると。」
「兄上……」
カイルが苦悩の面持ちで前に進み出た。
「兄上、それでも俺は……」
「いいんだ、カイル。」
クラウディオ殿下は優しく微笑んだ。
「俺はもう十分、やった。形式だけの皇太子で、何一つ思うように動けなかった。でもおまえなら、剣を持ち、民とともに歩ける。ティアナも、おまえを信じている。王も民も、皆そうだ。」
「……兄上、俺には……」
「あるさ。おまえには、隣にセレナ嬢もいる。愛する者を守る力がある人間は、王に最も近い。」
クラウディオの言葉に、私は息を呑んだ。
兄の真の愛情と、カイルを導こうとする覚悟がそこにはあった。
国王は、重く深いため息をついた。
「……分かった。おまえの意志、確かに受け取った。」
その瞬間、静寂が流れた。
「だがな、クラウディオ──」
国王の声は、静かでいて力強かった。
その一言で、大広間の空気が再び張りつめる。
「この父は、おまえを“形式だけの皇太子”だと思ったことはないぞ。」
ゆっくりと立ち上がった王は、玉座から降りると、クラウディオの前に歩み寄った。
240
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる