社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第16話 慰謝料

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「見合いを……断ってくれ⁉」

ああ、芹香のお父さん。

本当に、何も分からないんだなぁ。


「そして私が代わりに、お見合いに行きまして……」

ああ、ここから話すのが恥ずかしい。

親の前で恋の話とか、勘弁してほしい。

「そこで、信一郎さんを好きになってしまったんです。」

「ふん。」

私の話に、芹香のお父さんは、鼻で笑った。

「確かに信一郎君のような男を見たら、誰でも好きになるな。」

信一郎さんに対しての、すごい自信。

余程、信一郎さんの事、気に入ってたのかな。


「そこで、二人で付き合いましょうって話になりまして。」

「君と?信一郎君が?」

悪かったわね。

そりゃあ、お宅の娘さんと比べれば、私なんかへでもないですけど。

「ですが、信一郎さんは私の事を、芹香だと思っていまして。」

「そりゃあそうだ。代わりだなんて、思ってないからな。」

「それで、信一郎さんは芹香さんとお付き合いしていると、勘違いしていたようです。」

話が終わり、こんな事だったら、最初から芹香さんじゃありませんって、言っておけばよかったって思った。

そして、芹香のお父さんを見て、ハッとした。

絶対、怒ってる。

「よくも、ウチの家を掻きまわしてくれたな。」

「ええー!」

「おまえが芹香の代わりにならなかったら、こんな事にはならなかった!」

「それは、そうですけど……」

でも、私は芹香に言われて、行ったんですけど!


「元々黒崎家との結婚は、政略結婚だった。資金調達にお互い納得していた。」


ー この結婚は、政略結婚なんだ -


信一郎さんも、そう言ってた。

「なのに、この結婚を破断にしやがって!慰謝料を請求する!」

「慰謝料⁉」

私とお父さんは、大声を出して驚いた。

「いくら請求するつもりだ。」

「結婚が決まれば、1億の融資が受けられるはずだった。」

「1億⁉」

そんなお金なんて、一生かかっても払いきれない。

まして、工場だって信一郎さんの融資を受けたばかりなのに。

そんなお金、どこからも出ないよ。

「と言っても、払いきれないのは目に見えてるからな。」

「じゃあ、少なくしてくれるのか。」

「5,000万にしてやる。」

半分でも5,000万。

そんなお金、ないんだってばあ!


「どうした?政略結婚が破断になるというのは、こういう事だぞ。」

芹香のお父さんは、ニヤニヤしている。

結婚は破断になって、1億の融資はなくなったけれど、ウチから5,000万取れるって、本気で思ってるんだ。


「芹香のお父さん。」

「なんだ?」

「最初に、芹香がこのお見合いを断って欲しいと言っている時点で、この政略結婚は不成立です。」

そうだよ。

芹香だって、望んでいなかった。

芹香は、親の決めた結婚なんて、嫌がっていたから。

「その後、信一郎君からぜひお嬢さんと交際させてくださいって、電話があったんだよ。」

うっ!信一郎さん、そんな電話してたの?

「まあ、中身は君だったようだが?普通に、芹香と付き合うと思うよな。」

それに関しては、何も言えない。

「当然、こちらとしては、政略結婚を進める訳だ。」

芹香のお父さんが言う事は、当たっている。
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