社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第16話 慰謝料

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芹香の言葉に、カーっとなった。

「おかしい?」

「別に。好きな人と結婚したいと思うのは、普通の事じゃん。」

芹香は、おつまみで足らないらしく、ビール3杯目を注文した。

「でも不思議だよね。礼奈が私の代わりにお見合いに行ってくれたから、二人は出会ったんだものね。」

「ふふふ。」

そう思うと、私も不思議に思えてくる。

「もし、私がそのままお見合いに行ってたら、礼奈と黒崎さん、交際する事はなかったんでしょ。」

「そうだよね。」


運命は、不思議な巡り合わせを、与えてくれる。

「あーあ。黒崎さん、相手が私でも、交際したのかな。」

その瞬間、胸がズキッとした。

「……そうかもしれない。」

だって、あの時信一郎さんが求めていたのは、沢井のお嬢様だったから。

「やだ、礼奈。そんな事ある訳ないでしょ。」

「そうかな。」

「礼奈だから、付き合った。それでいいじゃない。」

生ビールを飲む芹香は、そう言って私を励ましてくれた。


有難う、芹香。

私、芹香の友人でよかったと思うよ。


そして、その事件はこの週末に起きた。

工場の前に、立派な車が停まった。

一人のスーツを着た男性が、工場に入ってくる。


「森井さんのご主人は、いらっしゃいますか。」

「はい。」

代わりに迎えた私は、その人を見て、ハッとした。

「芹香の……お父さん……」

「ああ、礼奈さんというのは、君の事かな。」

「……はい。」

芹香のお父さんは、私の顔をじろじろと見て来た。

「君とお父さんに、話がある。」

「信一郎さんの事なら、お父さんは関係ありません。」

「あるでしょう。結婚は、家と家との結びつきだ。」

私は、ゴクンと息を飲んだ。

お父さんに、何を言う気なのだろう。


そんな私達の攻防戦を見て、お父さんがやってきた。

「ああ?おまえさん、あの金持ちの?」

「沢井です。今日はお嬢さんと信一郎君の事について、話があります。」

「信一郎君の事?」

私は、お父さんをもう一度、工場の中に入れた。

「実は信一郎さん、芹香と結婚する事になっていたの。」

「何だって?芹香ちゃんの?代わりに見合いに行っただけだろ?」

「それが、信一郎さんは芹香と付き合っていると思っていて。芹香のお父さんにも、そう言ってたのよ。」

「訳が分からねえ。」

私とお父さんの会話に、芹香のお父さんが入ってくる。

「訳が分からないのは、私も一緒です。ですから話を。」

お父さんは、私と顔を合わせると、家に芹香のお父さんを招いた。


「それで?信一郎君と芹香ちゃんが、何だって?」

お父さんは、座った途端に、質問し始めた。

「結婚を考えている仲だったんです。」

芹香のお父さんは、はっきりそう言った。

「なのに、横からそちらのお嬢さんがですね。」

「横取りしたって言うのか。」

「その通りです。」

お父さんは、ちらっと私の方を見た。

お父さん、ややこしい話で、ごめんなさい。


「大体、芹香ちゃんは信一郎君との見合いに、行ってないよ。」

「はあ?どういう事ですか?」

するとお父さんは、私の背中をドンと叩いた。

私に話をしろと言うらしい。

「あの……芹香から、代わりに見合いを断って欲しいと言われまして。」

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